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創業110年の今こそ、「楽しい」「面白い」を追求したい。【近畿壁材工業株式会社 代表取締役 浜岡淳二さん】

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今回インタビューしたのは、兵庫県・淡路島で110年続く壁材メーカー、近畿壁材工業株式会社代表取締役の浜岡淳二さんです。

「漆喰」や「土壁」など、自然に優しい壁材を製造販売する近畿壁材さん。しかしこれを読む多くの方が、「この建物に使われている壁材は何だろう」なんて、意識したことが無いように思います。

しかし、実はみなさんが普段何気なく目にしている外装や内装にも、使っている壁材ごとの個性があって、特に「漆喰」や「土壁」には、それでしか出せない味がある。

今回のインタビューでは、そんな壁材の魅力はもちろん、老舗企業の社長でありながら「自分は経営者に向いていない」と語る浜岡さんが考える、これからの中小企業のあり方までをお聞きしました。

聞き手:very50スタッフ 杉谷

浜岡 淳二さん(近畿壁材工業株式会社 代表取締役)
大正元年創業、淡路島で約110年続く塗り壁メーカーの4代目社長。漆喰や土壁などの壁材を製造・販売する。YouTubeチャンネルも運営し、登録者数は中小企業としては驚異の1400人超。


「環境に優しい」だけじゃない、漆喰や土壁の価値

ー 漆喰のような自然素材の壁材が、コロナ禍で再注目されているという話をお聞きしました。詳しく教えていただけますか?

実はコロナ禍よりもっと前……10年くらい前から、自然由来の建材ブームが始まっていました。シックハウス症候群が問題になり、住宅全体における自然素材の重要性が高まったんですね。

「100%自然素材」である漆喰も、そんな中でブームになりました。安全に自宅で塗れる、ということでDIYニーズにマッチして、コロナ禍で改めて注目されるようになった形です。

独特の質感と白色の美しさが際立つ漆喰壁
昔ながらの土壁 おしゃれカフェや居酒屋で目にすることがあるかも

解説:漆喰の主原料は消石灰、海藻のり、植物繊維、土壁の主原料は土、藁、砂と、どちらも100%自然由来の壁材です。特に淡路島は上質な土が有名で、近畿壁材は元々土を販売する事業から創業されたそう。

ー 安全性の観点以外にも、浜岡さんが個人的に漆喰や土壁を魅力に感じる点はありますか?

実は私は、今言ったような「機能面」よりも「デザイン性」に可能性を感じてるんです。

漆喰や土壁って、タイルやレンガのような「繋ぎ目」なしにシームレスに塗れたり、立体的なデザインを描けたりするんですね。そういう建材って実は少なくて、ガウディ建築のように曲線の多い芸術的なデザインにはすごく適しているんですよ。タイルや木材のような「切って貼って」の建材には作れない、塗りの手仕事だからこそのデザイン性に非常に注目しています。

だから、最近インターン生を採用しているんですけど、ぜひ来てほしいのはマーケティング的な観点で「1を10にできる」人ではなく、デザイン的な観点で「0を1にできる」人。機能性も大事ですが、むしろ私はアートの世界に広めていきたいなと思っています。

ー 壁材をデザインの観点で考えたことがなかったので新鮮です。デザイン性に注目し始めたきっかけはあったんですか?

今どんどんAIの時代に移り変わっていく中で、「人間が人間らしくやってくとしたら」と考えたら、デザイン性、手仕事、感性なんじゃないかと思うんですよね。それって「機能的価値」にも優る「意味的価値」だと考えていて、我々はそこに強みがあると思ったんです。

データや素材を大量に持っている大手メーカーに、機能的価値で渡り合うことは簡単じゃない。我々のような中小企業が戦っていくには意味的価値だと、経営的な観点から考え方を転換しました。

そういえば先日very50さんのプログラムを通じて高校生がうちを訪問して、土壁で建物を塗ってくれましたが、その建物を見たお客さんが「面白いね」ってすごく褒めてくれますよ!

高校生が近畿壁材さんで土壁体験をした時の様子

新しいものを生み出して、110年続く近畿壁材に「自分らしさ」を

ー それはとても嬉しいです!先ほど、「中小企業が」というキーワードが挙がりましたが、中小企業として果たしたい役割もあるのでしょうか?

中小企業「だからこそ」やるべき、というわけではないですが、エンドユーザーとの距離感を詰めて、小回りの利くビジネスを展開したいですね。例えば過去には、家庭にあるゴミを塗ってリメイクするプログラムを実施しました。お菓子の空き箱を塗って宝箱にしたり、ペットボトルを塗って花瓶に変えたりするんです。

ゴミをゴミでなくする……つまり捨てるはずのものの「蘇り」ですよね。「無から有を作り出す」以外の方法もあると思うんですよ。

ー 「捨てられるものをまた使う」のには社会的な意義があると同時に、浜岡さんご自身が面白いと感じられているんじゃないかな?とも想像しました。

そうですね!正直自分のアイデンティティとしても、マーケティング・ビジネス的な考え方よりも、「人を楽しませたい」想いの方が強いんですよね(笑)。自分は元々、ツアーコンダクターやホテルマンのようなサービス業がやりたかったんです。人を驚かせたり、もてなしたりしたくて。

だから、経営者としての自分と本来の自分の間で、辻褄が合わないと感じることもありますね。「新しくて面白いモノを生み出して、漆喰の良さを伝えていきたい」気持ちが強いので、「ウチの自慢の壁材をどんどん売っていくぞ!」と叫んでいる熱血親父じゃないんですよ(笑)。漆喰と土壁がゴールではなくて、それを使って、新たに何かを創り出したいんです。

ー 今のお話、めちゃめちゃ聞きたかったところです(笑)。浜岡さん個人の個性が、経営者としての姿にも顔を出していますよね。

そうですね。今流行りのSDGsについても、私としては「ワクワクしながらやっていたことが、結果的にSDGsだったよね」と思える方が大事だと思うんですよ。お金儲けの手段として強引に事業に絡めるやり方には違和感がある。

「経営のための事業」ではなくて、本当に面白いと思って取り組んだことが、経営に繋がっているべきだと思いますね。

実は自分は婿養子で、結婚するまでアパレルメーカーの営業をしてたんです。だから、幼い頃から壁材の商売をしている環境で育ったわけでも、DNAに漆喰が組み込まれている訳でもない。そういう意味で、「経営者らしい」信念を貫けないところがあるんですかね(笑)。

ー いやいや(笑)!「貫けない」のではなく、「浜岡さんなりの面白さ」だと感じます。企業として変化するきっかけが生まれているのはないでしょうか。

確かにこれまでは「先代の仕事を引き継いでなんとか上手くやっていこう」が、私の人生の一つの目標だったんですよ。しかし昨年先代が亡くなり、自分も社長として10年という節目を迎えた。コロナ禍で世の中も大きく変わりつつある。そんなタイミングだからこそ、これからの10年は欲を出して自分らしさを出していきたい。

なので「俺はホンマは何をしたかったの?」「お客さんをどうやって喜ばしたかったの?」と自分に一生懸命問いかけ、追求しています。……教えて下さい(笑)。

かといって、例えば今から急にラーメン屋は始められないじゃないですか。なので、土壁や漆喰という「今持っている強み」と、「自分のやりたいこと」をすり合わせて、事業として実現させたい。それが次の10年の目標です。

社員のみなさん

人並み外れた「みんなを楽しませたい」気持ち

ー 以前私たちが近畿壁材さんをお邪魔した際も、人を楽しませることが好きな浜岡さんの人柄を感じました。今のような性格になったきっかけってあるんでしょうか?

関西人特有なのか、昔からおちょけてたし目立ちたがり屋ではあったんですけど、それって自分のためだったんですよね。いつからなんですかねえ。あ、でも小学生の頃から、「人の世話をする人」に対してすごく憧れがありましたね。運動会の運営をする高学年をかっこいいなあと眺めていたり。

ー 自分が目立つだけでは満足できなくなって、他人を喜ばせるほうが面白く感じるようになった、ということですかね?

そうなんですかね。

そういえばつい最近、知り合いから「浜岡さんのとこでバーベキューしたいから場所貸してくれませんか?」って言われたので、「良いっすよ〜」って返事したんですね。で何人来るか聞いたら、30人って言うんですよ(笑)!

でも「それならやったるわー!」って気合い入っちゃって。朝4時に起きて、テントやらコンロやら食材やらプロジェクターやら、一人で全部、会社の倉庫に並べて用意したんです。それで深夜までバーベキュー楽しんで、次の日の昼くらいまで、また一人で片付けたっていう。

大変すぎて「こんなこと言わなきゃ良かった」って、後悔はするんです。でもお客さんが来て「わー!すごい!」って喜んでくれるのが、めっちゃテンション上がる。これもう、性分なんです。だから「もう二度とやらない」って言いながら、もしまた「バーベキューやらせてくれ」って言われたら、同じことやっちゃうと思います(笑)。

淡路島の海岸沿いに位置する近畿壁材さんのオフィス

ー そんな浜岡さんを世間から見たら、「心優しい人」という印象を抱くと思います。ご自身ではどう捉えていますか?

もし「ええ人」でだけで世間から認められて食べていけるなら、これで良いです(笑)。でも本来経営に重要なのは、優しさよりも厳しさとか損得勘定ですよね。

でも僕はそれができないから、友達や先輩からも「お前は甘い」って言われます。そういう意味で、経営者としては失格かもしれない。ただ一方で、このサービス精神を周りの人は認めてくれていたりする……だから僕は経営者よりNo.2くらいが向いているのかも知れないです(笑)。

実は結婚したばかりの頃、「将来はアパートを建てて、伸び盛りの芸術家や作家さんを住ませてあげて、アトリエを開放して……『親父さん』になりたい」なんて夢を語って、妻に「アホちゃうか」って言われてました(笑)。なんか、そういうのが好きなんですよ。人を育成したり喜ばせてあげたり。

本当はもっと金儲けに執着しないと、と思うんですけど、やりたいことを隠しきれない。我慢できないんですよ(笑)!


中小企業が「面白い」を届けることの意義

ー 浜岡さんの人情味あってこそ、愛される会社になっているように感じました。近畿壁材さんに関わる人が増えることで、新しいアイディアやチャンスも生まれる気がします。

うーん、もっとお客さんにも愛されたいです(笑)。

ただ、言うように最近淡路島に移住者が増えていて、その中で口コミが広がっているんですね。DIYする方たちがたくさん来てくれて、僕もサービス精神旺盛なんで、丁寧に教えてあげたりね(笑)。

それって確かに、大きな企業を相手にするよりも規模は小さくて、ビジネス的には非効率的かもしれない。でも、そういう方たちのネットワークが広がって、繋がって、それで食べていけるなら、僕個人が求めるのは、そんなお客様なんですよ。

大きな現場でゼネコンさんと組んで、競争だらけのビジネスをして……よりも、「浜岡さんのところに行けば面白いことできるわ」と思ってくれる人が集まって、商品も売れて、従業員も幸せにできる。そんな共創が生まれる事業が理想です。

でも実際、これから大切になる価値観ってそれだと思うんですよね。5年、10年先に顧客になってくれる人たちは、「意味的価値」を求めている。お金儲けよりも、「働きたい場所で、働きたい人と」なんでしょうね。

自然育児や自給自足がしたくて淡路島に移住してくるなんて、一昔前じゃ珍しかった動きが今や当たり前になっている。こういう新しい価値観に対して価値を届けていくことが、企業の使命じゃないかな。100年以上続いた近畿壁材も同じように過渡期です。ターゲットも商品も、提供する価値も、再構築していかなあかんなあ、と思っています。

今、漆喰や土壁の体験施設を新たに建設しているんですけど、これもその一環です。60歳までの10年間は、変化、変化で、次の近畿壁材を作っていきたいです。

ー 最後に、毎回必ずお聞きしている質問です。私たちは「自立した優しい挑戦者を増やして、世界をもっとオモシロク」というミッションを掲げています。浜岡さんにとって「優しい挑戦」って何だと思いますか?

うーん、環境負荷の少ない活動に自ら取り組んでみる、っていうことはあるかも知れないですね。例えば最近、淡路島で古民家を買って、漆喰や土壁を塗ってリノベーションする、という人たちがいるんです。自ら手足を動かして、環境負荷に優しいものを作ることは「優しい挑戦」じゃないかな。

「すぐに壊して新しいものを作る」ではなく、「古いものを蘇らせる」ことができる社会を築いていきたいです。

あとは、そういう社会的な意義だけじゃなくて、この面白さをもっと知ってもらいたい。この間高校生と土壁体験をした時も、こんなに楽しんでもらえるなんて思ってなかったから(笑)!

きっと、「知らなかったけど知ってみると面白い」ってことがたくさんあるはずなんですよね。高校生は勉強で忙しいし、特に都会の子は「バズったもの」しか知らないんじゃないかな。

知ったり、体験したりする機会が少ないと、「自分に何が向いているか」に気づくのも難しいと思います。日本の中小企業はいっぱい面白いものを持っているから、それに触れる機会を届けていきたいですね。


インタビュー後記

「漆喰と土壁を活かし、新しいモノを創っていきたい」と繰り返し語っていた浜岡さん。

実は近畿壁材の110年の歴史を振り返っても、代々の経営者はみな柔軟に、時代に応じて事業を転換してきたそう。漆喰壁を初めて取り扱い始めたのも、3代目である、浜岡さんの先代からとのこと。

伝統に固執するのでなく、時代の変化に応じながら、本当にワクワクする事業に取り組む。それこそが、「持続可能なビジネス」であることを教えていただいたように思います。

建設中の体験施設は、今夏完成予定。是非訪れてみてください!

近畿壁材HP

近畿壁材YouTubeチャンネル


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