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旦那が退職代行を使ってブラックを辞めた話

今年の2月末、旦那が退職代行を使って仕事を辞めた。
「退職代行」で検索すると実際使って辞めた人の話には全然辿り着けない。退職代行の会社の宣伝ばっかり出てくる。こちとら実際使った人の具体的なエピソードが知りたいのに、と当時私は思っていたので実際使ってからしばらく経って落ち着いたら自分が書くと決めていた。
以下ほぼノンフィクションではあるが、本当のことを書きすぎると特定されてもう関係ないのに攻撃される可能性もなきにしもあらずなので、ぼかしが入ることを許して欲しい。それくらいブラック企業はヤバいのだ。

旦那がブラックに就職したのは五.六年くらい前だった。前の記事に書いたが旦那と知り合った時、旦那はコンビニの店長をしていた。だが、それだけでは到底お互い結婚なんてできないと思っていてどうにかこうにか転職して、良ければ正社員……と二人で模索していた数年があった。
その頃にコンビニで一緒に働いていたパートの人からある人を紹介された。会社を立ち上げたけど人手が足りないから働かないかと誘われたらしい。私の情報が曖昧なのは、実際全て曖昧な会社だったからだ。前々職と言っていいのかも分からない、いざ働き始めても福利厚生の話もなければ言われた給料日に給料振り込めないとかが多過ぎて、怪しさしかなかった。旦那は一応そこに在籍はしていた。怪しさ満点何をしてるか私には分からない仕事をしている最中に取引相手だった人に「良かったら一緒に働かないか」と声をかけられた。それがブラック企業の社長だと、瞬時に見抜ける人などいない。しかも今のところ怪しさしかない職場にいるもんで、旦那と二人で「ラッキー」くらいにしか考えてなかった。

最初の一、二年のことをあまり覚えいないのは「この業界はこんなものなのか」と思っていたからだと思う。よく「ブラックで勤めている人は自分がブラックにいることに気づかない」言うが本当にそうなのだ。あと「ブラックは給料が悪いのにこき使われる」みたいなイメージがあるが、旦那の収入は普通だった。というか当時はあの仕事量で普通だと思っていた。「少し休み少ないけどちゃんとお金はもらってるし社保にも入れてるし」とかなあなあで三年目くらいに突入した。
因みにあの頃「普通だ」と思っていた給料は、今考えると全然普通じゃない。もっともらえておかしくなかった。毎日8時間サービス残業してたんだから。

ブラックにいたとばかり書いても「実際のところどこらへんがブラックだったの?」と思われると思うので箇条書きで補足をつけたそうと思う。
・一年間の半分以上の休みは日曜日だけ
たまにオフシーズンで急に一週間休みとかあるが、それと天秤にかけても一年間の圧倒的に休みが少ない。更に繁忙期に入ると、日曜休みすらなくなる。二ヶ月無休とか当たり前、一ヶ月に一度休みがあればいい方だった。
・ありえない労働時間
基本的に8時には会社に着いていて、就業時間は変則的。オフシーズンは19時くらいには家に帰ってきていたが、繁忙期の帰宅時間は大体22時とか23時。そして6時には起きて出社。現場仕事もあったせいで、たまに出勤が朝の3時とかあった。朝の3時に行っても、帰ってくるのは23時ごろ。たまに会社に泊まって帰宅することすら出来ないこともあった。とんでもない一例を紹介すると、朝の6時に家を出る、そのまま夜勤に突入、家に帰ってくるのは朝の5時。そこからまた普通に6時に出勤。
ほぼ24時間労働だ。よく体を壊さなかったなぁと思う。
・社内のものすごいパワハラ
これに関しては私は旦那から聞いた話なので、本当なのか分からないがそんな意味わからない嘘をつくわけないと思うので本当だったんだと思う。まず、気に入らないことがあると上司がモノに当たって社内はめちゃくちゃ。たまにものすごく機嫌が悪いと社員に手を出す。私に心配をかけないようにと旦那は私にこの話を、辞める直前までしなかった。ついでに、うちは別に会社に何か恩があるとか金を借りているとか一切なかったのに「借用書」を書かされたらしい。なんの借用書なのかというと「働かせてもらって給料をもらっているので、辞める時にはお金を払います」というものだったらしい。全然理解不能だがブラックに理解を求めてはいけない。

特にひどいと思ったのは、コロナ禍で旦那がコロナになった時だった。どれだけ高熱が出ても絶対に休ませてくれないのを見かねて、私は旦那のかかりつけ病院に電話した。余談だが旦那は完治しない脳の病気を持っていて、通院と投薬治療をしている。
状況を説明すると「まず仕事を休んで発熱外来の予約を……」と言われて「仕事休めないんです」と言ったら「いやでも仕事休まなきゃいけないんじゃないんですか?」と言われて「仕事休ませてもらえません」と言い張った。コロナ禍真っ只中で、熱が38度以上出ているのに「仕事休んでいいよ」と言わない会社が世の中にはあります。
幸いかかりつけ医だったので、時間外で診てもらえた。案の定コロナ陽性だったので、流石に会社にそれを伝えたらその時は保健所の指導のもと五日間だかは出勤しなくていいと言われた。
二日後くらいから「今日の具合は?いつから仕事できる?」と一日二回電話がかかってくるようになった。毎日毎日かかってくるその電話に、旦那はメンタルをやられてコロナになって一週間も経たず仕事に行くことになった。

この頃、一度旦那から「仕事を辞めていいか」と言われた。私は咄嗟に「急に辞められるのは生活が困る」と言ってしまった、後ですごい後悔した。劣悪な職場環境に五年もいて、初めて辞めていいか嫁に聞いたら「今は辞めるな」は酷すぎる。旦那がブラックでも働き続けていたのは、私との生活のためそれだけだった。なので嫁に辞めないでと言われるなら辞めずに働くしかない。

そして五年目の繁忙期、繁忙期繁忙期と言っているが長年その「繁忙期」が長くなっていると思っていたし、旦那はブラックにいる間に40代になったし、いつ倒れてもおかしくない労働時間に旦那より先に私が心労でおかしくなった。
当時私も心を壊して休職していたが、旦那がそんな状態だと休職していても全然休んだ気にならないしその頃から今度は私が「仕事辞めないか」と持ちかけるようになった。でも旦那から辞めるという話をしてくれなかったので、私は何もできなかった。意味のわからない借用書もあるし、自分が辞めると生活が困る、少しくらい我慢すればといった感じだったんだろうが当時正月の三日間の休みが終わって無事無休80日目くらいに突入していた。労働時間は一日大体16時間程の80日間だ。
どうすればいいか私は分からなかったが、旦那から「退職代行使うか」と提案された。

退職代行サービス、聞いたことはあったがそんな他人にお金出して代理で仕事を辞める意思を伝えるなんて誰が使うんだよと思っていたし頭の片隅にもなかった。が、もう今の状況はこちらからお金を払ってでも辞めなければいけないという状況まできていた。
休職中で時間がある私が代わりに色々調べて手続きをした。退職代行で調べると色んな会社が出てくる、社会の闇だ。民間、労働組合、弁護士と様々で値段はピンキリだった。民間だと安くて一万円程度、弁護士で五万円程度だった。迷わず弁護士にした。
依頼料が高くても、相手が相手だった。辞めたいことを言い出せないんじゃない、絶対に辞めさせてくれないブラックに対してはもう法律の力で守ってもらうしかない。ギリギリ電話が繋がる時間に帰ってきた旦那に直接電話して依頼をかけて、その後は全てLINEでやりとりをした。
依頼料を支払うと「じゃあ明日から行かなくていいですよ」と弁護士から言われた。今の今まで、コロナになってまで行かなければならなかった仕事に対して突然行かなくていいよ、は当然だが不安が残った。が、もうこっちは弁護士を雇っている。もう何かあれば弁護士に丸投げしようって感じで、本当に仕事に行かなかったら旦那に鬼のように電話がかかってきた。弁護士からは「諸々の手続きは全てこっちがやるから今後一切やり取りする必要はない、既に内容証明は送っている」と言われていたので、会社関係の番号を全部着信拒否して非通知設定の電話も拒否した。
当然辞めたら辞めたで再就職しなければいけないので、離職票とか送ってもらわなきゃいけないし保険証とか返すものもあったがそれも全部弁護士にやってもらった。
ブラックが最後まで怖いなあと思ったのは、弁護士がかけた最初の「もう〇〇さん仕事辞めました。内容証明も送ってるので指示に従ってください」という電話はわけもわからず取っているのに、それ以降弁護士からの電話をとらないようにしていたことだ。当たり前だが会社が悪い、社労士も雇っている弁護士事務所だったので労基にタレ込まれるともう全部アウトだ。ブラックは投げられるところまで逃げようとしていた。
弁護士が社長のプライベート携帯に連絡してようやく繋がった。あと弁護士に意味がわからない借用書を書かされた話もしたが「法律違反なので無視して下さい」と言われた。パワハラが凄かったから嫌がらせとかあるかもと相談したら「警察呼んでいいですよ」と諭された、何もかも弁護士パワー強い。民間に頼んだら借用書が云々言われていたかもしれない。
繋がったら繋がったで会社の鍵とか会社名義の携帯を返せと言われたので、お返しした。そしてしばらく経って離職票が送られてきた。

そこから交渉次第で今まで支払われなかったサービス残業代だの退職金だとぶんどることもできたが、こちらとしてはもうブラックと縁が切れただけで良かった。まだお金の件で繋がってるのが嫌すぎてそういう交渉はしなかった。

お金の件で繋がってるのが嫌だったのもあるが、もう一つ強みがあった。
ブラックには社員が五人ほどしかおらず、到底その人数でできる仕事量ではなかったためみんなサービス残業をするしかなかった。ので、旦那が一人いなくなったら当然仕事が滞る。私は旦那はもう何年も頑張ったので、数ヶ月は休みを与えようと思っていたのだが辞めて二週間後くらいに、ブラックの時にお世話になっていたらしい別会社の人から「最近納期が全然守られていないけどどうしたの?」と旦那に連絡がきた。そこで弁護士に頼って退職代行使ってまで辞めた話をしたら、そこの会社からうちで働きなよと声をかけてもらった。現状、今旦那はこの時声をかけてもらった会社で正規雇用で働いている。

しかしブラックに入った時もスカウトみたいなものだったし、今回も似ていたので私はめちゃくちゃ調べたし、雇用契約を隅々まで読んだ。今の会社は全国に支社があるものの転勤などはない。土日祝は休みで稀に休日に出勤の場合は手当が出る。今のところサービス残業なんてものはない。
研修期間を経て正規雇用になった時の手取りがブラックで16時間働いてほぼ無休だった頃よりも全然多い。ブラックの時に「まあでもお金はもらってるし」と思っていた額は、土日祝休み8時間労働の仕事より安かった。

「ブラック企業の人が自分のところがブラックだと気づかない」は本当だし「辞めればいいじゃん」で「簡単に辞められない」は本当だ。そして退職代行を使うと明日から自由、も本当だった。民間の退職代行を使っていないのでそこは分からないが、相手が悪質なら高くても弁護士に守ってもらうのが一番だと思う。ブラックは基本労働基準法を守っていないからブラックなのであって、そこを突かれるのが一番ヤバいんだと思う。
「ここを辞めたら次どこで働けるか分からない」という不安があるのももちろん分かるし、それを思ったが故私も「辞められたら困る」とか言ってしまった。
結果どうとでもなった。旦那が今の会社の人に声をかけてもらえたのはとても運が良かったとは思うが、辞めることを決めた時はハロワの手続きとかも進めていたし、私は少しでも旦那に自由な時間を与えるために貯金を崩す気だった。

辞めたいのに辞めさせてもらえない会社は本当にあるので、今回は退職代行使って会社と何の連絡も取らず辞められて良かったが本当は退職代行なんて使わずに仕事を辞められるのが一番です。


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