T小学校、学校独自の情報教育計画
T小学校で情報担当をされているM先生に、取組の数々やICT教育についての考えなどを伺いました。
先生たちへの働きかけからはじまる
――前任校でも情報のご担当をされていたと伺いました。どのような取組をされていたのですか?
まずは先生たちが、校務用のパソコンを活用できるような取組を考えていました。情報担当としてというよりも、単純にパソコンを上手に使えれば仕事が早く進むのにという気持ちがあって。
年度始めに職員会議で提出するものに加えて、パソコンスキルや先生方に今まで聞かれた質問をまとめたり、情報担当がいなくてもパソコン作業ができるような資料を作成していました。
――その違和感、パソコンを上手に使えれば仕事が早く進むのに、などを思うようになったのはなぜでしょうか?
元々自分がパソコンを使える方だとも思っていなかったですし、基本的スキルも担当になってから勉強したようなものです。でも情報担当になるといろんな相談がきます。そこで何かできないかと調べたり、自分の知識を自分だけのものにするのは勿体ないので広げたりしました。
結果的に、みんなから頼られるようになっていました。ですが同時に、自分がいなくなった時になにが残せるのだろうと思って資料をつくりました。みなさんの仕事がもっと早くなって、それが子どもに返っていけばいいなと自然に思うようになりました。
――先生方に対する働きかけをされていたのですね。
県から「”ロイロノート”を使いましょう」と言われても、正直みなさんイメージができないですよね。今後においてもパソコンがくる、としか思っていない。僕たちは情報担当なので研修にいっているから分かりますが、実際GIGAスクール構想を知らない人もたくさんいると思います。
変えていくことは手間でもあります。
職員室の雰囲気も重要ですが、自分が何かをやるときに「しょうがないな」と思ってもらうには、どれだけ自分がみなさんに働きかけたか、還元したか。何もしていない人が言っても伝わらないので、どれだけ自分がやったかを意識しています。
ICT活用で期待すること
――子どもたちに対しては実際にどんな活用をされましたか?
図工の時間に葉っぱを並べて何かを作る、いいなと思ったら写真をとって先生に送り、みんなの作品を全員が見れる状況にして、アイデアの刺激を受けながらさらに作品を作るという授業をしました。
他には、体育で写真を撮って動きを観察したり。これは自分の動きを客観的に見れるのでメリットが大きかったです。あともう少し早くiPadを使えていたら、生活で植物の写真を撮って記録に残したり、とかもできたかもしれないです。
――子どもたちのは反応はどうでしたか?
反応自体は情報機器の珍しさとそれを使っている楽しさに夢中という感じでした。学習面でいうと効率的に行えるようになりましたね。作業が早く終わった人は周りの人のを見に行って、というのがなくなります。それぞれの好きなタイミングで、自分の手元のipadで見れるというのは、子どもたちにとっても大きいのではないでしょうか。
――今後ICT機器がさらに導入されることによって、期待していることを教えてください。
一番は、学びの個別最適化かと思います。
支援学級の子たちも、ICTによってできることが増えるのではないかと。個別最適化みたいなところは、人の手だけでは限界があると感じていて、多国籍だったり聴覚視覚障害がある子がまとまって一気に対応できるか、と言われたらできないと思うんです。でも機械があることで対応ができるのであれば意味がある、いわゆるインクルーシブに近づくと思います。
あとは今までも宿題は出していましたが、それはただ確認する、個人の能力分析でしかありませんでした。個別にあった宿題やドリルができるようになると、学力向上という意味では影響が大きいと思います。
根本は学級経営
――先生のようにICT活用に前向きな人は、周りに多いですか?
正直、まだ少ないと思います。PCが増えると箱が邪魔だよねとか、壊れたらどうするのかとか、後ろ向きなことを言われている先生が多い印象です。だから導入されても、本当に使われるのだろうかと心配しています。
やっぱりパソコンのことがまだよく分からなかったり、苦手だと授業がもたついたりします。必要ないところはもたつきたくないし、もたついたらうまくいっていないと思われる。それなら今までは使わなくてもできていたから使わないと。
そして情報機器を使えるかって、成績とは関係ないと思うのですが、例えばやんちゃな学年に渡すと壊すから使いにくいと思っている方も多いと思います。
結局一番大事なのは学級経営なんです。パソコンは文房具と同じで、鉛筆を出して遊んでいるような学級でパソコンが使えるわけがない。根幹の部分は学級経営に跳ね返ってくるので、より高度なことが求められると思います。
――学級経営もICTによって変化する部分があるんでしょうか?
先生と児童個人が繋がりやすくなると思います。個別の繋がりができて、子どもたちも先生からのコメントが返ってくるのを楽しみにしていたり。連絡帳とはちょっと違うやりとりというか、紙を解しているコミュニケーションと、デジタルのコミュニケーションは違いますね。より閉鎖的になっていると思います。
知識技能ではなく能力の育成が必要
――先ほど、ICT活用について前向きな人ばかりではないと言われていましたが、そこに対してどのような働きかけをされるのでしょうか?
前任の小学校でしていたような動きをするのかな…前やっていたような方法で教育課程の中に入れ込んでいき、子どもに身に付けさせたいスキルをみんなに伝えていくと思います。
自分だけが情報教育に熱心でも、子どもたちのパソコンスキルがあがっていくわけではないです。先生みんなができるようにならないと意味がないので、全教員用の年間の情報教育計画を作成しました。ツールを使わなくても授業が成立するのが現状ですが、マニュアルがあると少し違ってくるのかなと。
もう一人の先生と一緒に作成して修正を重ねています。さすがに市教委が作ったものもあると思いますが、それはそのまま使えるわけではなく、学校の実態に合わせていく必要はありますしね。
――すごい取り組みですね。ちなみにの他校の情報担当の先生と意見交換をする機会はありますか?
聞いたことがないです。知り合いもいないし、情報のことは一緒に年間計画を作成した先生としかやっていないです。
でも情報担当って基本若い男の先生が担当をしているイメージで、1年目で情報担当になった時にどこまでできるんだろうと思うことがあります。その人が周りを巻き込んで、学校全体でやっていきましょうと言わせるのは大変だと・・
情報担当は、情報機器を無くさないように管理をし、故障をしたら情報センターに報告する役割と思われているかもしれませんが、本来は、情報活用能力の育成が必要だと思うんです。
ICT支援員が年に数回来ているのも、あまりうまくいってないと感じていて、年3回だけでは、その場凌ぎになっているかなと。
じゃあ誰が担当するのでしょうか。それはやはり情報担当の役割だと思います。さらに認識を変える必要があると思うのは、子どもたちにただICT活用の知識技能を身に付けさせるだけではダメだということです。これからは情報活用能力を育てないといけない。
なぜ積極的に動くことができるのか?
――お話の中で先生の熱量を感じています。なぜそこまで動けるのでしょうか?
一番は楽しいからですね。子供の学びのかたちが変わる瞬間に立ち会っているし、未来を作る子どもたちを育てることができるのであれば楽しい。
GIGAスクール構想のワクワクした話、すごいことになるという期待を感じる場面ももちろんあります。でもそれがどれだけ他の人に伝わっているだろうかと、これはなにも手を打たないと大変なことに、税金の無駄遣いになるぞと感覚的には思ったりするんです。
そこで使命感といいますか、県教委の方の思いや、国民の期待、かかっている費用を考えてもやらないわけにはいかないし、先生たちみんな日頃一生懸命やっているのに、そんなことで叩かれたくない、みんなのために、みんなが動けるようにしたいという思いです。
最後に
でもまずは、先生たちがICT機器をちょっと使ってみようと思えて、これいいねと思ってもらえたら嬉しいです。その時にやっぱり使うのは面倒だとなると、来年度使ってくださいという話になっても、嫌な気持ちで使うだけになる。こういう時にICTの可能性を発信して、少しでも前向きになってもらえたらと思います。今の勤務校でも研修とか実践交流、どんなレベルでもいいので、使った授業を蓄積・情報発信していきたいです。
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