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第215回全経簿記上級 原価計算・管理会計 雑感

第215回全経簿記上級試験を受験された皆様、お疲れ様でした。
現在、ネットスクールでは特設サイトにて解答速報や講評動画、解説動画を配信中です。

https://www.net-school.co.jp/event/zenk/kaitou/

また、試験当日の夜に収録・公開した解説動画でもいろいろとしゃべっていますが、改めてnoteでも、今回の原価計算・管理会計の問題で感じたこと、思ったことを簡単に書き記しておきたいと思います。何かヒントになるものでもあれば幸いです。

(補足)科目名の変更について

今年度から、全経簿記能力検定試験の科目名が全級にわたって見直され、その影響で上級の試験も
 ・商業簿記→商業簿記(そのまま)
 ・会計学→財務会計
 ・工業簿記→原価計算
 ・原価計算→管理会計
となることが案内されていました。

上級試験については、出題内容(範囲)の変更はなく、実質的な中身は前年度と変わらないというアナウンスがありましたら、そのアナウンス通り、科目名は変わったものの、実質的な出題傾向や出題内容自体は特段変わった印象は無い問題でした。

「原価計算」の指す科目が変わっているのがややこしいところですが、この傾向が今後も続くと考えると、科目名の変更に関して何か特別に気にしないといけないことはなさそうです。

原価計算(前回までの工業簿記)

※YouTubeで配信している解説動画はこちら。
https://youtu.be/qLtwa2jqC4w?si=AU9NBQXsNIpzewmx

問題1

問題1は工程別の標準原価計算に関する問題でした。

問題文の冒頭を読んで、一見すると実際総合原価計算(累加法による工程別総合原価計算)の内容かと思いそうですが、<資料>2に原価標準が書かれているので、そこで標準原価計算の内容だと気づけたのではないでしょうか。

問題自体はそれほどひねったり、ボリュームが多すぎたり、少なすぎたりすることもなく、平均的な難易度のといっていい問題だったのではないでしょうか。

ただ、受験生が引っかかりそうなポイントとして以下のような点が挙げられる可と思います。

  • 進捗に応じて(平均的に)投入されるY材料の取扱い

  • 第1工程の完成品2単位が第2工程で1個として扱われる点

  • 加工費の差異分析(特に固定加工費予算差異と、能率差異・操業度差異の関係)

特に3つ目の加工費差異の分析は、問題文に「解答用紙に示す」と書かれているとおり、解答用紙の記入欄から分析の方法を判断する必要があった点が、少し難しく感じるポイントだったかもしれません。
ただ、このように解答用紙(答案用紙)の記入欄から計算方法を推定するということは、全経簿記上級でも日商簿記1級でも、ちょこちょこ求められるものなので、解答用紙の記載も意識できるようにしておきましょう。


問題2

問題2は本社工場会計に関する問題でした。

ノーマークだった受験生も多かったかもしれませんが、仕訳に関して言えば、それほど難しい取引はなく、商業簿記の本支店会計の知識も思い出しながら解けば、それほど苦戦しなかったのではないかと思います。

今回、本社勘定・工場勘定以外の勘定に関しての勘定科目の指定はありませんでしたので、例えば『本社売上』を『本社へ売上』のように別の科目で解答しても、(第三者が見て正しく解釈できる科目であれば)正答扱いになるのではないかと思われます。

なお、問4と問5では記述式の理論問題が出題されました。問4の工場会計を独立させる理由の中に「工場の利益で工場の業績を評価するため」のような解答をしても良かったのですが、それだと問5で問われている、利益を付けて振替価格を設定する理由と重複してしまうので、解答速報で公開している解答には、問4で利益のことは敢えて触れないようにしています。

ただ、もし問4で工場利益のことに触れても間違いとは言えないでしょうから、その辺りは採点にあたって内容の妥当性をしっかり見てもらえるものと思われます。

管理会計(前回までの原価計算)

※YouTubeで配信している解説動画はこちら
https://youtu.be/GTIxv1ZG3eU?si=I3QNr7_vByphWrCo

問題1

問題1は予算実績差異分析に関する問題でした。

製品が2つ登場しているので、一見するとセールス・ミックス差異等の分析も登場するかと思いきや、2つの製品はそれぞれ別の市場で販売されているので、市場総需要量差異・市場占有率差異の分析を製品2つ分行う必要がある問題でした。

似たような差異分析の計算を2回行う必要がありましたが、計算自体もそれほど難しいものではありませんでしたので、(問5までは)総額分析(項目別分析)であることにさえ気をつければ、比較的高得点が狙える、解きやすい問題だったのではないでしょうか。

なお、問7の「貢献利益差異」については、この問題独特の表現だと思われ、私も解答速報を作成する際にちょっと戸惑いましたが、その直後に括弧書きで「数量差異による影響を除いた部分」とあることから、貢献利益の差異のうち、販売価格の差異と単位あたり変動費の差異の金額を求めればよいと判断することになります。

また、問8については、解答できた受験生はそれほど多くないと思いますので、書けなくても合否には大きな影響はないのでは無いかと思います。

問題2

問題2は設備投資の意思決定に関する内容が出題されました。

問題文の分量(資料・解答箇所)が少なめであるため、一見すると易しめに見える問題でしたが、特に2点、受験生が引っかかりそうなポイントがあり、その結果、大量失点してしまう可能性もあったため、パッと見の印象よりも正答率は低いものと思われます。

引っ掛かりやすい点の1つは、旧設備の売却損や教育・訓練費に係る税金の影響額の取り扱いです。
取替時に税金の影響も反映してしまうパターンが多いのですが、本問は「第1年度期首」における意思決定が問われていることが問題文で明らかにされているのに対し、税金の影響については<資料>7の後半で「各年度の期末に生じるもの」とだけ書かれており、取替時に生じる税金の影響に関する例外等の指示が書かれていません。
そのため、第1年度期首に生じた税金の影響も第1年度の期末、つまり取替時の1年後のキャッシュ・フローとして取り扱う必要があります。

もう1つの引っ掛かりポイントは、労務費の削減などによって節約されるキャッシュ・フローの金額の算定です。
<資料>6において、取替によって「税引前利益が現在までの800万円から1,700万円に増加する」と書かれているため、この差額の900万円が労務費の削減額と早とちりしてしまいそうですが(事実、私も焦ってそういう早とちりをしてしまいました…)、税引前利益は減価償却費も差し引いたあとの利益のはずですから、旧設備と新設備の減価償却費の違いも考慮に入れなければなりません。
取り替えによって毎年の減価償却費が500万円増加するため、それでも税引前利益が900万円増加するということは、労務費の削減などは1,400万円のはずだと考えて計算する必要がありました。

この辺りで引っかからずに落ち着いて解けたか否かで、点数が大きく異なるのではないかと思われます。

問題3

問題3は、マテリアルフローコスト会計に関する基本的な理解を問う空欄比重問題でした。

おそらくほとんどの方がノーマークだったと思うので、正答率はかなり低いと思われます。
そのため、出来なくても合否にはほとんど影響は無く、むしろ「えっ、何これ!?」と思って動揺してしまったり、無理に答えようとして時間を使ってしまうほうがマズいかもしれません。
とはいえ、「こんなの知らないよ」と思った方は特に不安に感じる必要性はありませんので、その点はご安心ください。

なお、一応補足をしておくと、マテリアルフローコスト会計(MFCA)は環境問題への意識と利益の獲得を両立するために提唱された考え方で、試験対策上の優先順位はそれほど高くないですが、昨今の状況を考えると、とても大切な考え方でもあります。

日本MFCA(マテリアルフローコスト会計)フォーラムという組織もあるようなので、興味がある方は、(試験の合格後になるかもしれませんが)試験対策とは別に勉強してみても、面白いかと思います。


ざっと今回の試験で感じたことを文章でつらつらと書き並べてみました。
読みにくい点、分かりにくい点があれば、ご容赦ください。

今回、3連休の中日の受験ということで、世の中の連休ムードとの戦いでもあったかと思います。
また、試験の直前に急な酷暑となったのも大変だったのではないでしょうか。

その中でもしっかり勉強して試験に挑んだのは、きっとこの先の糧になるのではないかと思います。

また、このあとに税理士試験や日商簿記1級試験を控えている、または今後目指したいという方もいらっしゃるかもしれません。
そういう方は、今回の試験を踏まえて、次のステップに向けて1歩踏み出していただければと思います。

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