看護師してて一番つらかったこと~せん妄について考える~
どうも、こんにちは。看護師E.です。
(今回は傷の画像があるのと、表現がなまなましいものがあります。苦手な方は読まないでください)
さて、私は割と楽しく日々看護師として働いておりまして、Twitterでもよく”熱く”看護を語っています。
が、10年看護師をしていて当然私も「看護師なんかやってられるか」「もうやめたい」って思ったこと多々ありまして
その中でワースト1位辛かったことを書きたいと思います。
患者さんに手を噛まれたが病院の大きな対応なし
もうこれが結論です。
Twitterでも以前、NHKの番組で”身体抑制”が話題になったときにtweetさせてただきました。
たくさんの反響をいただきました。
見てくださった方、ありがとうございます。
当時の状況
当時総合病院のHCUで勤務をしていました。
その病院は集中t治療が有名で、ICU入室患者は集中治療科が管理をしていました。
ICUでの治療を終えたあと一般病棟で管理ができない患者さんは、HCUに転出し、まだ集中治療管理が必要な患者さんは集中治療科、状態が改善して集中治療が不要な患者さんは総合内科や外科、心臓外科など各科に転科する流れになってました。
とある心臓外科術後、ICUでせん妄を発症した70代の患者さん。
長期ICUに滞在していたため外科的管理はすでに不要となり、HCU転出とともに(循環器)内科管理へ。(内科の患者さんはすべて総合内科がみて、そこから各科にコンサルトというシステムだった)
ICUでは終日デクスメデトミジンを投与されていたが、HCU転出とともにOFF。
HCUに転出した当日、日中はソワソワせず逆に傾眠がちで過ごし、その夜に私が受け持ち、事故がありました。
【時系列】
夜中2時ごろ。酸素2L で投与されていた患者さん。両目は失明。
SPO2低下のアラームがあり訪室し、カヌラが右耳から外れていることに気づく。
患者さんの左側から声をかけ酸素カヌラを装着する旨を説明し、私は右手で患者さんの右耳のカヌラを装着。
その時に私の手をつかみ、ガブ。。
~~私の脳内~~
”いたい‥‥ちょっと待てば外してくれるかも???”
(1分半経過)
”だめだ離してくれない・・・助けを呼ぼう” 涙ぽろぽろ
先輩に助けを求め、先輩もてんぱる。
先輩は素手で患者さんの口をこじ開け、私を救出。
その時に、先輩は一瞬患者さんに噛まれ指先に5mmほどの創を受傷。
これが事故当時の状況です。
私はそのまま救急外来で創部をブラシで洗浄してもらいました。(大人げなく大泣き)
朝は自分の血液で汚染された患者さんのマウスケアをしている私。
なんとも言えない気持ちになりました。とほほ。
創部の経過
【受傷後7時間】夜勤が終わってから外科外来受診し軟膏処置後
【受傷後13時間】
【受傷後5日】
【受傷後5年弱】 現在。よく火傷か聞かれます。
当然傷が残ったことも悲しかったですが、何より辛かったことがあります。
先輩本当にごめんなさい
私の創部はしっかり洗浄し、抗生剤を内服、破傷風の注射を3回して、無事に治癒しました。
しかし5mmほどの傷をおった先輩は、受傷後石鹸洗浄はしたものの創の中までは当然洗浄できず、感染。
受傷した指先の皮膚の皮がほとんど剥けました。
そして痛みでロキソニンやカロナールを飲み、肝機能悪化、そして全身に皮疹が出てしばらく仕事を休むことに。
自分ならまだしも、助けてくれた先輩が自分より辛い経験をしていることに、当時はとても辛く悲しかったのを覚えています。
病院の対応
夜間だったため、受傷直後に管理当直から事情を聞かれ、病棟師長に事情を聞かれ、それで終わりです。
その前にも大きな病院で働いたことがあったため、当然医療安全チームなどが動くかと思いましたが、全くありませんでした。
しかしHCUのせん妄や認知機能低下のある患者さんに関しては、集中治療科の医師が必ずラウンドをしてくれることになったから、それはありがたかったです。
今はどうなっているのか知りませんがね…。
傷の処置、軟膏、破傷風の外来は当然労災でしたが、傷を薄くする美容皮膚科のクリームは自費でした。
再度同じ事故がおきないような対策を練ってくれない病院側の対応にもやもやし、退職しています。
患者はおそらくせん妄だった
せん妄とは、脳機能障害が急性に発症し,精神状態の変化や変動、注意力障害、思考の混乱や意識レベルの変化がみられる症候群です。
若年層でも起こりますが、高齢者は特にせん妄になりやすいです。
せん妄の種類です。
幻覚や妄想,睡眠障害,精神運動異常および情緒の障害があります。
情緒の障害は急速で、情動は変化していきます。
ICU におけるせん妄の発症には、死亡率や認知機能などの長期的な予後の悪化も報告されており、予防や発症時の対応が必要です。
今思うと、私を噛んだ患者さんは混合型のせん妄を発症していたのではないかと推測されます。
”ICU入室中にせん妄で、デクスメデトミジンを投与されていました”
と聞いて、真っ先に過活動型を思い「HCUに出たからせん妄が落ち着いたのかな」と思っていた当時の私、浅はかすぎました。
米国クリティカルケア医学会(AmericanCollege of Critical Care Medicine)による集中治療室での疼痛、不穏、せん妄の管理のための臨床実践ガイドライン2013(Clinical PracticeGuidelines for the Management of Pain, Agitation,and Delirium in Adult Patients in the Intensive CareUnit 2013)ではICU での疼痛、不穏の管理を含むガイドラインで高く評価されたせん妄ケアをお示しします。
1.せん妄のモニタリング
2.早期に動かすこと(早期離床,リハビリテーションなど)
3.鎮静薬の定期使用の場合は日中は投与中断するか軽度鎮静管理
4.多職種チームアプローチ(教育研修,プロトコル,チェックのためのラウンドなど)
今回何がいけなかったか…
上記に沿って考察します。
その①モニタリングをしていなかった
今回の患者さんはICUではせん妄のモニタリングがされていましたが、HCUに転棟し、継続的なモニタリングができていませんでした。
せん妄のモニタリングとして、よく使われているのがICDSCとCAM-ICUです。
J-PADガイドライン(日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン)においても、せん妄管理にCAM-ICUやICDSCによる評価をルーチンで行うことを推奨しているので、とても重要だといえます。
【ICDSC】
【CAM-ICU】
ICDSCは患者の協力が不要で、数値でせん妄の具合を評価できるが各勤務帯での評価します。
CAM-ICUは”今”のせん妄の具合が評価できるが、評価方法が複雑で、患者の協力必須です。(微妙なせん妄の人に実施したら馬鹿にしてるのかと怒られたことがある。)
時と場合によって使い分ければよいですが、どちらを使うにしろ、病院内での評価の統一は必要だと思います。
その②離床がすすんでいなかった
長期ICU入室にて廃用が進み、まだ離床できていませんでした。
リハビリオーダーは入っていてベッド上では行っていました。(記憶が正しければ…)
その③鎮静管理は妥当だったか
HCU転棟の朝まで終始デクスメデトミジンが投与され、いきなり精神面に作用する薬剤がスパッと切られていました。
混同型のせん妄で、傾眠がちな時に鎮静薬はなんとなく使いにくいかと思います。
その場合には不穏時指示のリスパダールなど抗精神病薬を投薬し、せん妄をコントロールしても良かったかな…と思います。
その④多職種アプローチ
医師、看護師、リハビリセラピストが各々介入し、連携がとれていたかと言われると、転棟した直後だったため、効果的な多職種介入はできていなかったように思います。
その他原因⑤:私の関わりかがダメだった?
ただでさえせん妄で混乱状態にあった患者さん。
それに加え、夜間寝ているところを起こしてしまった、そして患者さん自身失明にて外部の状況を判断しにくかった、そんな中私が説明をしたとはいえ触ってしまったことに恐怖感などあったのではないかと推測されます。
その他原因⑥:しっかり申し送りがされていた?
あとから聞いた話では、集中治療科から内科への引継ぎ時に特にせん妄についての申し送りはされていなかったそうです。(※カルテには記載あり)
看護師間の申し送りでは、日勤の看護師はICU看護師から
”ICU入室中にせん妄で、デクスメデトミジンを投与されていました”とあったそうですが、前述したように患者さん自身が傾眠だったため、特処しなかったそうです。
せん妄は予後を悪くする
せん妄による生存率の低下(カプラン・マイヤー曲線による分析)です。
せん妄になると、安静が保てなかったりデバイス類の計画外抜去があったりと治療が計画通りに進まないことが多いです。
それらを予防するために鎮静薬を使用し、そうすると経口摂取も遅れ、筋力低下し、サルコペニア・フレイル一直線になります。
さらに近年、せん妄はPICS-Fの原因ともいわれています。
PICS-F
PICSとはPost-Intensive Care Syndromeの略で、悪化した身体機能、認知機能、メンタルヘルス障害の総称をいいます。
それに-F(family)がついたものは、重症疾患を患った患者の家族に起こるメンタルヘルスの障害のことをさします。
PICS-Fは2010年の米国集中治療医学会で提唱されたまだまだ新しい概念です。
PICS(-F)は
(1)患者の疾患および重症度
(2)医療・ケア介入
(3)ICU在室中の環境(アラーム音や光など)
(4)患者のストレスや自分の疾患、経済的な不安や家族のことなどの精神的要因
が影響すると言われています。
具体的には認知症やせん妄、鎮静、低血糖、敗血症、ICU-AWなどです。(具体的には割愛)
というか、あの患者さんはPICSだったんじゃないか👀
ABCDEFGHバンドル
従来、人工呼吸や鎮静によって起きる有害事象、せん妄やICU-AWの予防策を組み合わせた管理指針として、ABCDEバンドルがありました。
そこからPICS予防としてFGHが追加されました。
G:良好な申し送り が大切なのが書いてあります。
これは他施設だけでなく、院内でも重要です。
私の事例では、明らかに申し送りが不足していたように、今になって思います。
患者さんをせん妄にさせない、しかしいざせん妄になってしまったら
せん妄予防は皆さんご存じだと思うので省略。
あと自分や周りの人の見を守るために受傷してから、色々な研修を受講しました。
認知症ケア方法のユマニチュードやCVPPP(シーブイトリプルピー)です。
これらの研修を受けたあと思うのは、噛まれながら我慢したり、噛まれているところに素手で対応とか絶対やってはいけません。
最後に
めちゃくちゃ盛沢山なnoteになってしまった。。
私は自分が患者さんに噛まれてから、同じような経験をする医療スタッフを増やしたくない、ただその気持ちだけで、今でもせん妄予防に力をいれています。
そして、噛みたくて噛んだんじゃない患者さんもかわいそうだな~とも思います。
せん妄予防は一人ではできません。
今後も自身の経験を伝播し、
病棟全体で患者さんについてアセスメントを行い、適切な介入をしていきたいです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?