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第167回日商簿記検定1級 工業簿記・原価計算 雑感


第167回日商簿記検定1級を受験された皆様、お疲れ様でした。
現在、ネットスクールでは特設サイトにて解答速報や講評動画、解説動画を配信中です。

https://www.net-school.co.jp/event/nis/kaitou/

試験当日(6月9日)は、14:30から配信した『講評会』という名で問題の感想や難易度などをお話していたり、解説動画などもYouTubeで公開していますが、改めてnoteでも、今回の工業簿記・原価計算の問題で感じたこと、思ったことを簡単に書き記しておきたいと思います。
受験された皆さん、これから日商簿記検定1級を受験予定の皆さんにとって、何か1つでもヒントや気づきがあれば、幸いです。

第167回日商簿記1級本試験に関する動画

工業簿記

全体的な難易度・感想

  • 今回の試験問題の問題は、出庫表や作業日報の要約表などの大量のデータから必要なデータを拾って集計することが求められる問題で、難易度の評価という概念で語るのがなかなか難しいのが本音です。
    どちらかというと「とにかく面倒・大変」という感じの問題だったと思います。

  • きちんとデータを集計する気になれば、とにかく集計したとおりに計算すれば良いところも多いため、計算そのものは易しめで、必要とする知識もそれほど多くない問題でした。

  • ただ、あの分量のデータを本試験で見て平常心でいること自体が難しいですし、試験本番の緊張感の中で、1つのミスも許されない集計を数多く行うのは、非常に大変だったのではないでしょうか。

  • 講評で「人間Excelになることが求められる」と書きましたが、実務ではExcelのLOOKUP関数を使えばパパッと処理できるものをあの分量、本試験で受験生にやらせるのはいかがなものだろうというのが正直な感想です。

  • 原価計算の流れや帳票の理解を求められているのは分かりますが、あそこまでデータ量がなくても、その理解度は十分に測れたのではないかと思いますし、その分、もっと別のことも問うていいのではないかとも思った問題でした。

細かい話

  • 出庫表一覧も、作業日報要約表も、製造実績も、各日付の出庫量や作業時間などの数値がすべて同じだったのは、作問者の配慮だったのではないかと思います。おかげで、解説動画でもお話しましたが、出現回数さえ"正"の字などで数えられたら、比較的簡単に集計できるようになっていました。

  • ただ、その配慮が資料などで明示されていないのはとても不思議でした。材料に関しても、材料と各組製品が1対1で関連付けられていることをあらかじめ言ってもらえればなぁ…と思いました。

  • 材料勘定に間接材料費になるものを含めるのか、それとも、資料にある材料元帳を統制したものなのか、確かに悩ましいところでした。個人的には、ここまで大量の資料を掲載しておきながら、補助材料などの間接材料費の項目だけ「材料元帳として問題の資料には示していないけど、実は存在しているから集計してね」というのもどうなんだろうと思っています。

※追記(2024/6/11)
講評会か解答速報会か忘れてしまいましたが、YouTubeのチャットで「Excelを使わせてくれと思った」という書き込みがあり、私もそのとおりだと思っていたので、本当にExcelを使ったらどんな感じになるのか、本番の問題に限りなく似せたダミーデータで検証した動画をX(Twitter)にポストしてみました。
よかったら、こちらもご覧ください。



原価計算

全体的な難易度・感想

  • 今回の試験問題の問題は、第1問が予算統制(予算実績差異分析)、第2問が最適セールス・ミックス(線形計画法)の問題でした。

  • 第1問の予算実績差異分析の問題は、パッと見のボリュームが少なく、比較的簡単に解けそうなのにも関わらず、いざ解こうとすると、単価や販売数に関する資料がほとんど明示されておらず、その点で苦戦した受験生が多いのではないかと思います。単価と販売数が導き出せれば、計算そのものは易しい問題でした。

  • 第2問の最適セールス・ミックスの問題は、資料が「よくある線形計画法の問題」ということで、特に問1は「易しい問題」とも言える問題でしたから、確実に正解しておきたい設問でした。問2・3はちょっと応用力が問われる問題でしたが、他の問題も解きづらいと感じた方も多いでしょうから、いずれか1問だけでも正解しておきたい問題と言えたのではないでしょうか。

第1問の細かい話

  • 直接標準原価計算の原価標準には変動販売費も含めるという考え方もありますが、今回、原価標準@150円に変動販売費が含まれていると解釈すると、「※変動売上原価の予算編成には原価標準を使用している。」という注釈と矛盾が生じたり、資料の原価差異が計算できなかったりと不都合が生じるので、今回の原価標準は変動製造原価のみが対象になっていると読み取る必要がありました。

  • 実績P/Lの変動売上原価 5,303,000円が「標準売上原価±標準原価差異」であると読み取るのが難しいと感じた方もいらっしゃるかもしれませんが、標準原価差異の扱いとしては基本的な事項であり、ここをカギに推定をさせる問題というのは、(受験生からすると意地悪に感じたかもしれませんが)計算の本質的な理解を問うという意味では、良い推定だったのかなと思っています。

  • これ見よがしに載っている市場占有率のデータから、「市場占有率差異と市場総需要量差異の分析」があるのはピンと来たのではないでしょうか。そこに気づけると、今度は「予算よりも実績のほうが市場占有率が高い」というところから、「市場占有率差異は有利差異だから、空欄⑩が市場占有率差異だな」というところまで予想できた方は、文脈を読み取る力が相当高い方だと思います。

第2問の細かい話

  • 第2問の線形計画法の問題ですが、定規が使えない日商簿記検定では、正確なグラフを描くのが困難であることを念頭に解く必要があります。

  • グラフを描かない(もしくは、正確なグラフを描くことを諦める)ことを前提にすると、制約条件式や目的関数の傾きを利用して解くのが実践的です。その方法で問1と問3は解答可能です。

  • 問2はグラフを描くことができると、最初に求めた組み合わせが可能領域外であることにすぐ気付くのですが、グラフを描かないとなると、きちんと数字を見ないと見落としてしまいがちです。ただ、本問のような最適セールス・ミックスの問題だけでなく、受注可否の意思決定や設備投資に関する意思決定でも、「生産能力で対応できるのか」「需要に見合った数量か」ということは気にしておかないと解けない問題も多いので、今回の問題で見落としてしまった方は、今後気をつけましょう。
    (実際のビジネスでも、売れない量を作ったり、現時点のマンパワーを無視した決定は避けないといけないですしね。)


今回の問題は、全体的に見て「難しい計算をさせられる」とか「重要度の低い知識が問われる」という面はないのですが、その反面、大量のデータ集計が必要だったり、取っ掛かりの数値が推定できないと解き進められなかったりして、時間配分や解答順の考慮が難しかったのではないでしょうか。

一朝一夕に身につくものではないかもしれませんが、「限られた時間内で自分の評価を最大限上げるためにはどうするのか」を考える能力は、これまた簿記とは関係なく必要なものでもあります。
こういう能力が高い人は、端から見ると"小賢しい人"のようにも思われるかもしれず、真面目な方は同じように動けないかもしれませんが、試験合格のためには、ちょっとこうした小賢しさが必要な場面もあります。

生真面目な方が不利になるような状況を見るのも忍びないところもありますが、試験とはそういう面もあるということも、認識しないといけないのだと、改めて感じたような問題だとも思いました。

以上、取り留めのない内容だったかもしれませんが、講師の独り言だと思って、読んで頂けましたら幸いです。

試験直後の記憶が残っているうちに、第167回日商簿記日商簿記1級の工業簿記・原価計算の問題を実際に解いてみて、また、解説動画を撮影してみて感じたことや気づいたこと、できれば受験生の皆さんにお伝えしたいことをパパッと書いてみました。

第167回の試験を終え、また次なるステップをお考えの方も多いかと思います。
ネットスクールでは、これから様々な講座の無料説明会を配信予定なので、よろしければぜひご覧下さい。

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