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『R40勉強会活動報告座談会』のお知らせ

NPO法人パノラマの石井です。8月1日に行われる『R40勉強会活動報告座談会』についてお知らせをさせていただきます。

発見してもどうすることもできないケアマネの苦しみ

高齢者への介護でお邪魔した際に、どうやら2階に長くひきこもっているご家族がいることをケアマネさんが知る(あるいは察する)。しかし、高齢の保護者に、息子や娘のことで困った様子はありません。どう考えても、親亡きあとに、残された当事者及びその家族が困ることが予測されながら、ケアマネにひきこもり支援の知識や経験もないため、支援につなげることができずにいる…。

そんな心苦しい葛藤をしているケアマネもいれば、自分の仕事ではないと、臭い物に蓋をするように放置してしまうケースもあるようです。このような状況をどうにかできないものかと、ひきこもり支援に取り組むNPO法人パノラマに相談が持ちかけられました。

若者支援者は高齢ひきこもり者に出会えていない

若者支援の対象年齢は、概ね15歳から39歳までです。つまり公的な予算がつく15歳から39歳までの枠の中でしか、全国のNPO等は、まだ支援の実績がないのが現状です。対象を39歳までとしていながら、35歳以降、急激に相談件数が減る状況を鑑みると、保護者、本人の諦めや気力・体力の低下による長期的な凪の状態になることも背景だと思われます。

ですので、パノラマに限らず、ひきこもり支援者にとって、40歳以上のひきこもり者に対する支援は未知の部分が多いのが現状です。これは、パノラマが40歳以上のひきこもり支援の実態調査を行なった実感からも、全国共通であると言えると思います。つまり若者支援者は、日々衰え、いずれ亡くなっていく保護者の状況に合わせた、高齢のひきこもり支援の経験がほぼないのが実情なのです。

私個人としては、年齢制限のない横浜市就職サポートセンターの相談員を長く務めた経験の中で、社会に出づらい40〜50代の方々の相談を担当させていただいたなかで、若者支援で培ったスキルの中に、かなり多くの持ち運び可能な応用スキルがあることを実感していました。

また、横浜市緑区の鴨居地域ケアプラザから、高齢ひきこもりのケースのスーパーバイザーをさせてたいだていた経験からも、ケアマネさんたちに、多くの貢献できるスキルを自分たちが保有ていることを確信していました。

若者支援者は高齢者支援に対して無知である

同時に、私たち若者支援者は、高齢になり日々衰えていく保護者に対する支援が、どのような制度設計のもとに行われているのかについてほとんど何もしらない状態だと思われます。簡単に言えば、介護度が2から3になったことが改善したのか悪化したのかさえ、私は『R40勉強会』に参加するまで知りませんでした。

親亡き後の自宅を売却することで、残りの人生を生きていくというプランを考えることは簡単だし、成年後見人というワードを出すことはできるでしょう。しかし、その後見報酬がどのように支払われるのかは知らないし、実際どのように家を売却するのかということはまったくもって見当がつきません。もしも、その家がすでに亡くなっている親の名義のままになっていたら、どうしたら良いのでしょう?

複合的困難が雪だるま式に最大化された状況

つまり、8050問題と呼ばれるご家庭への支援には、高齢保護者側の支援のプロと、高齢ひきこもり者側の支援プロ(こういう人はまだ存在しない)の、両方の介入が必要だということです。また、相続の問題や家の売却の問題など、弁護士等その他の専門家にも入ってもらわなければ到底解決のしようのない、複合的困難が雪だるま式に最大化された状況が、家の外からは見えない家庭の中にあるのです。

それを引き受けている(引き受けざるを得ない)のが、高齢福祉系の方々になっているわけです。別の言い方をすれば、支援の入り口がそこにしかないのだ大きな問題なのだと思います。もちろん、生活困窮の窓口などもありますが、それは当事者にとっては崖の向こう側にある窓口であり、そこに辿り着けるような橋は架かっていないのです。

R40勉強会の発足

そこで、私がスーパーバイズをしていた鴨居地域ケアプラザとパノラマで、40歳以上のひきこもり支援についての勉強会をしようということになりました。せっかくなら青葉区で「すすきの庵」という高齢ひきこもり者の相談窓口を開いている、すすきの地域ケアプラザさんにもお声かけしようということになりました。

こうして、お互いの弱みをさらけ出しながら、胸襟を開いて語り合おうと、ZOOMでの勉強会を2022年4月から毎月1回開催することになったのが、横浜の北部エリアで発足した『R40勉強会』です。しかしケースカンファレンス形式で進めた勉強会はすぐに打つ手がなく煮詰まりました。そこで、訪問看護のスペシャリストや、8050問題に詳しい弁護士の方に加わっていただき、私たちにできることを模索しつづけました。

ある日のR40勉強会

R40勉強会の成果とはなにか?

実際に現在進行形で訪問支援をしているケースのカンファレンスから、私たちは多くの気づきと支え合いのなか、『R40勉強会』に参加する様々な専門家のメンバーから、多くのことを学び合いました。しかし、カンファレンスに提供された事例は、直接の解決にはまだ至っていません。

さまざまな調査から、数字だけが浮かび上がっている高齢ひきこもり者の「数」を前に、行政は今後、彼ら彼女らへの支援に取り組まなければならないでしょう。23年間、ひきこもり支援に携わる私的には、ようやく重い腰が上がったかというのが正直な感想です。しかし、当事者の方々に支援は望まれているのでしょうか? 少なくとも援助希求は出ていないが現状であり、彼ら彼女らは表面上は「困っていない」ようにも思われます。

しかし、冒頭でも書いたように、「どう考えても、親亡きあとに、残された当事者及びその家族が困る」ことが予測されます。介入のあり方の議論も含め、まず整えるべきは『R40勉強会』のような、多様な支援者同士が、孤立しないで支え合えるプラットフォームの醸成ではないでしょうか?

イベントに寄せて

8月1日のオンラインイベントでは、『R40勉強会』の運営スタイルや、そこで私たちが体験して得られた学びを、座談会形式で忌憚なくシェアさせていただきたいと思います。6月20日に行われた『R40勉強会』で、イベントを前に『R40勉強会』の意味や成果をどう感じているか、メンバー間でシェアする時間を設けました。

Aさんが「クリーム・スキニング」という、私がはじめて聞く言葉を使い、その意味を説明してしてくれました。以下はWikipediaからの引用です。

「クリーム・スキミング(英語: Cream skimming)とは、企業が高価値をつけたり低コストな顧客のみに製品またはサービスを提供し、利益の少ない顧客を無視するというビジネス慣行を指す侮蔑的な概念メタファーである」


Wikipediaにも教育バウチャーの例が出ていますが、成果が出やすいところや、解決できそうなケースだけを支援対象にし、成果の出にくい人たちを無視する動きを、「クリーム・スキニング」と呼ぶことを知りました。要するに美味しいとこ取りのことです。見栄えも良くアピールするため、寄付も集まりやすく、成果が数値化しやすいので行政も予算も付けやすいわけです。

Aさんは、クリーム・スキニングになってはいけないとした上で、成果の出にくい不確実な状況の中で、高齢ひきこもりの方のいるご家族に向き合い続けるのは、精神的にはとてもしんどいものがある。しかし、R40勉強会があったことで、自分は立ち続けることができたんだとおっしゃってくれました。

『R40勉強会』は、Aさんと私が中心となって立ち上げたのですが、初回に、会のコンセプトを話していたとき、Aさんが「支援者が孤立しないためにこういうものがあるべき」と発言しました。それが『R40勉強会』の基本コンセプトとなり、解決を目指すよりも、まずは私たちが孤立しないことを目指して運営してきました。

思えば、とかくクリーム・スキニングになりがちな支援の現場で、積極的に高齢ひりこもり者がいるご家庭にアプローチしていたAさんは、ひょっとすると孤立していたか、孤立する恐怖を感じていたのではないかと、Aさんの話を聞きながら、今さらながら立ち上げの際の言葉を思い出しました。

振り返れば、働けそうな若者たちを支援対象とし、立派な納税者にすることを前提に始まった若者の就労支援こそがクリーム・スキニング的であり、その支援からこぼれ落ち、あっという間に歳を取った高齢ひきこもりの方たちの存在が数字として現れています。

これは、ひきこもりを個人や世帯の問題として、自己責任を押し付けてきた私たち社会に対し、社会の問題として認識させるクロスカウンターなのではないかと、私は受け止めています。そして、自分もクリーム・スキニングに加担していなかったのかと胸が締め付けられています。

『R40勉強会活動報告座談会』

日時:2023年8月1日(火)14:00〜15:30  参加無料
開催方法:ZOOM(見逃し配信は致しません)
申し込み:https://forms.gle/aksG5HSTCQ1JM4Y86

モデレーター:鈴木晶子(NPO法人パノラマ理事)

座談会登壇者:小藪基司(すすき野地域ケアプラザ所長)
       米良重人(今宿西地域ケアプラザ 社会福祉士)
       増子徳幸(訪問看護ステーションWing管理者)※欠席
       飛田憲一(ベイアヴェニュー法律事務所 弁護士)
       石井正宏(NPO法人パノラマ理事長)
       織田鉄也(よこはま北部ユースプラザ所長)
       ほか

主催:特定非営利活動法人パノラマ
協力:R40勉強会
 
お問合せ:panorama.r40bridge@gmail.com(石井)

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