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すべての人の人権が尊重される豊かな社会を目指す 一般財団法人大阪府人権協会

NPO法人福祉のまちづくり実践機構ではホームレスや障がい者、ひとり親家庭など職につくことが難しい人たちを就労につなげるしくみづくりとして、「行政の福祉化」の発展につながる調査研究に取り組んでいます。

ここでは、大阪版ソーシャル事業者認証にかかわっているさまざまな団体、企業を紹介します。

今回は人権相談やネットワーク作りなどを通じて、すべての人の人権が尊重される豊かな社会を実現することに取り組んでいる一般財団法人大阪府人権協会の活動についてご紹介します。業務執行理事兼事務局長の柴原浩嗣(しばはら・こうじ)さんにお答えいただきました。

一般財団法人大阪府人権協会

1951年に大阪府同和事業促進協議会として設立された。部落問題を中心に活動し、2002年に人権問題に取り組む財団法人大阪府人権協会に改組。2013年に現在の一般財団法人となる。大阪府内のさまざまな人権団体と連携しながら、被差別、社会的マイノリティの人権相談と自立支援、人権教育と人権啓発、人材養成および交流や協働、ネットワーク作りに取り組み、すべてのひとの人権が尊重される豊かな社会の実現を目指している。

活動内容について

ーー大阪府人権協会の活動を教えてください。

被差別、社会的マイノリティの人権相談と自立支援、人権教育と人権啓発、人材養成および交流や協働、ネットワーク作りを活動の4つの柱としています。啓発に関しては直接発信するというより、大阪府内の団体や行政から啓発の相談を受けたり、当事者からの人権相談を受けたり、人材養成のため大阪府の人権総合講座を開催したりしています。

ーー現在大阪府内にどれぐらいの団体があるんですか。

少し古いデータになりますが、2012年に大阪府人権協会がとった「人権問題に取り組むNPO・団体・グループ等に関するアンケート」があります。その際に対象としたのは、726団体で、うち161団体から回答がありました。

ーーネットワーク作りというのはどういう形で支援するんですか。

教育啓発や情報発信をやっている団体の活動をチラシやウェブサイトなどを通じて関連団体や行政等に周知しています。人権問題について知りたい、相談したいときに、問い合わせればどこかに繋がるプラットフォームのようなものになれたらと思っています。また、人権協会がハブあるいはきっかけとなって、団体同士がつながって、ネットワークができていくというのが理想です。

ーー人権協会が直接何かをするというよりも、人権に関する活動をしているそれぞれの団体を支援する中間支援組織のような活動をしているわけですね。

そうですね。大阪府域を事業の対象エリアとし、大阪府内にある市町村の人権協会や地域の人権地域協議会をはじめとして、人権に取り組む団体や行政、企業等と連携しながら、いろいろな事業を開催しています。

ーーネットワーク作りや情報発信の支援だけでなく、金銭的な助成も行っているのですか。

少額ながら、大阪府内の人権に取り組むNPOや団体に助成金を出していました。去年からは休眠預金等活用法に基づき、休眠預金(2009年1月1日以降の取引から10年以上、その後の取引のない預金等)の助成金を活用して、人権に取り組むNPOなどの団体に助成をし、協働で事業を進めています。

ーー休眠預金を使って具体的にどんなことをするんですか。

以前は30万円の助成だったものが、休眠預金の助成を受けて1団体300万円を上限に支援できるようになりました。金額が上がったおかげで、団体の基盤を作るというような大掛かりなことを3年間一緒にできるようになりました。また報告交流会を半年に1回開催し(公開で開催するのは年に1回)、関心ある方に来てもらって、取り組みを広げていくこともしています。これまででもLGBTQの課題では、小さな団体は大事なことやっていても資金や人材の面でどこと繋がったらいいかわからなかったり、行政に訴える機会がなかったりします。そこで、一緒に行政に提案する中で相談事業や啓発事業にもつなげることができました。

人権問題とは?
ーー人権というとカバーする範囲が広いですが、どういう分野を主にやられていますか。

元々は同和事業促進協議会ですので、部落問題を中心としてきましたが、事業や取り組んでいる課題はあらゆる人権になります。
そういう意味では中間支援組織としてさまざまな団体との接着剤の役割を果たすことを目指しています。

ーー人権についての活動で難しいと思うことはありますか。

人権は何か問題化しないと、行政施策としてとりあげられることや予算がつくことがありません。子どもや障がい者といった社会的に認められた課題が注目されがちですが、ふだんから大切な活動をしていても、問題化されないと予算がつかないというジレンマがあります。今注目されてるLGBTQに関しても、予算の都合上、相談窓口を常時開設することが難しいということがあります。

ーー人権侵害されたときにはじめてそこに人権問題があるということが注目されるけど、それから対策したのでは遅いということですね。その理由を具体的にもう少し教えてもらえないでしょうか。

人権が侵害されたことで、生活や生存の困難が生じてきます。たとえば就職できないため経済的困窮に陥ったり、PTSDや精神疾患で苦しまれたりということが起こってきます。これに対して就労支援や生活支援を行いますが、そのような状態になった背景にある人権問題を明らかにして、すべての人の人権を守って、そういうことが起こらないようにすることが大事です。

個別のイシューをみんなが共有できるものにしていく

ーーそのためにどんなことをしていますか。
 
人権協会の役割としては、プラットフォームやネットワークの中で、共通言語になりそうなものを拾いあげ、一見関係がないと思われているようなところとつないで社会に通じる共通言語を作っていっています。
部落差別、LGBTQ、障がい者、女性、外国人など個別のイシューとしてはいろいろなものがありますが、イシュー単位ではあまり注目されなくても、「人権」というキーワードで繋ぎ合わせていくことで、共通の議題として取り上げられるプラットフォームを作れるようにしています。
最近はインターネットのおかげで、当事者の人がつながりやすくなりました。人権侵害はそれが生じる構造や、差別から生活上の困難が起こってくる経緯は似ているところがあります。だから、例えば部落差別で培ってきた経験をほかの差別においても応用するなどして、解決の道をはかっています。

ーー個別のイシューを持った当事者同士がつながることで、人権侵害に対処しているわけですね。

そうですね。しかし、当事者が社会に差別を訴えるだけではなく、社会が変わっていかないと解決できないことが多いので、当事者の支援だけでなく、人権侵害が起きないように社会に働きかけることも同時に行っています。
例えばひとり親の人が非正規でしか働けなくて仕事を切られて困っている場合に、仕事を斡旋するという解決方法だけでなく、そういった方が働きやすい社会を作るという方向で解決していかないと、対処療法にしかなりませんよね。
女性であるから、被差別部落であるから、性的マイノリティだからというところに問題があるのではなくて、社会の側がその人たちが働きやすく生活しやすいように仕組みを変えていく必要があるんです。

ーー社会に対する働きかけとしてはどんなことを行っているんですか。

例えばそれぞれの人権問題に関する団体が教材やDVDを作ったりして、それを大阪府人権協会が学校の現場に紹介するなどして、小さなところの課題を発掘しつつその課題の大切さみたいなものを発信していくことを行っています。

ーーここ数年多様性の尊重と言われ出しましたが、人権問題の分野は広がっているのでしょうか。

広がっていますね。インターネットやハラスメントなど、これまでになかったり気づかれなかったところでの人権侵害が起こっています。また、新型コロナに関する差別や人権侵害も新しいものですね。

ーー人権侵害が起こって社会問題化したときだけ人権が注目されるとなると、人権に取り組んでいる団体というのは、ふだんの活動はなかなか注目されにくかったりするということですよね。

そうですね。ただ、最近は人権デュー・ディリジェンスという考え方があります。そのひとつに、企業が原材料調達や生産現場において、人権侵害の可能性のある取引先を使わないということが進められています。
金融機関においてもESG投資という考え方が出てきて、そのような人権侵害の可能性のある企業と取引している場合、投資の対象からはずすという流れになってきています。国連でも「ビジネスと人権」という考え方を打ち出しています。多国籍企業にとって、人権を守らなければ国際的競争力がなくなるという時代に入ろうとしています。ですから、今後は人権に関する取り組みは企業にとっても必要なものとなってくるのではないでしょうか。

大阪版ソーシャル事業者認証の効果


ーー最後に大阪版ソーシャル事業者認証についてお伺いしたいのですが、大阪版ソーシャル事業者認証ができることでの効果やメリットはどんなものがありますか。

そうですね。企業は今後「ビジネスと人権」を考える上で人権侵害をしないで企業活動をしていることを証明するために、認証を受けることはメリットがあるのではないかと思います。

もう一つは、人権に配慮したビジネス活動をすることが、製品やサービスの品質の向上につながり、結果企業活動にもいい影響をもたらすということがあるのではないかと思います。
例えばハウスメーカーさんが、モデル家族(サラリーマンと専業主婦の両親、子ども2人)向けの住宅を作るばかりではなくて、高齢者向けや、家を一人で借りることが難しいような人向けにサイズの小さいものや安いものを作れば、社会的に排除されてしまう人たちの暮らしをカバーできるのではないかと思います。
企業も営利活動とはいえ、人の幸せを実現することを活動の目的としています。人権研修の中で企業の活動も一人一人の人権を実現する役割があると伝えると、「自分たちの製品も人権に関わってるんですね」と感想をもらったりします。人の幸せを実現することを目的にするという視点で製品開発をするときに、人権という視点を入れることによって、人権侵害だけじゃなくて、いろんな人の人権を実現するきっかけになるものが作れたりするかもしれません。この認証によってそんなことを実現できたらいいのではないでしょうか。




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