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「特別寄稿:わたしがいる、あなたがいる、なんとかなる④」小幡あゆみ(抱樸元職員)


「特別寄稿:わたしがいる、あなたがいる、なんとかなる④」

クラファンのラストスパートとして、抱樸とさまざまな形で関わる皆様に、抱樸にまつわるテーマから、自由な形式でご寄稿いただく企画。第4回は元職員の小幡あゆみさんです。ぜひお読みください!
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ふと思い出す時間がある。

お昼休み、喫煙所で一服。隣におっちゃんが座る。
何日か前もここで顔を合わせた気もするが、名前を聞いたかもよく思い出せない。
目尻が垂れて、とても穏やかそうな人だ。抱樸に来る人たちには、大抵「本当に同じ世界の話なのか」と驚くような過去がある。きっと、この人にもあるんだろうが、それでも今タバコを吸っている顔はやっぱりとても穏やかだ。

「秋の空になりましたねぇ」と、話しかける。
「うん、すっかり朝晩冷え込むねえ」

他愛もない会話を交わす。

「昨日、ニュースで見たけど、北海道ではヒグマがいっぱい出てるらしいですねぇ。ヒグマは怖いねぇ。」
「俺、北海道でヒグマ見たことあるよ。あれは怖いぞお。」

思わぬ返事に顔をやる。

「あら、北海道から来られたの?」
「いいや。日雇いの現場でね。全国あちこち行ったよ。行ってないところの方が少ないくらい。仕事があればね、どこでも行かないかんかったのよ。」

ここに来る人は土木現場などの日雇いの仕事で働いてきた人も多い。だから、みんな本当に全国を渡り歩いているし、その思い出をなんだか大切そうに話すところが好きだ。
おっちゃんは続けて話し始める。

「北海道はきつかったねぇ。プレハブみたいな小屋で暖房はあっても、床からしんしん寒いで。やっぱり、俺たちみたいな南の人間は弱いね。ヒグマが出た日は、仕事は休み。みんなで小屋の窓からヒグマを見たよ。…その現場やったね。一緒に働いてた人が急に心臓発作で死んだことあってね。俺ね、その人の骨拾いに行ったんよ。現場監督が行きたいやつは行っていいぞって言ってくれてね。火葬場にはね、俺と同僚の三人しかおらんかったよ。三人でその人の骨拾って手合わせた。たまたま一緒にちょっと働いただけの知らん人。どんな人やったんか、家族やらおったんか、そんなん、なぁんも知らん人同士。こんな寒いところで、自分のことなぁんも知らん人に骨拾われて。あの人、どんな気持ちやったやろか。今でも時々思い出すんよ。」

そう話すおっちゃんを見ながら、私はうんと寒い北の地で同僚のために手を合わせるおっちゃんの姿を思う。おっちゃんこそ、どんな気持ちやったんやろうか。

「でも、その人もきっとよかったよ。死ぬ時におっちゃんたちがおってくれたし、骨拾って手を合わせてくれたんやもん。」
「そうやったらいいなぁ。やっぱり一人で死ぬのは、寂しいもんねぇ。」

こちらを見ずに、そう話すおっちゃんの肩に手をのせ、あえて少し元気な声で言う。
「あぁよかった!ここに来たからには、一人で死ぬことはきっとないよ!おっちゃんの骨は私が拾うしね!こうして一緒にタバコを吸ったことを思い出して、いっぱい泣くから安心してねぇ〜!」
おっちゃんがこっちを見て笑う。
「俺は長生きするよ〜。あんたこそそんなにタバコ吸いよったら、俺より早死にしそうやね。」
「その時は、あなたが私の骨を拾いに来てね。葬式の時に思い出す用に、これからもここで会ったら色々話すことにしよう!どうぞこれからよろしくね!」
二人でゲラゲラと笑う。

今でも思い出す。この時に、私はなんのためらいも嘘もなく、「あんたの骨を私が拾う」と言えることが嬉しかった。
抱樸は、出会った人をみんなで看取り、送り、弔い、思い出すことのできる場所である。家族じゃなくても、それができる場所である。お昼休みの20分間、よっ!と言って与太話をするだけの仲であっても、だ。

いやな時代である。
生きることの「資格」を常に判定され、時に断罪を受けるのではないか、と怯えるように過ごしている。あなたが生きていることに「資格」など必要ない、とあなたに伝えたいし、私だって誰かに言ってもらいたい。だからこそ、声高に叫ぶのではなく、日々の中でお互いに確かめ合うことでそれを示そう。私たちが生きていることの意味は、私たちの間で見つけるし、その良し悪しを判定する「資格」など誰にもないのだと。生きている私たちの声や体温から、その実感を掴み取ろう。
誰かが亡くなれば、みんなで弔う。その人のことを思い出し、みんなで泣いたり笑ったりする。その光景の中にいると、「私がいなくなっても、みんなにこうしてもらえるのだ」と思う。自分のことも、少し大切に思えるようになる。だから、なんの「資格」がなくたって、明日も生きる。

希望のまちが、私にとって「希望」であるのは、こういう意味においてである。
みなさんにとっては、どんな「希望」になるのだろう。
希望のまちで会えたなら、是非あなたの話も聞かせてほしい。

小幡あゆみ / 元抱樸職員・ボランティア

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