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支援付き住宅の全国展開 NPO法人サマリアの状況

「コロナ緊急|家や仕事を失う人をひとりにしない支援を」から始まり、その後もコロナ緊急事業から生活困窮者全般への支援と発展していった「支援付き住宅の全国展開」。各地で担っていくパートナー団体の一つであり、埼玉県所沢市を中心に活動するNPO法人サマリアの黒田和代さん、福本麻紀さんにお話しをお伺いしました。

黒田和代さん


福本麻紀さん

ーそれではまずサマリアがどのような支援事業をやっているのか、その概要・どのような経緯で始められたのか教えていただけますか?


黒田:サマリアが活動を始めたのはちょうどリーマンショックの直前の2008年で、2009年に法人化しました。住まいがない方への生活困窮者支援ということで、始めた頃は割とのんびりした活動をするつもりだったのですがリーマンショックでえらい騒ぎになりまして、活動が落ち着かないまま次はコロナでさらに大騒ぎになって、ずっとジタバタしてるという感じです。
前は居住支援という言葉がなかったので生活困窮者支援と言っていたのですが、当初から自分たちでシェルターを何部屋か持っていて、そこを使いながら活動してました。コロナをきっかけに抱樸さんからクラウドファンディングのお金を分けていただき、それまでボランティアで活動してきた事業を拡大して、現在は若干名雇用しています。


ーボランティアベースでずっとやってこられたんですね。


黒田:はい、そうですね。ボランティアベースなのですごく中途半端な形で大きくすることもできないし、もし大変だったらやめてしまうことも視野に入れながら活動を始めたのですが、ニーズが増える一方でやめようと思っても次から次へと相談が入ってきてしまうのでやめるわけにもいかず結局中途半端な形でズルズルやっていました(笑)。


ー現在何部屋の生活支援付き住宅を運営していますか?またこれまで何人の方が利用されたのでしょうか?


黒田:現在は所沢市内に33部屋あります。抱樸さんからの支援を受けたときには所沢だけではなく、埼玉北部の東松山・熊谷の困窮者の社会資源が極めて乏しい地域にも何部屋か持っていたのですが、そちらが独立して別法人になったので、現在サマリアとしては所沢市内に33部屋持ってます。そのうち12部屋を無料低額宿泊所にして運営してます。
最初の5年間くらいまでは利用者をカウントしていたのですが、途中手に負えないくらい忙しい時期があったのでその間はカウントがちゃんとできてないんです。人数にすると300件以上、もしかしたら500人くらいかもしれません。利用者の入れ替わりはありますが、常にほぼ満室状態です。


ー今までどのような方が利用されてきたのでしょうか?また運営してみて感じたことや気づいたことなどあれば教えてください。


黒田:私たちスタッフが女性が中心だからだと思うのですが、他の団体さんよりも女性の利用者の割合は多いと思います。平均年齢は大体40代半ばくらいです。不安定な仕事で収入が安定しないないため住まいが確保できないというような方もいらっしゃいますが、そういった方はここから電車で30分で池袋でしてそこで大きな支援団体が活動しているので、そちらに相談へ行かれる方が多いようです。サマリアでは埼玉県内、または栃木や群馬で仕事を失くしてしまい住まいが失くなった方からの相談であったり、或いは警察のお世話になってしまった方が支援団体に繋がることで不起訴になることもあるので連携している弁護士会や弁護士さん経由で繋がったり、あるいは地域の中でいろんなトラブルを抱えた方から相談があったり、行政を通じて相談があったりと様々なケースがあり一概には言えないですね。


ーコロナ禍も丸3年経とうとしていますが、コロナの影響でなにか変わったり気づいたことなどありますか?


黒田:コロナの直後はネットカフェが閉鎖されたこともあったので行き場を失った方からの相談が相次いでいたんですが、最近は家はあるけど家族との折り合いが悪いとか、家庭の中に居場所がない方たちから家を出たいというような相談が増えてきたと感じています。

福本:今現在ホームレス状態の方というよりも、家族があって夫と夫婦で暮らしてるけども、折り合いが悪かったりDVの被害を受けての家族関係に関するご相談がかなり多い状況です。

黒田:夫婦喧嘩して一時の感情で相談メールされる方もいらっしゃるので面談まで繋がらないこともありますが、面談しましょうと言ってそれに応じてちゃんと会いに来られる方は色々とご自分の中で決心していらっしゃるので、一旦家族とは別のところに住まいを構える、確保する必要がある方は部屋を調整して受け入れ、生活保護の利用が必要か、あるいは弁護士・法律家のサポートが必要か、話を聞いた上で判断して必要な支援をしています。


ー家がある方は今まで困窮者支援や住宅支援とあまり結びついてこなかった層だと思うのですが、なぜそういった方々がSOSを出すのでしょうか?


福本:社会全体的に見て皆さん余裕がなくなってきてるからではないでしょうか。シェルターそのものについて利用できますかという相談ももちろんあるんですけども、離婚したいけどどうしたらいいかとか、生活保護の申請どうしたらいいかとか、サマリアのサービスを利用するための相談よりも幅が広がって、一般的に友人や身近な人に相談するようなことをダイレクトにネットで見つけたサマリアに相談してくる方が以前と比べて段違いに多くなっていると感じます。

黒田:コロナをきっかけに全国の相談窓口や支援団体一覧が色んなところに出るようになったので、広く知られるようになったということだと思います。逼迫した状況での急を要するシェルター利用のため、というよりはその前の段階で家族関係の相談に来られる方が多いと思います。また特に最近は物価高や円安の影響からくる経済的な余裕のなさが家庭環境に影響してトラブルに発展し相談に来られる方も増えていると感じています。


ー支援付き住宅の事業をやっていて印象に残ったことはありますか?


黒田:どこにも居場所がなくてホームレス状態になってうちに来られた方で、頼ってきたはずなのに心を閉ざして支援に拒否的な態度の方も中にはいるのですが、時間をかけて関わりながら段々と信頼関係を築いていくことで、私達の支援に対して進んで協力してくれるようになったり、見違えるように生活が安定していったり、ずっとアルコールの問題を抱えていた方で支援付き住宅に入られてしばらくの間大変でしたが、関わっていくうちに自分でこの状態から立ち直ろうと決心して実行に移せた方など印象に残っています。
やはり他者と関わることで本人が変わっていくということがとても大事だと思います
私達サマリアは就労支援はしてないんです。働く力がある方は自分で仕事を見つけて働き始めるんですが、中には社会に出てすごく傷つけられるような思いをたくさんしてきて、そこから逃げるようにシェルターへ入られる方もいらっしゃいます。住まいだけじゃなく社会の中に居場所を失くしてるんです。若い方だと通常生活保護のケースワーカーさんから就労指導があるんですが、サマリアはあまり働けとは言いません。私達は「仕事に就くこと=自立」ではないと思っているからです。メンタルをきちんと立て直さないと無理やり仕事に就いても同じことを繰り返すだけで本当に自分の生活を取り戻すことはできないと思ってるので、本人がまだ働く方向に気持ちが向かない間は庇ってあげるような気持ちで関わって、しっかり気持ちが立て直せる時間をちゃんと大事にしたいと思っています。
また、その人が本当に抱えてる課題の本質が見えてくるまで時間がかかることもあるので、先にルールを決めて3ヶ月でこうしましょう6ヶ月でこうしましょうと先回りせず、ご本人にはしばらく好きなようにしてもらって、ずっと本人の後ろをついていきながら観察して、私達社会福祉士や精神保健福祉士の専門職の立場から必要なサポートをさっと差し伸べつつ、心地よく暮らせるようにハラハラしながらもたっぷり時間を使って見守っています。


ー他に生活支援付き住宅を運営されて気付かされたことだったり、感じたこと、伝えたいことはありますか?


黒田:現代社会に於いて、資本主義のシステムの中に組み込まれて生きていくことが正しいとみんな思い込んでるのですが、今コロナで混乱している社会のシステムの中できちんと自助努力で生きていくことは実はとてもハードルの高いことで、それをしなさい、それができないあなたは駄目だって言われることはひどいハラスメントだと思っています。
サマリアはそのハラスメントから逃げたい人たちがほっと一息つけるような、そんな場所になればいいなと思っています。元気になってまた社会に戻ったり、高齢の方や病気を抱えてる方は安心して最後までゆっくり過ごせるように、そんな支援付き住宅にしたいなと思っています。

福本:サマリアにいらっしゃる方々は今まで社会の中で沢山つらい経験をしてきたり、多くの課題を抱えている方が多く、そんな人たちがここにたどり着くまで生きてこれたその逞しさに感動しますし、いわゆる一般常識が差す「普通」のことがたとえできなくても、それはそれで生きているということ
に関して実は大差がないのではないかと感じています。

高齢や前科があるせいで「雇われない」人たちと牧場でヤギ小屋づくりをしました。


ーそれでは最後に寄付者の皆様に何か呼びかけたいこと、メッセージありましたらお願いします。


黒田:クラウドファンディングでご寄付くださった皆様に重ねて心からお礼を申し上げます。またサマリアでも独自に寄付を受け付けております。ホームページからクレジットカード払いで寄付できるようになっておりますので引き続き抱樸をはじめ我々へのお力添えをお願い申し上げます。
また、サマリアの活動に興味がおありの方はスタッフも募集しておりますのでどうぞご連絡ください。


ー本日はお忙しい中、貴重なお話どうもありがとうございました。


いただきましたサポートはNPO法人抱樸の活動資金にさせていただきます。