安心・安全なメタバースの実現に関する研究会報告書2024のまとめ

 日本の各省庁においては様々な政策研究会が開かれ、今後の政策が議論されています。そうした議論を経て研究会の考えが報告書としてまとめられます。しかし、報告書として公表されるものの中には、広く一般には報道されないものも多数あります。ここではそうした報告書を紹介していきます。今回は2024年10月に公表された安心・安全なメタバースの実現に関する研究会報告書を取り上げます。


1.はじめに

 この報告書は、 総務省 が2023年10月から2024年10月にかけて開催した「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会」での議論をまとめたものです。この内容を要約しました。

2.エクゼクティブサマリ

 メタバースという新しいデジタル空間が社会に浸透していく中で、その 健全な発展とユーザの安心・安全の確保を目指すための指針を示すことを目的として作成されています。メタバースの急速な発展と課題を示し、課題に対して適切に対処しなければ、メタバースは 民主的価値を損ない、社会に悪影響を及ぼす可能性を述べた後、安心・安全なメタバース実現に向けた取り組みとして、メタバースの原則(第1.0版) を策定し、メタバース関連サービス提供者が取り組むべき指針が示されています。これによって、メタバースにおける民主的価値の実現とユーザの安心・安全の確保を目指すことが示されています。
 続いて、VR/AR技術の進化や生成AI を活用した新たなサービスやコンテンツが創出によって生じる新たな課題や倫理的な問題、社会への影響についても考慮が必要であることに言及されています。これに対処すべく、継続的な調査研究や多様なステークホルダーによる議論が不可欠であるとされています。
 こうした内容を踏まえ、メタバースの未来は、技術を使う人間社会の努力 にかかっており、メタバース関連サービス提供者だけでなく、国、ユーザ、研究者など、全てのステークホルダーが責任を持って取り組むことで、安心・安全で、かつ民主的な価値を実現するメタバースを築き上げていくことが重要であると結ばれています。

3.背景

 メタバースをめぐる最近の動向として、市場動向、国内外の政策動向、国際的な議論の状況がまとめられています。
 世界市場は2030年には5,078億ドルに達すると予測されており、eコマース、ゲーム、ヘルス&フィットネス等の分野での成長が見込まれます。 一方で、 一般消費者向け市場は停滞気味 で、 産業応用(インダストリアルメタバース)に注目が集まっています。
 日本政府はメタバースについて知的財産戦略や情報流通の健全性確保といった観点から検討を進めています。また、業界団体 においても、セキュリティガイドライン や リテラシー向上のためのガイドブック などの策定が進められています。
 米国では議会や政府機関がメタバースに関する調査や政策検討を進めています。EUでは競争や倫理の観点から検討が進められています。英国ではオンライン安全法の制定やインダストリアルメタバースの活用が進められています。中国では産業振興を目的とした政策が展開されています。韓国では国家戦略や倫理原則の策定、規制改革など包括的な政策が進められています。
 国際的な議論として、G7やWEFなどの場、民主的価値に基づくメタバースの発展や情報流通の健全性確保について議論されています。また、国際的な法執行機関もメタバースにおける課題に関心を示しています。
 こうした背景を踏まえ、メタバースにおける民主的価値の主な要素を示した上で、これを実現するため、仮想空間そのものの提供を担うメタバース関連サービス提供者が果たす役割が特に重要であることに注目して、メタバース関連サービス提供者の取組として期待される項目に関する原則について検討しました。

4.メタバースの原則(第1.0版)の検討

 メタバースにおける民主的価値を実現するための原則について検討し、その内容をメタバースの原則(第1.0版)としてまとめました。 メタバース関連サービス提供者(プラットフォーマーおよびワールド提供者)が取り組むべき原則として、以下の2つの柱で構成されています。
 一つ目は社会と連携しながら更なるメタバースにおける自主・自律的な発展を目指すための原則です。この原則には、『オープン性・イノベーション』、『多様性・包摂性』、『リテラシー』、『コミュニティ』という視点からの期待が示されています。
 二つ目はメタバース自体の信頼性向上のために必要な原則です。この原則には、『透明性・説明性』、『アカウンタビリティ』、『プライバシーへの配慮』、『セキュリティ確保』といったメタバースへの信頼性を向上させるために必要な取組が示されています。

5.メタバースに関する技術動向等

 VR/AR デバイスの動向やメタバースの利活用を促進する技術について解説がされています。
 VR/AR デバイス は高性能化・低価格化が進んでいること、没入感の高い体験を提供できるデバイスであることが示されています。
 メタバースの利活用の促進について、アバター操作技術の進化により、 より直感的で自然な操作が可能になりつつあること、フォトリアルなアバター の構築や物理空間と仮想空間の橋渡しとなる技術の進展により、実世界での活動が飛躍的に拡大する可能性があることについて示されています。

6.メタバースに関する様々な利活用事例

  メタバースと生成AIの連携およびメタバースを利活用する上での課題解決 に関わる事例が示されています。
 一つ目に、メタバースと生成AIの連携について示されています。生成AIを活用することで、NPCやAIアバターとの自然な対話が可能になり、メタバース上での顧客接点の創出やコンテンツ制作の効率化が期待されることが示されています。産業応用の分野においては、設計情報等の提示や意思決定の迅速化に貢献することが示されています。
 続いて、メタバースを利活用する上での課題解決について示されています。セキュリティガイドラインの策定やメタバース・リテラシー向上のためのガイドブックの公表、青少年向けの啓発活動など、安心・安全なメタバースの利活用に向けた取り組みが進められていることが示されています。

7.今後の検討事項

 今後の検討事項として、 国際的な共通認識の醸成やリアルとバーチャルの融合に伴う課題等について整理し、その結果が示されています。
 メタバースの原則(第1.0版)を基に、国際的な議論を喚起し、共通認識の形成に向けた働きかけを行う必要があるとされています。
 リアルとバーチャルの融合が社会に与える影響、没入型技術が人体や精神にもたらす影響、コンテンツの創作・流通 に関わる市場動向などを把握し、必要に応じて 利活用の環境整備を行う必要があるとされています。

8.おわりに

 メタバースは、 インターネット を基盤とした仮想空間であり、インターネットが抱える課題にも適切に対応していく必要があること、メタバースの健全な発展のためには、技術の利用者である人間社会 の努力が不可欠であることが示されています。そして、メタバース関連サービス提供者だけでなく、 国やユーザ を含む様々な主体がそれぞれの責任を果たすことで、 安心・安全なメタバース の実現が可能になるとされています。
 以上の内容は次の内容を参考にまとめたものです。皆様のお役に立てれば幸いです。

出典:総務省 安心・安全なメタバースの実現に関する研究会報告書2024
https://www.soumu.go.jp/main_content/000974751.pdf

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