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特別定額給付金(10万円)が受け取れない(北九州での解決事例)

2020年4月20日に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」を踏まえ「家計への支援を」と決定したのが10万円の「特別定額給付金」です。給付対象者は、基準日(令和2年4月27日)において、住民基本台帳に記録されている方、とされました。

この給付金を、必要とするにも関わらず、ホームレス状態で住所が無いなど、受け取りの困難な方々がおられます。(親族からの暴力等を理由として避難している方への対応は迅速に行われました。)

まもなくほとんどの自治体で申請が締め切られますが、長引く新型コロナの流行の中、次回の給付金が設定された時に備える意味でも、北九州で抱樸が対応した事例をまとめておきたいと思います。
※給付金の受付は自治体によって細かく違いますので、あくまで「北九州市の場合」です。

北九州市の特別定額給付金の申請期限は、「令和2年8月31日」でした。担当部署は「北九州市市民文化スポーツ局市民総務部 特別定額給付金室」。

給付金を受け取るためには、3つの段階があります。
まず「申請書を入手する」、次に「申請する」、最後に「給付金を受領する」です。
ホームレス状態にある方のお困りの内容とそのフォローについて、順に書いていきます。

北九州市の炊き出しでは早くから給付金についてアナウンスして来ました。

A.「申請書が届かない」

抱樸は北九州市から委託を受けて「ホームレス自立支援センター北九州」を運営しています。
この「センター」が、給付金申請においても力を発揮しました。

「北九州市特別定額給付金コールセンター」も設置されていましたが、電話をお持ちでない方もあります。そういう場合は抱樸が相談を受け、センターから給付金室へ連絡をしました。

■住民票はあるけど、いま家がない

自治体から「申請書」が住民票のあるところへ送られ、そこに住んでいないとなると、一旦「あて所に尋ねあたりません」で自治体に返送されます。

「住民票を現住所へうつす」のが通常ですが、すぐに住居設定出来ない場合、ご本人と協議の上、給付金室へ連絡、センターへ送ってもらいます。

住民票があるのが市外の場合、センターから、当該住所の自治体へ電話を入れます。自治体窓口の対応としては「折り返しかけます」になるので、センターの番号へかけて頂くようにしました。相談し、(必要があれば北九州市に照会して頂きます)センターに送付してもらった申請書をご本人にお渡ししました。

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■住民票の場所がわからない

給付金は、その方の「住民票がある自治体」が申請を受けて給付するので、今いる場所(北九州市)で受け取りたいにしろ、「住民票がどこにあるか」確認するところからしか進めません。

長く寮などの移動を繰り返し、最後に住民票があった場所が思い出せない方もありました。
なんとか「本籍」が分かれば、本籍地の役所へ問い合わせ、戸籍の附票を取り寄せることから開始します。(戸籍の附票には、直近の住民票情報までが載っているのです。)

まず「市外から附票の取り寄せ」となった場合、当該市町村のルールに沿って請求しますが、「本人確認のため身分証明(運転免許証等)の写し」が必要になります。
更に「送ってもらう(受け取るための)住所」が要ります。

この2点を解決するには、「ホームレス自立支援センター北九州」に入所して頂くのが一番です。

センターに入ることで入所カード(入所者証)を発行できます。入所カードにはセンター長の印鑑が捺され、身分証の代わりにできるのです。(相手先の市町村窓口にセンター職員が電話をかけ説明します。必要があれば北九州市に照会して頂きます。)

附票をセンターに送ってもらい、住民票のある自治体を確認し、そこから一緒に申請書の送付依頼などを進めていきました。

■住民票が抹消(職権消除)されていた

その住所に「不在」になっているのに、長く放置していたりすると、調査の上「住所不定」と判断され、住民票が抹消されます。

これはなかなか大変です。

新たに住所を置きたい市区町村の住民課(市民課等窓口)で住民票を回復させる手続きを行えば、基準日より後であっても給付対象者とはなります。
本籍地の市区町村に住所を設定したい場合は、身分証明書さえあれば難しくはないのですが、「北九州市に本籍がない」となると、本籍地から戸籍謄本と戸籍の附票を取り寄せるところからになります。本人に身分証がない場合、「代理人」での請求(遠方なら郵便請求)を行ったりもします。
(しかし「本籍もどこだかわからない」となると、親族を探し出したり、記載の書類がないか思い出してもらったり、幼少期まで遡って関係した先を調査するなど、探偵並みの力量が要ることに・・・)

そして「住民票の回復」は、北九州市ではセンター入所で叶いますが、全国でこのハードルが高いのは、その住所への「居住の証明」が必要で、そこが一時的な施設では認められないことが通例だったからです。居宅設定をするには、(なにせ住民票が消えてるくらいですから)保証人問題など、様々な難関が出てきます。生活保護の申請も事情で現状では無理となれば家賃も準備が出来ません(センター入所にはお金はかかりません)。

それが、コロナ禍において「一時的な」住居でも認められるようになりました。

令和2年6月17日総務省自治行政局住民制度課長より「ホームレス等に対する住所認定の取扱いについて」という通知も出ています。

とは言え、ここに上がってる中でも、実際に一時入居の施設で「住所を置いていいですよ」となるのは自立支援センターくらいです(他県ではシェルターも住所として認められたところもあるそうです)。

今回はセンターに入所して頂いて「住居」と出来たので、住民票の異動受け入れも可能でした。

こうして、「申請書類をセンターに送ってもらう」ところまで準備を整えます。

B.「申請する」

センター着で申請書が届きましたら、本人に来てもらい、申請書を書くお手伝いもいたしました。申請書には身分証の添付が必要です。
センターに入所している方は、先述の「入所者証」が身分証明になります。

申請書はセンターに送ってもらったけど野宿のままで「入所者証」が発行できない、または住民票がある場所で申請書は受け取れたけど「免許証・マイナンバー・保険証など身分証がない」場合、申請書に「ありません」と書き、センターから事情を給付金室に伝達します。
身分証がない場合、銀行口座も持ててないことがあります。申請書には「現金給付」と書きます。

C.「給付金を受領する」

原則として、本人名義の銀行口座への振込みとなっていますが、上記のように「口座がない」場合、次のような手順を踏みました。

1.給付金室が申請書を受理したのち「給付の準備が出来た」旨、センターに電話が入る
2.受け取りの日時を取り決める
3.市が作成している「北九州市特別定額給付金 本人確認書類」に必要事項を記入、抱樸の印鑑で捺印
4.当日、北九州市役所にセンターのスタッフと本人が向かう
5.上記「本人確認書類」を提出することで、ご本人であることをスタッフが証明
6.現金で受け取り(受領書にサイン)

これで、住居がない、身分証もない、口座もない方でも、給付金を受け取れました!

こんなケースもありました。

市外の施設に住民票があるまま、今は北九州市にいる方。
申請書はセンターへ送ってもらえて、申請も出来ましたが「口座」がなく、給付金は「その市町村(ちなみに他県)」まで受け取りに行く覚悟で、スタッフが同行の準備をしていました。状況を把握したその市は、なんと郵便為替にしてセンターに送付してくれたのでした。柔軟な対応、ありがたいです。

まとめ

行政の窓口も、急に大変な量の書類を動かすので、人口の多い都市ほど対応に余裕がなくなるのは解ります。しかし、家をなくした方々が、日雇いや都市雑業を求めて都市部に多く身を寄せるという状況があります。

北九州市では、長く支援活動をしてきた抱樸が市と日頃から連携出来ていたことで、「本人確認」を担うことが可能になっています。
また「住所を設定する」という難題も、自立支援センターが本来の機能を発揮して解決できました。
しかし、ご相談のあった全員がセンターに入所となるかというと、そこもまた難しいところなのです。

家庭の状況等で障害があるのに福祉に繋がる機会を得られないまま大人になり、センターでの集団生活に馴染めない方、アルコール依存の治療が先決の方(当センターは禁酒)など、おひとりおひとりに様々な事情があります。ひとり住まい出来る「公営住宅」も、入居時期や条件にフィットしなかったり、辺鄙な場所で通勤など生活構築が難しいなど、課題がないわけではありません。

支援スタッフとしては「センターに入って頂けたら、全面的に支えることが出来るのに」とつい考えてしまいますが、センターの限界も見据えつつ、出会った方にどう寄り添えるかを、粘り強く日々模索することが必要です。

支援付き住宅」は、その模索から生まれた「次の一手」です。

この仕組みが全国で持続的に展開できるよう、皆様からのご寄附を元に、今日も打ち合わせと手配を進めています。

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「ホームレス自立支援センター北九州」のスタッフの働きは、
巡回相談、生活相談、就労支援、退所後サポートなど多岐に渡る。

いただきましたサポートはNPO法人抱樸の活動資金にさせていただきます。