見出し画像

【ドミニカ共和国】レッドオーシャンに飛び込んだNPB球団に勝算アリ?

MLBには世界中から選手が集っており、2023年の開幕ロースターには、アメリカ合衆国を除く19の国や地域の国籍を有する選手が登録された。合計で269名に及び、これは全30球団の開幕ロースター枠の28.5%を占めている。

日本や韓国、台湾といったアジア地域や、ドイツやオーストラリアにブラジル、オランダ領からはキュラソーとアルバなど、様々な国を代表する選手が登録されているが、大きな影響力を持っている国はカリブ海に面する国々だと言っても過言ではない。最大勢力のドミニカ共和国(104名)を始め、ベネズエラ(62名)やキューバ共和国(21名)、そしてプエルトリコ(19名)といった国々だ。

彼らカリブ諸国の選手は、天性のバネと独特のリズムを始めとする、フィジカルポテンシャルを活かしたダイナミックなプレーで魅了。フランチャイズビルダーからバイプレーヤーまで様々な役割で球団を支えており、MLBになくてはならない存在となっている。

NPBでも、W・バレンティン(オランダ領キュラソー)を始め、T・ブランコ(ドミニカ共和国)やA・ラミレス(ベネズエラ)、A・デスパイネ(キューバ共和国)やN・ソト(プエルトリコ)など、数多くのタイトルホルダーや記憶に残るプレイヤーを輩出してきた、馴染み深い国々でもある。


今回は、そういったカリブ諸国、特にドミニカ共和国にスポットを当てることにする。MLB球団が野球アカデミーを設立し、ほぼ独占的に選手の供給が行われている”レッドオーシャン”ドミニカ共和国において、某NPB球団が始めた新たな試みは成功するのか。そこには、野心的な現地野球アカデミーとカリブ海を股にかける令和の寝業師の暗躍があった。


1.助っ人外国人はいずこに

外国人選手たちの呼称として長らく使われてきた、”助っ人”というワードを聞かなくなったのはいつからだろうか。NPBのレベルが向上するに従い、反比例するかの如く使われなくなったように思う。もはや、個人タイトル獲得を期待できる”助っ人外国人”を獲得するのは、非現実的な時代となったのかもしれない。

こうした現状を踏まえたNPB球団は、完成された外国人選手を獲得すると同時に、ポテンシャルに溢れた未完成な若手をブラッシュアップする方針がトレンドとなりつつある。また、アンダー世代を育成枠で獲得するという試みも始まっており、即戦力型から育成型へ完全にシフトチェンジする球団が現れてもおかしくない状況である。

これら全ての動きは、NPB球団の危機感の表れでもある。

MLBとNPBの実力差こそ確実に縮まっているが、経済格差は縮まっているとは言い難い。この経済格差により、MLBから選手の供給が望めないのであれば、自分たちで育てるしかないのだ。しかし、少子化に伴う競技人口の低下と人材の先細りは現在進行中の課題であり、NPBのレベル向上も頭打ちとなる可能性がある。

ではどうするべき?人材を集めればいい。どこから?

ドミニカ共和国からである。


2.低年齢化する国際フリーエージェント

2021年2月に衝撃的なニュースが駆け巡った。読売ジャイアンツがドミニカ人選手2名との育成契約を発表、弱冠16歳のホセ・デラクルーズとフリアン・ティマである。彼らはMLB球団からのオファーもあった中、低評価(契約金)や育成環境を考慮した結果、契約金50万ドルでの入団を決意。これまでも、オスカー・コラスが18歳で来日した例はあるものの、ハイスクール世代の海外国籍選手との育成契約という、驚愕のプレスリリースであった。

これだけに留まらず、同年10月~11月にかけて、福岡ソフトバンクがマイロン・フェリックス/フランケリー・ヘラルディーノ、マルコ・シモンと育成契約。翌22年5月にルイス・ロドリゲス、同年12月には、なんと15歳のホセ・オスーナと育成契約。翌23年12月に16歳のデービッド・アルモンテと育成契約を結んだ。

21年2月 ホセ・デラクルーズ(16)/SS 50万ドル
21年2月 フリアン・ティマ(16)/OF 50万ドル
21年10月 マイロン・フェリックス(21)/RHP 40万ドル
21年10月 フランケリー・ヘラルディーノ(16)/IF 40万ドル
21年11月 マルコ・シモン(17)/OF 45万ドル
22年5月 ルイス・ロドリゲス(20)/RHP 60万ドル
22年12月 ホセ・オスーナ(15)/OF 100万ドル
23年12月 デービッド・アルモンテ(16)/IF 100万ドル

これまでも、トライアウトを経た掘り出し物の発掘はあったが、ドミニカンプロスペクトの獲得は異例と言えよう。

MLB球団は、16歳以上25歳以下の国際フリーエージェントとの契約に際し、年間の予算上限が定められていることから、全てのプロスペクトに希望通りの契約金を提供できないのが実情となっている。

2024年クラスを例に挙げると、ランキング1~15位前後は200~500万ドル、15位前後~40位は100~200万ドル、41~60位は70~100万ドル。61~85位は50~70万ドル。その他の注目選手は50万ドル前後とBaseball AmericaBen Badler記者は予想。残る選手は球団によって様々だが、注目度の低い選手は数千~数万ドル程度で契約を結ぶ。

しかし、NPB球団による国際フリーエージェントの獲得にはルールがないのである。ここに目を付けたのが、読売巨人であり福岡ソフトバンクなのだ。資金力の豊富な両球団が、資金や獲得年齢にルールのあるMLB球団を上回るオファーと育成プランを提示できたことで、プロスペクトの獲得に成功したというのが事の顛末となる。

ドミニカンプロスペクトの最大の魅力は、日本人にないフィジカルポテンシャルにあると考えられる。彼らの多くはムラート(混血)であり、天性のバネや柔軟性、強靭さを兼ね備えた理想的なアスリートなのだ。加えて、ポジションやタイプを厳選して獲得できる点も非常に大きい。他球団との兼ね合いにより流動的となる、ドラフト会議の補完/リカバリーとして獲得することが可能な点もメリットである。

一方で、寮や通訳、教育といった生活環境を始め、十分な出場機会の確保などの課題も多い。こうした条件をクリアできる球団は限られているのが現状ではないか。

NPB支配下外国人選手の国際フリーエージェント契約額TOP5
No.1 アンダーソン・エスピノーザ(オリックス) 180万ドル
No.2 ロベルト・オスナ(福岡ソフトバンク) 150万ドル
No.2 ヨアンダー・メンデス(読売巨人) 150万ドル
No.4 フランミル・レイエス(北海道日本ハム) 70万ドル
No.5 ルーグネッド・オドーア(読売巨人) 42.5万ドル
番外 ダーウィンゾン・ヘルナンデス(福岡ソフトバンク) 7500ドル


3.暗躍する令和の寝業師

前項では簡潔に書いたものの、これには余談がある。MLB球団を出し抜いた、福岡ソフトバンク/萩原健太中南米担当スカウトの暗躍にまつわるエピソードだ。MLB球団は、国際フリーエージェントと契約する際にいくつかのルールがある。その中でも、16歳以上であるという点に着目したのが、萩原スカウトであった。

ドミニカ共和国の若手選手の目標は、16歳になった年にMLB球団と契約し、球団傘下のアカデミー入りすることにある。言い換えると、契約対象ではない15歳以下の少年たちは、元メジャーリーガー/トレーナー/リクルーターなどが主催する、私設野球アカデミーで切磋琢磨しながらMLB球団からのスカウトを待つのが一般的なのだ。この点を突いたのが萩原スカウトである。

なんと、22年12月に当時15歳のホセ・オスーナ(OF)を口説き落としてしまったのだ。

つまり、MLB球団の要注目選手であった彼を、契約が解禁される16歳に達する前に獲得したのである。国際フリーエージェントとの契約に関するルールがないという、NPB球団の利点を最大限に活用したと言える。MLB球団の泣き所を突いた、鮮やかな獲得劇であったことに違いない。

これだけに留まらず、23年12月にも16歳のデービッド・アルモンテ(IF)と契約を締結。彼もコロラド・ロッキーズやヒューストン・アストロズから熱心にスカウトされていたプロスペクトであった。今回のケースは16歳であった為、特別な事情はなさそうに見えるが、実はこれにも裏があったのだ。

彼は生年月日の都合上、国際フリーエージェントとしてMLB球団と契約可能になるのは1年後の2025年クラスであった。つまり、彼のケースもまた、契約が解禁される前に、萩原スカウトが口説き落としたということになる。

福岡ソフトバンクとの契約であれば、1か月以内での契約金の入金が保証されるが、MLB球団との契約を選択した場合は、契約金が入金されるまで1年半程度の待機を余儀なくされる。現地メディアによると、covid-19のパンデミック以降、選手やその家族、私設アカデミーは経済的なリスクに晒されており、彼らができるだけ早く契約を結ぶことを望んでいたことも要因のひとつであったと伝えられた。

もはや、令和の寝業師と言っても過言ではない、萩原スカウトの辣腕ぶりであった。


4.”JD"・オスナ

ドミニカ共和国では、男の子が生まれると「野球選手が誕生した(バットとボール2個を持って生まれてくるというジョーク)」とユーモアたっぷりに祝うのだという。そうして生まれ育った少年たちは、地域のリトルリーグで腕を磨く。

中でも、有望な少年は、現地で”ブスコン(Buscone)”と呼ばれるリクルーター(ブローカー)により大小様々な私設野球アカデミーへとスカウトされる。情報提供や仲介を行う、スカウト専門の"ブスコン"もいれば、トレーナーや代理人/アカデミー運営を一手に担う大物"ブスコン”も存在する。この際、将来MLB球団との契約で発生する、巨額な契約金の分配(手数料として20~50%が相場)を約束する契約書(口頭合意を含む)にサインするのだ。

彼ら”ブスコン”は、スカウトしたアカデミー生がMLB球団と契約可能となるまでの期間、使用する用具やトレーニングを始め、学校教育や医療を含めた衣食住の全てを提供する。また、スペシャルなアカデミー生に限れば、その家族に対する金銭的なサポートを行っているとも。

公務員の最低賃金が月150ドルに満たないドミニカ共和国において、満足な食事すら摂れない貧しい家庭で生活するよりも、こうした私設アカデミーが提供する、充実した環境で寮生活を送るほうが賢明だと考える関係者も存在する。これは、おおよそ95%の少年たちが該当するともいわれている。こうした環境の中、大会やショーケースで結果を残し、MLB球団と契約を結ぶことがアカデミー生の理想的なキャリアパスである。

こうした大小様々な私設野球アカデミーは、育成したアカデミー生をMLB球団に売却した利益(契約金の分配)やスポンサーからの寄付で運営されており、高価で買い取ってもらえるMLB球団にアカデミー生を供給することで、共存関係を築いているのだ。もちろん、カープアカデミーのような例外も存在する。

これが、NPB球団にとって、ドミニカ共和国球界が”レッドオーシャン”たる理由である。ポテンシャルに溢れたプロスペクトが独占的に供給される強固なパイプラインが構築されており、NPB球団がプロスペクト市場に参入する隙はほとんどないに等しい状況となっている。

では、福岡ソフトバンクがMLB球団も注目するプロスペクトを獲得できるのはなぜなのか?

鍵となるのがホセ・ダニエル・オスナ、通称”JD”と呼ばれる大物”ブスコン”である。彼が手掛けたR・プアソンは、19年に契約金510万ドルでオークランド・アスレチックスと契約。23年には、F・セレステンが契約金470万ドルでシアトル・マリナーズと契約するなど、15年以上の確かなキャリアを誇る人物なのだ。

件の”JD"・オスナが主宰しているのが、オスナ&ロドリゲス・ベースボール・アカデミーである。

現在、福岡ソフトバンクと育成契約を結んでいるドミニカンプロスペクトの多くは、オスナ&ロドリゲス・ベースボール・アカデミー出身となっている。つまり、福岡ソフトバンクは、現地アカデミーからプロスペクトを直接供給する独自のパイプラインの構築に成功したのである。

”JD"・オスナは、KBOが育成型外国人制度の導入を決定した際に、半数以上のKBO球団を招待してトライアウトを開催するなど、NPBだけでなくアジア市場に目を向けている野心家である。残念ながら、KBOが育成型外国人枠制度を施行前に廃止したことから、韓国球界への進出は実現しなかったが・・・。

また、北海道日本ハムファイターズに移籍したフランミル・レイエスの代理人を務めるなど、年々NPBへの影響力を増している様子。今最もホットなドミニカ球界関係者と言えよう。

福岡ソフトバンクにあって、他のNPB球団になかったもの。それは、”JD"・オスナの存在であった。萩原スカウトが長年に渡るスカウトキャリアで築き上げた、ドミニカ球界やオスナ&ロドリゲス・ベースボール・アカデミーとの密接なコネクションこそが、他球団が羨むドミニカンプロスペクトの獲得を可能とする重要なファクターだったのだ。


5.光と影

こうした福岡ソフトバンクの新たな取り組みは、着実な成果を挙げていると同時に、問題点も浮き彫りとなっている。

国際フリーエージェント市場への参入は、MLB球団に競合相手と認定される可能性を孕んでいるのだ。特に、MLB球団との契約が解禁となる16歳以前に契約を結ぶなど、ルールの抜け道を利用していることによる関係悪化が懸念されるため、慎重な立ち回りが求められる。

一方、ドミニカ共和国にも多くの不安の種が存在する。

彼らが国際フリーエージェントとしてMLB球団と解約可能となるのは16歳からであるが、13~14歳の時点で契約が内定しているケースも多い。また、同国内における若手選手のドーピング汚染(禁止薬物)が蔓延しており、身体的な成長を促進するためのドーピングが常態化しているとの説もある。こうしたドーピングは、悪質な”ブスコン”により奨励/提供されているとの調査報告もあり、01年には2人の若手ドミニカンが死亡するなど、非常にセンシティブな問題と言えよう。

そして、出生記録の改ざんも深刻な問題となっている、これは、年齢を若く偽ることで、契約金のベースアップを狙うものである。病院の戸籍係(必要であればあらゆる関係者)を賄賂で買収、同様のプロセスが学校でも行われ、4~5歳程度の改ざんが行われていることが判明している。近年は、戸籍のデジタル化により改善が進んでいるが、出生記録の改ざんにより、2024~27年にかけて事前合意していた数十人の契約が破棄されたであろうことが、24年1月に報道されている。

中日ドラゴンズのオルランド・カリステも、こうした出生記録の改ざんによる被害者の1人である。当時18歳だった彼の兄が自身の年齢を若く偽るため、弟であるオルランドの戸籍を不正に利用。カリステ家にオルランドが2人存在することを不審に感じたボストン・レッドソックスが、彼との200~300万ドルと予想された契約を見送った。これにより、彼のMLB入りは2年間遅れた上、カンザスシティ・ロイヤルズとの契約金は100万ドルと、大きく評価を下げる結果となった。

更に、MLBは国際フリーエージェントの自由獲得制から、国際ドラフトへの移行を目指している。現行のルールが適応されるのは、労使協定(CBA)が改定される2026年までとなっており、重大なターニングポイントと言えよう。先行きが不透明な状況のため、現時点でのドミニカ共和国へのオールインは熟慮する必要があると考えられる。

しかし、こうしたリスクを差し引いてでも得られるリターンの大きさがドミニカ共和国にはあるのだ。

22年All-MLB 1st Team(SP)/フランバー・バルデス(30) 1万ドル 
17,18,20,22年シルバースラッガー賞/ホセ・ラミレス(31) 5万ドル 
23年MLB公式全体10位プロスペクト/エリー・デラクルーズ(22) 6.5万ドル
23年盗塁王/エステウリー・ルイーズ(24) 10万ドル
22,23年セーブ王/エマヌエル・クラセ(25) 12.5万ドル
22年サイ・ヤング賞/サンディ・アルカンタラ(28) 12.5万ドル
23年MLB公式全体13位プロスペクト/エウリー・ペレス(20) 20万ドル

契約金20万ドル以下というシビアな条件に限定したケースですら、直近2シーズンでこれだけのタイトルホルダー/プロスペクトが該当するのである。同国に進出する球団には、清濁併せ飲む度量の大きさが必要なのかもしれない。


6.NPB球団に勝算アリ?

NPB球団がドミニカ共和国に食い込むためには、強固なコネクションを築ける人材とアジア市場に関心のある野心的なアカデミー。または、腕利きの”ブスコン”の存在が不可欠となる。長期的なスパンでの取り組みも必要となるため、同国への本格的な参入のハードルは、決して低いものではないことが推測される。

しかし、アプローチの方法やターゲット層こそ異なれど、NPB球団によるドミニカ共和国への期待や熱量は、これまでにないほど高まっていることも事実である。福岡ソフトバンクや読売巨人という好例がある以上、他のNPB球団にも間違いなく勝算はあるはずなのだ。

日本やアメリカ合衆国における18歳といえば、ハイスクールを卒業してドラフトが解禁される年齢である。ドラフト指名をされずとも、カレッジや社会人野球、独立リーグなどでスキルアップを目指すなど、様々な選択肢が存在する。

しかし、”ブスコン”の共通認識では、ドミニカ共和国における18歳は、”ベースボール”(MLB傘下アカデミー入り)を諦めることを考える年齢だという。長年の経験則により、18歳の時点で芽が出ないドミニカンは、将来的に大成する可能性が低いと判断されるからだ。そして、MLB球団との契約が叶った場合でも、トッププロスペクト以外はドミニカン・サマーリーグでふるいにかけられる。

毎年500名以上の若手ドミニカンがMLB球団と契約を結ぶが、アメリカ本土でプレーできるのは全体の約47%である。そのうち、メジャーリーガーまで登り詰められるのは、約4~5%ほどの狭き門なのだ。残る53%はアメリカの地を踏むことなく、数年でリリースされるのが実情だという。

MLB球団と競合するプロスペクトの獲得が難しいのであれば、こうしたカレッジ世代をスクープアップするのも一つの手ではないか。身体/技術的に伸びしろを残したカレッジ世代の育成/ブラッシュアップは、大化けの可能性を多分に秘めていると考えられる。

この取り組みを19年から始めたのが、横浜DeNAである。レミー・コルデロとの契約を皮切りに、同年オフよりドミニカ共和国でのトライアウトを定期的に開催。ジョフレック・ディアス(ベネズエラ)やハンセル・マルセリーノ、アレクサンダー・マルティネスといったカレッジ世代と育成契約を締結するなど、独自のパイプラインの構築に奮闘中。

加えて、阪神タイガースがトライアウトを初開催し、若手ドミニカン2名と育成契約。OBがアテンダーとして参加するなど、同国内での足場を固める動きが見られた。埼玉西武も若手ドミニカン2名と育成契約を結ぶなど、成功例を積み重ねることで、プロスペクトからの興味を集める方針と見受けられる。

両球団のターゲット層は、MLB傘下入りするも伸び悩んだオールドプロスペクトが中心となっている。こうした球団がコネクションを広げ、エアポケットに嵌ってしまったカレッジ世代を獲得できるようになれば、ドミニカ共和国が持つ素晴らしいポテンシャルを最大限に活かせるようになるのではないだろうか。


7.カリブ海の宝石

ドミニカ共和国への参入という言葉を一括りにしてはいけなかった。

その言葉の裏には、各球団がそれぞれに描くビジョンやプロジェクトがあったのだ。1990年広島カープが同国にアカデミーを設立して以降、ウィンターリーグへの指導者や選手の派遣など、スタンスや取り組みは様々である。

とは言え、同国へ参入する球団の増加により期待されるのが、MLBへと羽ばたいたアルフォンソ・ソリアーノのようなスターの再来ではないだろうか。残念ながらNPBでは結果を残せなかったが、MLB移籍以降の大活躍は周知のとおりである。

過去に例を見ないほど、NPB球団に在籍するドミニカンは増えており、彼らの中からスターが出現する日も、そう遠くない未来の話ではないのかもしれない。また、全国各地で腕を磨く独立リーガーも見逃せない、彼らもバットとボールを持って生まれた野球選手なのだ。

中世の時代に海賊達が名を馳せたカリブ海には、未だ多くの財宝が眠っているという。外国人選手の育成へと舵を切り始めたNPB球団が向かった先は、奇しくもカリブ諸国のドミニカ共和国であった。"レッドオーシャン"ドミニカ共和国の地に眠る原石を磨き上げ、光り輝かせるのはどの球団なのか、興趣が尽きない。



あとがき

昨オフは千葉ロッテ、今オフは埼玉西武がドミニカンを積極的に獲得、オリックス・バファローズも若手べネズエランを揃えるなど、NPB球団の中南米路線への回帰が見受けられることもあり、このようなテーマを取り上げることにしました。

以前から、ドミニカ共和国に参入している球団はありましたが、主に掘り出し物の発掘であったように思います。それだけに、福岡ソフトバンクによるプロスペクトの獲得というユニークな戦略には感嘆したと同時に、大胆な策略と綿密な根回しが垣間見えたのが嬉しくもありました。

心残りだったのが、”ブスコン”とMLBの功罪について深く掘り下げられなかった部分です。

MLB/”ブスコン”/ジャーナリストと、それぞれの観点による文献を拝読させていただきましたが、勉強不足に加え、上手に言語化できなかったため省略せざるを得ませんでした。今回は好意的に書きましたが、同国球界が抱える課題の犠牲者となっているのは10代の少年です。ベースボールは少年達にとって夢や娯楽であると同時に、貧困から抜け出し大金を稼ぐ為の手段でもあります。そういった少年達をビジネスの駒として利用する、大人達の思惑には違和感を覚えました。

アメリカ合衆国では、代理人の受け取る手数料は契約総額の5%が上限とされていますが、ドミニカ共和国における”ブスコン”が受け取る手数料の上限は事実上ありません。加えて、契約までに携わった”ブスコン”の数だけ手数料が発生する為、手元に残ったのはたった10%だったというケースもあるようです。契約時の年齢に比例して、長期間に渡る衣食住や用具の提供が必要になるとはいえ、立場を利用した一方的な搾取だという説もあります。また、ドーピング問題に深く関与しているという点も見逃せません。

しかし、”ブスコン”の排除は現実的ではありません。なぜなら、彼らの排除はアマチュアシステムが機能不全に陥ることを意味します。10代の少年達がプレー可能なアマチュアリーグが消滅していることに加え、少年達への資金/資材提供や人材の発掘/育成を担っているのは、深刻な財政難にあえぐ同国政府ではなく”ブスコン”だからです。つまり、”ブスコン”を排除することは、ドミニカ球界の崩壊と同義なのです。

一方で、彼らの庇護の下、ベースボールに専念できることを肯定的に捉えている関係者も存在します。産業に乏しい同国において、衣食住に不安のない少年時代を過ごせる層は極一部であり、ギャングや犯罪者となるのを未然に防いでいるとの主張もあります。少年時代の犯罪/トラブルの多くは、当人を取り巻く家庭/生活環境が大きな影響を及ぼすことが広く知られており、これには一理あるように感じました。

これらの歪な関係性に関しては、それぞれの立場による利害が複雑に絡み合っているため、思うように改善が進んでいません。この件については、きちんと修学した後、またの機会に書ければと思います。

NPB球団は外国人選手の育成へとシフトチェンジしつつあり、世界各国からプロスペクトを集める方針がトレンドとなる未来もそう遠くないように思います。年端もゆかぬ少年との契約に関し、モラルという観点において懐疑的に思う部分もありますが、今はただ、若くして海を渡った少年たちの成功を祈りつつ、これにて結びとさせて頂くことにします。


次回は、イ・ジョンフのMLB移籍が韓国球界を救うかもしれないという話を書ければと思います。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。


引用/参考文献


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?