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Jung Kook "Please Don't Change" 衛星と惑星の歪な関係 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.112

僕がまたとないチャンスを掴んで
想像を超え遥か遠く離れようとも
君は 君のまま?

Please Don't Change (feat. DJ Snake)



眩いフラッシュを浴びながら
我儘に生きるには体力が要る
衛星上には隠れる場所がない
ファインダーの中に在る生活

君がまたとないチャンスを掴んで
想像を超え遥か遠く離れようとも
僕は 僕のまま
僕は 僕のまま
僕がまたとないチャンスを掴んで
想像を超え遥か遠く離れようとも
君は 君のまま?

できるならば どうか
どうか変わらないでくれませんか?
どうか
どうか 君のままでいてください

だって 愛しているから
愛してるんだよ
そのままの君を愛してる
どうか
どうか 君のままでいてください

カメラから距離を置いた生活
当て所なく彷徨い続ける旅人
もう 携帯の電波も届かない
カメラから離れた各々の生活

君が 避けようのない危機を迎え
想像を超え遥か遠く離れようとも
僕は 僕のまま
僕は 僕のまま
僕が 避けようのない危機を迎え
想像を超え遥か遠く離れようとも
君は 君のまま?

できるならば どうか
どうか変わらないでくれませんか?
どうか
どうか 君のままでいてください

だって 愛しているから
愛してるんだよ
そのままの君を愛してる
どうか
どうか 君のままでいてください



英語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6221240

「Please Don't Change」
作曲・作詞:DJ Snake ,
Bipolar Sunshine , Yannick Rastogi , Zacharie Raymond


*******


今回は、2023年11月にリリースされたBTSのJung Kookによる1stソロアルバム「GOLDEN」より "Please Don't Change" を意訳・考察していきます。

フィーチャリングにフランスのDJ/PD DJ Snake を迎えています。彼はLady Gagaや「GOLDEN」収録曲 "Closer to You" でフィーチャーされた Major Lazer との共作経験があり、人気DJ/プロデューサーとしてその地位を確立していると伝えられています。



1.衛星と惑星

"Please Don't Change" の歌詞の主人公の設定は、限りなくグク本人の境遇に近いのではないかと私は思いました。
ワールドスターとして世界中にその名を轟かせ、ARMYの注目を一身に浴びると共に、その一挙手一投足が報道メディアやアンチ勢からの監視を受ける。
そんな彼の/彼らの姿が楽曲歌詞に重なります。

Lights on camera ※1
(撮影中のカメラの光)

Fast life stamina ※2
(放埒な生活を送る体力)

Nowhere to hide on a satellite
(衛星の上に隠れる場所はどこにもない)

Life on camera
(カメラのフレームの中の生活)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221240

※1 on camera…撮影中(参考
※2 fast life…放埓な(自由奔放な、思い通りの)生活(参考


ここで登場する「カメラ」は撮影用のカメラであると共に、時に不法な手段を使ってまでつきまとうパパラッチのカメラや、礼儀の無い一般人が無自覚の内に向けるカメラも含まれていると思われ、総じて、自分に向けられている全ての人間の「目」を表現しているのではないかと思います。(LOVE YOURSELF 結 'Answer' のコンセプトフォトがこのイメージに近いのでは)

そんな風に常に誰かに「見られて」いる状態で自由奔放に暮らすにはそれなりのスタミナが要る、という状況。

「衛星」とは惑星の周りを周回する天体であり、最も有名なものは地球の衛星である月。小さな衛星の上においては、母体である惑星から向けられる視線をかわす為の隠れ場所はない。どんな状況に置かれても、常に惑星の視界に収められた範囲内で生きて行くしか道がない衛星。

ところが衛星にとって惑星の存在は、自身を保ちながらそこに在り続けるために絶対的に必要不可欠なもの。惑星が無ければどんなに小さかろうが衛星自体が生まれもしないし、ましてや安定した軌道に乗ることもない。

生業としての音楽に一生を捧げる覚悟を持つたったひとりの青年、たった7人のグループと、彼/彼らのまばたき一つすら見逃すまいと注目する何千万の大衆。その関係はやはり数の上ではどこか「いびつ」です。

気持ちの上では対等であろう、ありたいと願うメンバーの思いも吐露されていますが、ステージは観客がいなければ成立せず、歌は聴く人がいなければ虚空に消えるのみ。芸能活動を安定した軌道に乗せるには本人たちの不屈の努力も不可欠ですが、どうしたって大衆の力に依存することでしかアーティストとしての活路は見いだせない。

衛星と惑星の間にある偏った特異な関係性は、バンタンと、ARMYを含めた大衆との間にも存在しているのではないかと思います。

そして歌詞では、そんな宇宙の摂理を下敷きにしてひとつの「本音」が語られます。


Even if your stars align ※3
(もし君にまたとないチャンスが訪れて)

and you're light years away ※4
(数光年先に離れても)

I'll be the same
(僕は変わらない)
I'll be the same
(僕は変わらない)

Tell me if my stars align
(もし僕にまたとないチャンスが訪れて)

and I'm light years away
(数光年先に離れても)

Will you do the same?
(君は変わらない?)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221240

※3 stars align…星が整列する 転じて、またとない好機が訪れる(参考
※4 light year…光年(光が1年かけて届く点までの距離の単位。星間距離を表す際に使用される)(参考


歌手としてチャンスを掴み売れれば売れる程、応援してくれる人との距離はどんどん離れてゆくけれど、自分の本質は変わらないと身をもって断言できる。
衛星と惑星の間の偏った関係性をなぞった上でこの段落を受け止めると、「どんな状況でも僕は変わらないけど、君も変わらない?」と訊ねる主人公の不安や疑念をより一層切実に感じ取ることができるのではないかと思います。

そんな切なさが結実しているのがサビ部分です。


Could you, could you please ※5
(できることなら どうか)

Please don't change
(どうか変わらないでいてもらえますか?)

Please
(どうか)

Please don't change
(どうか変わらないでください)

'Cause I love you, yeah I love you
(僕は君を愛しているから 君を愛しているよ)

Oh I love you love the way you are ※6
(ああ そのままの君を愛している)

Please
(どうか)

Please don't change
(どうか変わらないでください)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221240

※5 could you please…~してもらえますか?(参考
※6 the way you are…そのままの君で(参考


「could you please」にはふたつのニュアンスがあり、場面によっては丁寧な言い回しとして受け取ることもできれば、ちょっと強めの意思(命令口調)としても受け取ることができるとのこと。↓

今回の歌詞の場合では、このどちらを当てはめてもそれぞれ筋が通るような気がします。丁寧に言っていると受け止める場合は衛星の謙虚さのようなものが伝わってきますし、命令として受け取るならば、小さな衛星に宿った揺るぎない気持ちに対する自負を感じ取ることができるのではないでしょうか。

大衆に変化があれば小さな自分たちに必ず変化が訪れること。
安定した軌道は大衆の引力が無ければ崩壊すること。
完全に惑星に依存する己の状況を自覚しながら、その上で惑星に対して「変わらないで欲しい」と懇願する衛星。

そんな「本音」を感じ取ることができるのではと思います。


2.カメラから遠ざかっても

そして後半の歌詞は、カメラに映らないファインダーの外側の世界へと展開していきます。

Life off camera ※7
(カメラから離れた生活)

Mind's gone traveler ※8
(思考がずっと飛んでしまっている旅人)
No more sign on a cellular ※9
(もう携帯電話に信号はない)
Lives off camera ※10
(カメラから離れたそれぞれの生活)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221240

※7 無冠詞 life…生活【不可算名詞】(参考
※8 Mind's gone=Mind has gone
 have+過去分詞…ずっと~している【現在完了】(参考
※9 
・no more+名詞…これ以上~ない(参考
・sign【名詞】…信号(類語 signal)(参考
※10 lives=lifeの複数形→「それぞれが個々の生活を送っている」ニュアンス(参考

歌詞冒頭での視線に囲まれた状態とは真逆の、誰の目にも留まらない生活。目的も予定もなくその日暮らしを重ね、携帯電話すらも頼らない。視線から隔離されたそれぞれの日々。
2020年のコロナ禍初期を想起させるこれらの状況が、彼らにとってどれだけ絶望的であるかは言うまでもありません。絶対的な指針でもある惑星の姿を見失った衛星が、自分の軌道すらも見失い途方に暮れる姿は想像に容易いです。

また「GOLDEN」リリース時期が兵役履行直前であった事を踏まえると、「カメラから離れた生活」は軍白期を指しているとも言えるかもしれません。

決して避けられないとわかっていながら受け入れざるを得ない危機を迎えた時にも、果たして、お互い変わらずにいられるのか。
7人全員が兵役に就いた今正に私たちはその状況下にあり、「カメラから離れたそれぞれの生活」を送っていることになります。


Even if your stars collide
(もし 君の星が衝突して)
and you're light years away
(君が数光年先に離れても)

I'll be the same
(僕は変わらない)
I'll be the same
(僕は変わらない)
Tell me if my stars collide
(もし 僕の星が衝突して)
and I'm light years away
(僕が数光年先に離れても)
Will you do the same?
(君は変わらない?)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221240

決して避けられないとわかっていながら受け入れざるを得ない危機。
その危機をこの歌詞では「stars collide=天体衝突」と表現しています。

天体衝突の発生は、計算でその有無と日時を予測することができます。しかし、ぶつかるとわかってもそれを回避する術があるとは言い難い。


「その時」を迎え散り散りになったとしても、
自分は変わらず君を愛している。
君は今のままでいてくれますか?
どうか、どうか変わらないでいてもらえますか?




「もちろん変わらないよ」という意思がどうにか彼らに伝わるようにというARMYの動きが記事になっています。記事の文章からはわかりませんが、日時を決めた旧譜の一斉購入を一部の方がSNS上で呼び掛けていた結果でした。

記事にある事務所の言葉を引用すると「ファンの強い思いがチャートにあらわれた」結果であると確かに言えると思うのですが、私個人的にはこの行為はチャート荒らしにも値するのではないかと思っています。

ARMYにとっては特別な日、特別な曲ではあるけれど、その気持ちを伝えるために取ったその行動が果たして本当に彼らの業界での居場所を作っているのか疑問に思うのです。
もし自分が〈新譜が出たタイミングで計画的に同時購入された旧譜に突然「邪魔」をされた側〉だったらと想像すると、幾分自己中心的な行動だったのではないかと思います。

メンバーの入隊時に本国で日本人が広告を出した時にも似たような気持ちを抱きました。応援する気持ちさえあれば、何をやっても許されるのか?と。

ARMYの力は確かに強大です。結束して動けばそれこそ地球ごと動くかもしれません。だからこそ、その強大な数の力を意図的に行使する際には、周りが不快にならない方法やタイミングを意識して選ぶ必要があると思います。

事務所や本人たちは応援してくれる気持ちや行為に対しては基本的に感謝の気持ちしか表すことができません。大衆は惑星であり、彼らは衛星であるという関係性からそうせざるを得ないからだと私は思います。

空港などでの見送り・出迎えも本人たちの身体の安全を最優先に考えればもっと確実に人の目をシャットアウトすることも可能であるはず。なのにそれをしないのはそうせざるを得ない部分があるから。

金額や時間に糸目をつけず誰かに愛情を捧げる時、それが本当に相手にとってプラスになる行為であるのかどうか、周りに迷惑をかけていないかどうか、といったことを考えるのは難しいかもしれません。
ましてや、アーティストやアイドルという職業の人にとっては、ファンがしてくれるあらゆる全てのことが幸せであると信じて疑わない方もたくさんいらっしゃると思います。

ここまで彼らを支えてきたのが今のファンダムの姿であることは揺るぎない事実ではあるけれど、その全てが今後も変わらずにいるべきなのか、どこか変わるべきところがあるのか、その答えは「(見送りに)来ないでください」と遂にはっきり声に出して言ってくれた彼らの愛にどう応えていくかを考え続けることで見えてくるのかもしれないと感じています。




今回も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。