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「dance for future streetーDaBYまちを踊る」阿目虎南さんパフォーマンス

横浜スタジアムの遊歩道は緩やかに左へ蛇行していて、向こうにはまばらに葉を付けた木が2本、似ていない双子みたいに並んでいる。その奥には線路があるらしく、パフォーマンス中も二度、三度と、根岸線の青いラインが通り過ぎて行った。"双子" の木の手前では、三本柱が密集し、一本の支柱を成している。左手には白い斜めの壁が走っていて、すり鉢を見上げる心地。支柱からその斜面に向かって、太い電線が何本も束になって渡っている。

阿目さんは、通路半ばから後ろを向いて、手を上へ伸ばし、腰を左右にゆるく動かしつつ、その振幅と連動して前進してくる。”双子” の木と見かけ上同じくらいだった大きさが、だんだんと大きくなって、その手が、電線へ音符のように置かれる。通路が開けた辺りで振り返ると、いつの間にかサングラスを掛けていて、黒いロングコートに、同じく黒い手袋という出で立ち、逆光なのもあいまって、雨降りの乳白色の空を切り取るよう。

場を暖める炎の如く揺らめく阿目さんに誘われてか、最前列に座る私にも、お客さんの気配が伝わってくる。

倒れこんだ阿目さんがすっくと立つそのシルエットが、背後の支柱と重なったり、曲げた首の鋭さが、すり鉢の稜線と響きあったりしていて、巨大な相手とも踊り交わすよう。しゃがみこんでゆっくり手袋を外すと、顕わになった手が眩しくて、空間を切り取るような翳りの中に、さらに切れ目が生じ光が漏れ出してきたみたい。回転すると、ざっくりとしたコートの裾、その直線がにわかに揺らいで、阿目さんの身体をなぞる風が可視化される。奥の通路から時折現れる歩行者の動きと、踊りの所作の対比も面白い。

声、というよりも、腹の奥から沸き立った空気が、喉を突き上げ声帯を震わせることで生じたような呻きを上げる阿目さん、その上下する肩は、外から吊られたような動きというよりは、むしろ内臓の蠢きが身体に反響しているようで、身体の外側 (物体、空間…) と内側から板挟みにされながら、それでもなお抗うような踊り。うごめく指が、"双子"の木が伸ばす細枝と重なる。

コートを脱ぎ捨て、サングラスも放り投げる (カシャッ、という短い音) と、空間を広く使ってぐるぐると摺り足で回り始めて、"大輪" は、内接するように一回り毎小さくなっていく。投げ飛ばした手袋へ四つんばいで近づき、束の間の逡巡の後、その上へ手を重ねていく。手袋を持ったまま立ちあがると、登場とは逆に今度は遠ざかっていって、黒い手袋を揺らめかせつつ、吸い込まれていくように通路へ消えていく様は、これまで練り上げてきた "舞台" に風穴を開けるようで、踊りが終わり、日常に還ってきたことを悟った。


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