対話 #7 2021.02.02 「隣の家の魚」

「定置網」
「……」
「てーちゃみ」
「……」
「てっちゃむ」
「……」
「ジャック・てっちゃむ」
「怖い話を書きそうな名前にするな」
「隣の家の魚」
「隣の漁師さんが網で獲ったんだね」
「いたいけな魚は無残にも…」
「いたいけな魚、出世魚ってこと?」
「はらわたを引きずり出され…」
「さすが手慣れたもんだ」
「三枚におろされ…」
「おいしくなるやつ」
「なめろう食べたい」
「おいしいね」
「なめろうって名前はどうかと思うが」
「よだれ鶏よりかは」
「よりかはね」
「よだれて」
「誰のよだれかにもよる」
「それはね、ニッチよ」
「そうなのか」
「そこは攻めない方がいい」
「垢バンを恐れていてはー!」
「そういうわけではなく」
「新たな表現とはー!」
「新宿眼科画廊でやれ」
「ヴァニラ画廊がいい」
「いいね」
「ええじゃろ」
「個展 隣の家の魚」
「ふるまうやつな」
「なめろうお食べ」
「なんかそれっぽいな」
「コンテンポラリー感」
「なめろうだけど」
「マグロの解体ショーって現代アートっぽくない?」
「がんばってそういう気持ちで見ようと思えばね」

「さんが焼きってあるじゃん」
「なめろう焼いたやつ」
「解せねェ」
「解を求めることがないのよ」
「解せねェわ」
「さんが焼きに対して」
「なめろうは完成してるじゃん?」
「してる」
「なぜ焼くのかと?」
「気持ちはわかる」
「努力を無にする所業よ」
「たくさん叩いたのにね」
「ネギやらなんやらを微塵にする努力も」
「なんか極まっちゃったんじゃない?」
「なに?」
「魚をいたぶり尽くした末に」
「うん」
「他にもっとできることはないか!」
「うーん」
「隣の家の魚を、さばいておろして叩いてさぁ」
「まぁ…」
「あとできることと言ったら…」
「焼くしか…」
「そうよ」
「なめろうって名前もあれでしょ? 精神的な責めでしょ?」
「ちょっと説明が必要なくだり来たな」
「鯵やらなんやら立派な名前を奪い」
「贅沢な名前だねぇ!」
「なめろうて」
「じゃあなんだ…鶏も…」
「それ」
「なんかやらかしたのか」
「隣の家の鶏」
「さっきからひたすら隣の家の食材を」
「掠めてきてさぁ」
「極悪だ」
「お前は今日からよだれ鶏だよ!」
「こえー」
「隣の家から聞こえてくる」
「食材盗まれても怖くて近寄れない」
「そういう…なんか…ライフハック?」
「ケッチャム的生き方」
「そう思うとケッチャムっていう名前も…」
「確かに…」
「体験談だったのかな…」
「隣の家のケッチャム」
「怖くなってきたから仕事するわ」
「うぇー」
「どひゅー」
「べじょろん」

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