九州踊る!物語 その3【田鹿編】
電車のなかで踊ったことはあるだろうか?
都会の電車はあまりにも日常で輸送人員の最大化を目的とした設計となっており、無駄な装飾も面白みもない。少し空いた時間で座れたとしても、乗客はほぼ全員がスマホに目を落としているかうたた寝をしている。移動時間は移動時間であって、スマホも居眠りも暇つぶしにすぎない。そんな電車の中で踊るなんてありえない。
私が住む宮崎県日南市には日南線というローカル鉄道が走っている。
宮崎駅から日南を通り、串間市を経て終点は鹿児島県の志布志駅まで28駅を最短2時間32分で結ぶ。ちなみにこの日南線の前身は「宮崎県営鉄道の飫肥線」という港町の油津(あぶらつ)と城下町の飫肥(おび)をつなぐ路線で、宮崎県初の鉄道だ。宮崎市でなく日南が県内初の鉄道ということで、日南市民のなかには誇りに感じている人がいるとかいないとか。
いずれにせよ、当時は宮崎県内でも活気のあったまちだったのだろう。
日南市から宮崎市までは車で約1時間。しかし電車(厳密にはディーゼルなので汽車)は1時間30分ほどかかる。しかも1時間に1本ほど。必然的に宮崎市との行き来は車を使うことが一般的だ。
しかし、私は頻繁に日南線を利用している。
日南線はJR九州管轄の路線の中でも収支が厳しいらしい。100年以上前、宮崎県内ではじめて鉄道敷設が行われたまちからすると、辛い現実である。
そんな日南線に1人でも多くの乗客を!と思い乗っているだけれど、この日南線が非常に面白いのである。
一言で言えば、もはやちょっとしたアトラクションである。
都会の電車であれば座ったらウトウトもできるが、日南線ではそうは問屋が卸さない。山を走り、川を走り、海を走る。トンネルに鉄橋にとにかく飽きない。心が踊る。 そして、極めつけは乗客が物理的に踊るのである。
乗客が踊る。これはどういうことか。
とにかく跳ねるのである。油断してウトウトしていればいきなり上下運動が始まる。バネの聞いた椅子の上で飛び跳ねるように揺れるのだ。
隣りに座った女性がウトウトして肩を自分に寄りかかって来るのではないか、と淡い期待を抱くスキを与えてはくれない。ここはアトラクションである。電車が進む度に椅子の上で上下左右に揺れる。そして乗客は踊る。椅子はもはや舞台と化しているのだ。ちなみに車内で立って踊ったら危ないので良い子は椅子の上に座り、その上下左右に振れるアトラクションを楽しんでもらいたい。おすすめは小内海駅から北郷駅の間だ。
都会なら、電車は退屈なものかもしれないが、九州では電車の中でも躍りたくなる。いや、自然と踊ってしまうのだ。
そう、九州には踊る場所が溢れている。
(九州地域間連携推進機構株式会社 代表取締役 田鹿倫基)
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その1(永山編)
その2(門間編)
その4(中井編)
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