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【特別寄稿:あなたがいる わたしがいる なんとかなる②北條みくる】


「特別寄稿:わたしがいる あなたがいる なんとかなる②」2回目は抱樸職員の北條みくるさんです。ぜひお読みください!

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喫煙所は抱樸館の憩いの場のひとつである。花札に興じているひとあり、窓の外をボーっと眺めている人あり、他愛のない話に花を咲かせている人もあり。大好きなタバコを片手にひとりひとりがリラックスして過ごしている。そんな喫煙所だから、おいちゃん達の本音がポロッと飛び出すことがある。

その日、私が喫煙所に顔を出すとOさんがひとりソファに足を投げ出してタバコを吸っていた。Oさんは仕事を失って元々は路上で生活していた。2年前に抱樸館に入居し、半年間かけて、体調を整え、貯金を溜めて、家を探して、今では近所で一人暮らしをしている。抱樸館卒業後も、Oさんは頻繁に顔を出してくれて、その度に抱樸館の雰囲気がパッと明るくなった。煙草をふかしながらOさんがつぶやいた。 

「あれは人間関係のリハビリだったと思うよ。」Oさんは続けた。「路上生活をずっと続けてるとさ、人との関わり方を忘れちゃうわけよ。誰を信じていいのか分からなくなったりさ。そんなんだったから、抱樸館は変な奴も多いけどさ、人間関係の築き方を思い出せたのはよかったと思うよね。」そう言って、Oさんはわははと笑った。

確かに抱樸館で暮らしていると、はじめは固かったおいちゃん達の表情がどんどんとほぐれてくる。Oさんもはじめは大人しくて真面目な印象だった。でも今は、おっちょこちょいな私の行動に毎度「ばーかやろー」と突っ込んでくれる愉快なおいちゃんだ。Oさんが変わった、というよりも抱樸館で過ごしているうちに本来のOさんが表に出てきたのだろう。

そういえば、先日の夜間パトロールで出会った現役路上生活のおいちゃんも、Oさんと似たようなことを言っていた。

「自分が何なのかわからないのよ。長らく人と話していなかったから。」

彼はとても混乱した様子だった。ベテランのボランティアさんが彼の支離滅裂な言葉を根気強く拾っては「大丈夫ですよ。ちゃんと会話になっていますよ」と話しかけて、安心させていたのがとても印象的だった。

自立支援というと「家」や「仕事」を探すことにフォーカスされがちだが、おいちゃん達を何より支えていたのは日々のさりげない会話だった。「おはよう」「調子はどう?」「すみません」「ありがとう」呼吸をするように交わしている言葉たちが、私達の日常を豊かに彩っていること。そして、そんな日常は声をかけあう相手がいるからこそ成り立っている奇跡であることをOさんは改めて思い出させてくれた。

Oさんはそんな毎日を「人間関係のリハビリ」と呼んだが、私もおいちゃん達との交流によってケアされているうちのひとりなのだと思う。希望のまちでも、きっと助けたり助けられたりを繰り返しながら、何気なくもかけがえのない日常が紡がれていくのだろう。そんな未来がやってくるのを今か今かと楽しみにしている。

NPO法人 抱樸職員 北條みくる

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