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気功生活 Vol.114

2019.9.1 発行


むくむくと
湧き起こり、
流れ、変わり、
消えていく。

【目次】
添削を終えて 〜芸術と幸福  天野泰司
蔦町の家 〜蔦町基金  森田 徹
再読『懺悔の生活』
気功散歩・天香さんと長浜
The Book of Life 7/19・9/1
夏の講義録 
北から南から 〜高松気功のひろば  大川一郎
Self27期 ・気功という森と出会って  hot tea
暮しが仕事 仕事が暮し  吉田純子
けいじばん・秋の養生 




添削を終えて

芸術と幸福


                          天野泰司

 京都造形芸術大学で担当する「身体」の授業で、夏のレポート添削を終えました。実習課題は「心がおちつく やさしい気功」。通信制なので、10代から80代まで年齢も様々。7年間で約850名の添削と採点をしてきましたが、一人一人にドラマがあり、毎回、目頭が熱くなります。限られた文字や行間から見えてくるその人を感じ取り、心身や生活が健康で豊かになっていくことを願いつつ添削するので、集中した時間が必要で、今回、50名分の返信をするのにも一週間かかりました。
 物質的・金銭的な充足は、その土台にはなるけれど、必ずしも幸福とは直結していません。ただ物があるだけではなくて、それを美しい、ありがたいなどと感じる心があって始めて幸せを味わうことができます。芸術は、幸せと直結しています。美しいと感じるものに囲まれて暮らす。毎日使う器、衣服、文具、農作業や狩に使う道具…。そんな「生活の用の美」に光をあて、評価したのが、柳宗悦らが興した「民藝」という芸術復興の動きでした。生活の中で感じる喜びは、あまりにも日常的で、それが芸術であることを忘れがちです。日々目に入り、手に取るもの。住んでいる家、食べるもの、聞く音、感じる気配…。そうした身の周りの全てに気を配り、美的な何かを感じながら暮らす。それは自然と同調した最高の芸術かもしれません。
 私は、パソコンはずっとMacです。禅の庭にも通じるシンプルで洗練されたシルエット、使う人の身になって考えられた人間的な機能と操作性に、使っていて喜びを感じます。Appleが手がけてきたプロダクトデザインという分野は、現代における民藝と呼べると思います。
 京都造形芸大には、美しい製品を生み出すプロダクトデザイン、建築や造園をカバーする環境デザインなど、多様な学部学科がありますが、その根幹には、芸術を通じて世の中を変えていこうとする創立者・徳山詳直さんの強い思いがあります。「争いや貧困、歯止めのきかない欲望に満ちた世の中を変え、人間が、平和に、より幸せに生きていくためには、自然を敬い生命を尊ぶ芸術性こそが真の武器になる」*…。詳直さんは、本気でこの世界の立て直しに挑む、その戦いの砦として京都瓜生山に芸術大学を作ったように、私には感じられます。
 芸術が身近になればなるほど、日々の輝きが増し、幸福に直接結びついていきます。そして「身体」の授業は、最も身近な、自分の体に対して、自然な美しさや、気持ち良さを感じていくレッスンになっています。ごく自然に息をすることが気持ちいい。体にそっと触れ、やさしくなでることが心地よい。ゆっくり首や背骨が動くことが快い。歩く、立つ、座る、眠る、あくびやのび、食べる、排泄する、見る、聞く、感じる…。そうした一挙手一投足が、嬉しさや楽しさ、幸せな感覚に満ちている。

私の体の気持ちよさ
 レポートからは、悩んでいた症状が改善して、心にも変化が及んでいく様子、感受性が高まって、より深く、密接に自分と向き合っていく様子が伝わります。

レポートから
20代女 ◆ 寝るまでケータイを触っていたが、やめて、実習で心を落ち着かせたらそのまま寝るようにしたら、よく眠れるのはもちろん、起きた時の体の軽さがまるで違う。実習を通し感じた、わたしのなかの自然。その豊かな自然を守り、育み、自分の力で培っていかなければいけないのだと考えるようになった。
20代女 ◆ 得られた答えは「人の本来持っている力に注目する」ことだ。空っぽにして、シンプルな動作に集中することで、そうした力を引き出すことができる。少しの動作の違いで、感じ方が大きく変わる。「自分をだきしめる」のところで、色々なものから解放されているように感じた。
20代女 ◆ 「からだの自然」とは、体と心が整った上で、自然を感じて何をしたいのかという欲求が、体と心から溢れ出してくることではないか。生活する中の自然を感じて、寄り添うことができるのだと思う。
30代男 ◆ ストレスを趣味や買い物で発散することはできるが、リラックスについてはほとんど実行していなかった。 狭い世界の中に感覚を置き去りにしていた。不自然の中に生きていることも理解した上で、自然の感覚を取り戻すことができると気功から教わった。
30代男 ◆ 日常の動作の一行為が、深みを増していく。リズム感が出る。落ち着きが得られる。自分という存在のかたちを捉え直す。自分という容器に、気持ちを流し込む。ゆるめることで、逆に締めることも大切になる。心をゆるめることで、我慢強くなる。
40代女 ◆ この運動は続けてみることにした。朝晩欠かさないようにしているが、身体の変化に気付きやすくなった。身体に意識を向け始めると、生活習慣まで変わってきたのには驚いた。シャワーで済ませていたのを湯船にゆっくりと浸かり、冷えも改善されてきた。お金をかけなくても、美しくあることはできることを実感できた。
40代女 ◆ 3ヶ月ほど続けている。顎関節症がほとんどみられなくなり、非常に嬉しい。自然に深く息をして、笑顔になり、心身ともに穏やかになる。この、元々そうであっただろう状態に、自らで整えることができるようになり、気分が楽で穏やかにすごせる。
50代女 ◆ 少しの空き時間でも実習をやりたい、と思うようになって、自分でも驚いた。ハマってしまったようだ。とてつもなく疲れていたことに気づき、本当の自分に出会うような暖かな喜びを感じられるようになった。心底心地よい、と感じることができるようになった。
50代男 ◆ 「この手でこの歳までやってきたんだな」と感傷にひたりつつ心が落ち着いていく感覚あり。悩みが消えた訳ではないが「楽にいこうよ」と思える自分がいた。あまりにも楽しくなり、実技時間を延長して体をゆらしていた。妻から「顔がおだやかになった」と言われた。クレーム対応に疲れていたが、とてもありがたいリハビリになった。

 ここに、身体の持つ自然性、芸術性を感じ取ることができるでしょう。
 自然に対する感覚を開き、深めていくのか。
その感覚を閉ざし、鈍っていくのか。方向性は二つにひとつ。私たちはどちらかを、必然的に選ぶことになります。打撲をすると体は鈍ります、堪え難い痛みから臨時に体を守ろうとする働きとも言えますが、鈍りが重なると身体の運動や機能は停滞し、その延長には死があります。
 理不尽な苦しみが多い現代。苦しみと出会う度に感覚を鈍らせて自らを守り、鎧のように、身を固めてきたのかもしれません。でも、そのまま続けていると、自ら生命の火を消し、他人の痛みや苦しみにも気付かず、人を傷つけたり、ひどいことを言ったりと、攻撃的になっていくことすらあります。ある国や民族のことを悪く言う、いわゆるヘイトは、意図的な心理操作の産物ですが、作られた情報に容易に踊らされてしまう背景には、やはり鈍りが潜在しているのでしょう。憎悪の闇に火種が落ちると争いに発展します。気遣いや思いやりの心で照らし合っていると、トラブルがあっても力を合わせて乗り越えていけるでしょう。
 本当の意味の平和は、相手を自然に思いやることができる身体状況を土台に培われるものです。私の体に目を向け、隠れていた痛みや苦しみに気づくと、感覚が鋭敏になり、痛みを減らし、苦しみを乗り越える方向へと体が働き始めます。体への気遣いが深まれば、当然相手にも気を配り、より気持ち良い方向、美しさや幸せを感じる方向へと、生命の自発的な動きが続き、互いを大切にしあいながら満ち足りて暮らす、自然なままで幸福な世の中へと歩みを進めていくことになるでしょう。
 そのための、とても簡単で、誰にでもできる方法として「気功」はあるのかもしれません。本『気功入門』を読んで、映像を見て、自然について思いをめぐらし、七日間体験する。誰の力を借りることもなく、自分の力でここまで心身を変えていけるのであれば、平和で幸福な未来をイメージすることは容易でしょう。空想は、この世の中を確実に動かしていく原動力です。


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