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j-hope "Safety Zone" 安らぎの場はどこに 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.060

暗闇の中 安らぐ一条の光はどこにある?
ひっそりとした誰もいない家?
それともあの遠い'青'だろうか?

Safety Zone


俺の二十代を捧げて
果てしない人生を生きてきたよ
全てこれ見よがしに応えるけど
己を振り返れと言わんばかりに
大きくなる異名
世界は忙しなく変化して
この瞬間も違って心細く苦しい
味方はいないようだ
俺の人生が敵、
敵になっていく
なんてこった

周りに合わせて生きて行くけど 軋むよ
無理して自分の為に吠えてるようだ
「頑張れ」
俺の領域で、都会の流れに合わせて
人にも会うけれど
交通整理ができていない車のように
あっちこっち 翻弄されたりする

俺には何故無いんだ?
どこかに行けばあるんだけど?
ゲームにすら安全地帯があったのに
そう 無意味に足を空回りさせるだけ
これではまるで'缶ポルシェ'だ

俺も行きたいけど
その思想はどこにある?
俺の心裏にもあるものなのか?
誰かは俺に惜しみなくくれたはずなのに
暫し振り返ってみる為の
俺の切り株はどこにあるんだ?

暗闇の中
安らぐ一条の光はどこにある?
ひっそりとした誰もいない家?
それともあの遠い'青'だろうか?
俺の安全地帯はどこにある?
左か?右か?それともまっすぐ?
何が俺の安全地帯なのか?
これか?あれか?それとも…

暗闇の中
安らぐ一条の光はどこにある?
ひっそりとした誰もいない家?
それともあの遠い'青'だろうか?
俺の安全地帯はどこにある?
左か?右か?それともまっすぐ?
何が俺の安全地帯なのか?
これか?あれか?それとも…?

信じてくれる人たちの応援?
(彼らも背を向けると冷たくて)
俺を導いた人たち?
(よくよく考えたら怖い)
血を分けた人にも
打ち明けられはしない使命感
最近は人より動物が好きだよ
だけど自滅的な気持ちになる

最期を迎えた夕焼けみたいだ
(輝き、そして暮れていく)
夜と夜明けを慰めてくれる光
(正義、自分自身のための)

その領域は何だ?
大災害も避けて行く
俺の'グリーン・ゾーン'
しかしこの道を選ぶ瞬間は
訪れるのだろうか?
俺の安全地帯

暗闇の中
安らぐ一条の光はどこにある?
ひっそりとした誰もいない家?
それともあの遠い'青'だろうか?
俺の安全地帯はどこにある?
左か?右か?それともまっすぐ?
何が俺の安全地帯なのか?
これか?あれか?それとも…

暗闇の中
安らぐ一条の光はどこにある?
ひっそりとした誰もいない家?
それともあの遠い'青'だろうか?
俺の安全地帯はどこにある?
左か?右か?それともまっすぐ?
何が俺の安全地帯なのか?
これか?あれか?それとも…


※グリーン・ゾーン…イラクの首都バグダッドの中心部にある、国際的な拠点が集まった旧米軍管理領域。それ以外の地域をレッド・ゾーンと呼ぶことに対して派生した呼び名。(参考)米軍管理下にあった時代の該当区域を舞台にした映画に『グリーン・ゾーン』がある。(参考


韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6169190

『Safety Zone』
作曲・作詞:j-hope , Pdogg


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今回は、2022年7月にリリースされたj-hopeのソロアルバム「Jack In The Box」に収録されている "Safety Zone" を意訳・考察していきます。

アルバムリリース後のインタビュー動画では、「人生において全てを空にして休める場所が自分にはあるだろうか」と自問する内容だと自ら解説しています。



1.Break a leg

"Safety Zone" の歌詞は、全体を通して「交通」や「車」といったフレーズを元に都市的な情景を下敷きとした比喩表現の中でえがかれています。
自分の力では止められない大きな「流れ」を人の往来も交通量も多い都市の有り様に投影し、その中で自分にとっての「安全な場所」を探そうと自らを奮い立たせ、足掻く姿が見受けられます。

발맞춰 살아가지만, 삐걱대
(歩調を合わせて生きて行くけど、軋む)
애써 나를 위해 외치는 듯해
(努めて自分の為に叫ぶようだ)
'Break a leg' ※1
(「頑張れ」)
In my zone, 도심 속 잘 맞춰
 (俺の領域で、都会の中で良く合わせて)
사람도 만나지만
 (人にも会うけど)
교통정리가 안 된 차들처럼
 (交通整理ができない車みたいに)
이리 치이고 저리 치이곤 해
(あちこち 轢かれたりする)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6169190

※1 break a leg…相手の成功を願う時に掛ける言葉(参考

この「break a leg(直訳:脚を折れ)」というフレーズについては記録に残っているエピソードがあります。

2018年11月に公開された防弾少年団初のドキュメンタリー映画『Burn The Stage』のワンシーンにて、2017年3月「WINGS TOUR」のニューアーク公演の為にアメリカを訪れていた彼らは、iHeartRadioのインタビューを受けています。セッティング中の会話の中で、現地の方が口にした言葉を通訳さんがこう訳しています。

「미국에서는 다리를 풀라는 뜻이, 잘하라는 뜻입니다(アメリカでは脚を折れという意味が頑張れという意味です) 」

それを聞いた時のホビの表情は、YouTubeで有料公開されている映画本編のプレビュー映像で観ることができます。(冒頭シーン)

かわいいですね^^
その時のインタビュー動画がこちら↓
(ツイート内のリンク先(FB)にプレビュー動画が残っていますが、FB投稿内のリンク先(YouTube)動画は残念ながら非公開になっています)

このインタビューに同席していたのではないかとみられるコンサート・ディレクターのEverett John氏は、翌日から始まるライブに向けて「Break a leg」の言葉を彼らに贈っています。↓

「脚を折れ」という言葉が含んでいる「自らに鞭を打ってでもその足で進め」というニュアンスが、 "Safety Zone" の歌詞に少なからず影響を与えているのではないかと私は思います。


2.缶ポルシェ

歌詞中にある自動車がらみのワードとしては他に「깡통 Porsche」があります。

난 왜 없는데? 어디 가면 있는데?
 (俺は何故無いんだ?どこに行けばあるんだ?)
게임마저 잘 보면 안전지대가 있던데
 (ゲームまでも良く見ると安全地帯があったのに)
그래 의미 없이 발만 구르지
 (そうして意味なく足が転がるだけ)
이건 마치 깡통 Porsche ※2
(これはまるで缶ポルシェだ)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6169190

※2 缶ポルシェ…「깡통차(缶車)」は最低トリム(内装)・オプションなしの高級車(参考

何の追加装飾もオプションもない高級車ポルシェ
つまりはブランドだけは一丁前の「見掛け倒し」といった意味をこの「缶ポルシェ」には込めているのではないでしょうか。

ゲームで言うところの「安全地帯」の不在を、体力や精神力の回復が見込めない状態・内面の豊かさが喪失した状態になぞらえ、
見かけだけは立派に見えるけれど実のところその車輪(足)は空回りしているだけだ、
と表現しているのだと思われます。

ここで私が思い出したのは、アンソロジー・アルバム「Proof」収録 "달려라 방탄(Run BTS)" の「両の素足が俺たちのガソリン」というフレーズです。

"MORE" の記事でもこの表現を取り上げましたが、彼らは「意志を持って自分自身の足で走り続けること」にこだわりを持っていて、その様子を車とガソリンの関係に当てはめる歌詞が散見されています。

「装備の薄い高級車」というメタファーもその延長線上にあり、「内面が充実しないまま表舞台を走っている」という状態を巧みに表現しているのだと思います。


3.遠い「青」

記事冒頭で紹介したインタビュー動画にて、安全地帯の所在に対する問いの答えのひとつとして「Blue Side」の存在に言及しています。

"Blue Side" は2018年3月に発表された彼のミックステープ「Hope World」にアウトロとして収録された後、完全版が2021年3月に発表されているホビの自作曲です。

Hope World」発表時の "Blue Side" ビハインドはこちら↓
(50:22~が "Blue Side" の話題)

ビハインドで「この曲を聴くと昔を思い出す」と語っているように、彼にとって「Blue Side」にあるものは懐かしむに値する記憶であることがうかがえます。

"Safety Zone" で登場する「먼 blue(遠い青)」とは、彼の中に変わらず存在する安らぎの記憶「Blue Side」のことなのでしょう。

어둠 속 안도의 한줄기 빛은 어디일까?
(闇の中 安堵の一筋の光はどこにあるのか?)
고즈넉한 home? 아니면 저 먼 blue 일까?
(ひっそりとした家? それともあの遠い青なのか?)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6169190



安全な場所を探しあぐねるこの歌詞は、あろうことか終始「絶望感」に満ちています。

――ひと休みするために腰掛ける切り株も見当たらず、
応援してくれる人がいつ背を向けるともわからず、
自分を導いてくれた人たちには
実のところどんな目論見があるのか計り知れない。
使命感から身内にも打ち明けられなくて、動物に癒しを求めるけれど、
どうにもやるせない気持ちでいっぱいだ――

임종을 앞둔 노을 같아(臨終を前にした夕焼けのようだ)と表現された心象風景は、絶望が連れてくる鮮やかなまでの残酷さを克明にしています。

安全地帯を探し求め、それを見つけることが叶わないまま終わるこの歌詞の裏テーマは、「絶望」であると言っても良いのではないかと思います。



最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。
🤡