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【東京新聞】防衛省の2024年度予算概算要求は7兆7千億円余に上り過去最大

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東京新聞

<社説>防衛費最大に 金額ありきの膨張憂う

2023年9月2日 07時46分

 防衛省の2024年度予算概算要求は7兆7千億円余に上り過去最大となった。防衛予算「倍増」に向けた5年計画に基づいた「金額ありき」の膨張だ。防衛費の急増が逆に地域の緊張を高めることにならないか憂慮する。

 防衛費は近年、5兆円前後で推移してきたが、岸田文雄首相の下で一気に拡大した=グラフ。23~27年度まで5年間の防衛費を計43兆円とした国家安全保障戦略に基づいて、23年度当初予算の約6兆8千億円から、24年度の概算要求はさらに膨らんだ。

 要求には、敵の射程圏外から攻撃できるスタンドオフ防衛能力に約7500億円▽弾道ミサイルを迎撃する統合防空ミサイル防衛能力に約1兆2700億円▽継戦能力の強化に向けた弾薬の確保に約9300億円-を含む。

 スタンドオフ防衛能力には、敵基地攻撃能力に使える長射程ミサイルの取得が含まれる。憲法9条に基づく専守防衛に合致するのか疑わしいミサイルの導入を既成事実化することは見過ごせない。

 日本が防衛費を急増させて攻撃型兵器も導入すれば、中国や北朝鮮が対抗して軍備を一層増強する口実になり得る。平和と安定のための防衛力整備が、地域の軍拡競争を加速させる「安全保障のジレンマ」に陥っていないか。

 自衛隊は慢性の人手不足に悩んでいる。最新の装備品をそろえても隊員不足では意味がない。

 特別防衛監察にハラスメント被害を申し出た隊員らの6割以上が相談制度を利用していなかったことも分かった。状況改善が期待できず、不利益や報復の恐れもあるためだ。隊員確保や組織の体質改善こそ、装備の大量購入よりも優先させるべきではないか。

 防衛費の財源確保策も政府・与党内の議論が迷走し、定まっていない。混乱の原因は防衛予算「倍増」という数字ありきで安保政策を考える首相の政治姿勢にある。

 性急な防衛力強化は逆に日本の安全を損ないかねない。武力による国際紛争解決を否定した憲法の精神や、厳しい財政事情を踏まえた防衛力整備に立ち返るべきだ。