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ろう者が活躍できる社会を目指して サイレントボイス 尾中友哉さんインタビュー vol.3

NPO法人福祉のまちづくり実践機構ではホームレスや障がい者、ひとり親家庭など職につくことが難しい人たちを就労につなげるしくみづくりとして、「行政の福祉化」の発展につながる調査研究に取り組んでいます。このnoteでは、「行政の福祉化」に関わるさまざまな情報をお届けしていきます。

大阪で活動しているサイレントボイスさんはロジックモデルをつくったことで、大きな助成金を取ることができたり、事業の方向性をより具体的に決めることができたそうです。

ロジックモデルをつくることにどんな意義があったか、そこからどんな意義が見えてきたかを、株式会社サイレントボイス・NPO法人サイレントボイス代表の尾中友哉さんにお伺いしました。

尾中さんが描く聞こえない人の未来はどんなものでしょうか。フィンランドで知った「人権モデル」という障がいの捉え方についてお話を伺いました。

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株式会社サイレントボイス・NPO法人サイレントボイス

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聴者(聞こえる人)と聴覚障がい者の働きやすい職場を作り出すことを目指し、法人向けの研修制度を行うために2014年に設立。

近年ではNPO法人を設立し、聴覚障がいのある子ども向けに教育を行うデフアカデミーを運営。営利と非営利の両面から、聴覚障がい者が活躍できる社会を目指しています。
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障がいをどうとらえるのか

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障がいに対するとらえ方というのは国によってちがいます。

日本では、障害者と健常者ははっきりと区別されることによってですが、フィンランドでは聞こえない人は聴覚障がい者というくくりではなく、手話通訳ニーズのある人として把握されています。
障がいのとらえ方って大きく分けると、医療モデル/社会モデル/人権モデルという3つに分けられると思うんです。


医療モデルというのは、聞こえないことを不健康状態と考え健康体になるために治療やリハビリを行うという捉え方です。しかし、成果を得られる人は限定的です。障がいは社会が作っているという社会モデルという考え方が登場します。
でも、社会モデルと医療モデルしか存在しないと、問題が起きてきます。それを解決するのが、フィンランドのようなニーズで考える人権モデルです。障害者と健常者を分けずに、人は幸福に生きるためのニーズがある、つまり人権がある。その本人のニーズに対して、国はサービスを行うという点にフォーカスしていこうという考え方です。

聞こえない子はさまざまで、聞こえるようになるアプローチが合う子もいれば、手話で学べる機会が保障されてる方が良い子もいるため、ひとからげにはできません。だからといって、ビジネスをやる上では、全部個別対応することは難しいので、ある程度のニーズのまとまりに対してアプローチしていくしか方法がないんです。

だからデフアカデミーでは今は多様なニーズに対応できるように、汎用性の高い教材を作っていって、指導員が生徒さんのニーズをアセスメントできるのが大切だなと考えています。人権モデル的な考え方に基づいて、一対一のオンライン家庭教師みたいな枠組みの中で実現できることが多いと考えてチャレンジしています。

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聴覚障がい者の中でもろう者は言語的マイノリティの側面を持つ

障害者の中でも”ろう者”という概念は言語的マイノリティの側面があると言えます。手話は言語の一つであり、使う言語が違えば文化も違います。聞こえない人の困りごとというのは、言語的マイノリティあるいは認識上の差別が大きいんです。

わかりやすい例としては、能力を期待されないといったようなことです。一般的に良い大学を出て障がい者雇用で一般企業に就職しても、はんこが正しく押されているかの確認の仕事しかさせてもらえないことだってあるんです。
確かにコミュ力が必要とされる営業職だと難しいです。といってもそのコミュ力も、聞こえる人にとってのコミュ力なのですが。一方で、チャットでコミュニケーションを完結できる仕事や職人的な仕事だとすごく合っているし、能力を発揮できる例もあります。エンジニアが増えていることや、もともと竹細工や木彫で有名な職人がいます。

実際の就労を見てみると、視覚障がいの場合ははりきゅうあんまといった職業や、お琴など伝統的に就く職業があり、その中で先生や経営者になれるキャリアパスが存在するのですが、聴覚障がい者の場合は教育や雇用の歴史も浅く、最も多い製造業の仕事の中にキャリアパスがないという状況も多いです。
「目が見えないことは人と物とを切り離す。耳が聞こえないことは人と人とを切り離す」という哲学者カントの言葉は今の時代に照らしても的を射ている(射てしまっている)と思えます。例えば会社で上司が後ろを通りざまに「おはよう」と言っても、それは聞こえない人には挨拶としては伝わりません。それは、本人は無視しているわけじゃないけど、残念なことに無視として捉える人も居ます。基礎的な交流や理解がないまま、そういうささいなことの積み重なりの延長に、技術を教えてもらえないとか、仲間に入れないといった仕事上の問題が起きるんです。

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そもそも聞こえない人に関わったことのない聞こえる人、その逆もあると思います。学校や社会に制度的にも存在する、耳が聞こえる/聞こえない、健常者/障害者といった分断やそこから生じる無理解や方法のなさを乗り越えていくために、語弊のある表現を恐れずに言えば、新しい分断をつくる気持ちで取り組んでいます。フィンランドにおける人権モデルはその面で大変参考になりました。

ニーズを元に集団化するという発想です。例えば、図示したほうが分かりやすい人(目で見る人)、声で説明したほうが分かりやすい人(耳で聞く人)という分かれ方であれば、聞こえる人の中にも図示の方が良い人も居るでしょうし、聞こえない人のニーズも満たされる集団がつくれるかもしれません。

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人権モデルと元に、聞こえない人のニーズを可視化し、汲み取っていくことで、聞こえない人が活躍できる社会を作ることにチャレンジしているサイレントボイス さん。

福祉のまちづくり実践機構では、このような可視化されにくいところにアプローチしている企業をソーシャルファームと捉えて紹介しています。
合わせて、第1回目2回目の記事もごらんください。




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