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j-hope "STOP(세상에 나쁜 사람은 없다)" たった一粒の信頼 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.057

たったひと粒の信頼が  俺を支配する
「世の中に悪い人はいない」

STOP(세상에 나쁜 사람은 없다)


そうさ 苦労したことがあるよ
俺の友に対して
価値観、性格の不一致
毎日 友情自然災害
よくよく言っても疑問の反応
施すのは俺(君)の方
努めて隠してred sun

どうかやめて
争いはやめて

憎たらしくて 情が薄れても
もう一度考える
どうして全て似ていて
どうして全く同じなんだ?
本質は変わることはない
認知していき、おのれとなる
たったひと粒の信頼が
俺を支配する
「世の中に悪い人はいない」

そうさ 俺もニュースは観る
しかしアレは何だ?
致命的な犯罪
本当に人がああやって?
獣より劣る人間たちの行為
実に汚らわしかったんだ
酷く言って
あれで人の子なのか、と
思ったんだ 俺も

待てよ やめろって
落ち着け 落ち着け

そう ここは
原初的に立ち返り再び彼らを見る
生きてきた環境、教育、システム
俺と違う部分は何なのか?
頼ってみるんだよ ひとつだけ
人間本来の姿
それ ひとつだけを
どうか 正しくあってくれ

最近はスマートな世の中
でも スマートじゃないことが大半
憤怒の非対面会談
犠牲は時間の問題
安全でないエリア
そして溢れるウィルス
無意識な汚染
俺も避けられないんだ
もう

やめろ やめろ
意識を変えろ 意識を

因果法則に基づいて
世に出て来た俺たち
とは言え一切唯心造
俺たちが作り出しているんだよ
小さな始まりが大きな歩みだから
世界は変わる
悪い人はいないのだから
そうだろ?


韓国語歌詞はこちら
https://m.bugs.co.kr/track/6169186

『STOP(세상에 나쁜 사람은 없다)』
作曲・作詞:j-hope , Michael Volpe


※red sun…韓国で催眠術を掛ける際に使われているという非公式用語とのこと。(参考)
※一切唯心造…「全てのものは心が造り出したものにすぎない」の意の禅語


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今回は、2022年7月にリリースされたj-hopeのソロアルバム「Jack In The Box」に収録されている "STOP(세상에 나쁜 사람은 없다)" を意訳・考察していきます。



1.世の中に悪い人はいない

この楽曲のサブタイトルとなっている「세상에 나쁜 사람은 없다」は、同名の書籍が存在します。

2021年のセンイル配信でホビが「読もうとして買った本」として紹介しており、この配信が日本でも『世の中に悪い人はいない』として翻訳本が刊行されるきっかけ(配信の三か月後に発刊。帯にしっかりj-hopeが愛読!と書かれている)になったのではないかと思われます。

各電子書籍販売サイトにて試し読みができる範囲に、ちょうど表題となっている「世の中に悪い人はいない」の節が含まれています。この節に目を通しておくと、歌詞の中の出来事がより鮮やかに理解できるのではないかと思います。

私がこのサブタイトルを見て最初に思い出したのは「性善説」です。
人間の本性は「悪」であるという性悪説に対して、人は皆生まれながらにして「善」の心を持つと謳う性善説。どんなに性根の「悪い人」でも、生まれた時からからそうであったわけではない、という考え方です。

前述の書籍の内容を踏まえてよくよく考えてみると、この歌詞がただ単に「性格が悪い人などいない、みんないい所をもっている」という希望的なことだけを歌っているのではないことに気付かされます。

何故この世には「悪い人」が存在するのか。
そもそも「悪」とは何なのか。
その謎を明らかにするために、彼はまず、とても身近な世界へと思いを巡らせています。


2.ひと粒の信頼

歌詞の冒頭では、身近な〈友〉との間にあった苦労についての記憶が書き留められています。

Right, 힘든 게 있어 내 친구에 대해
(確かに、苦労したことがあるよ 俺の友に対して)
가치관, 성격 대립, 매일 우정 자연재해
(価値観、性格の対立、毎日友情自然災害)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6169186

毎日自然災害のように防ぎようもなく起こる〈友〉との対立…これはおそらく宿舎生活時代に起こった数々の衝突を指しているのでしょう。

좋게 좋게 말해도 의문이 드는 reaction
(よくよく言っても疑問がある反応)
베푸는 건 내(ㅔ) 쪽, 애써 감추려 red sun ※
(施すのは俺(君)の方、努めて隠してred sun)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6169186

※red sun…韓国で催眠術を掛ける際に使われているという非公式用語とのこと。(参考)

その度に互いの主張を突き合わせて相手をよくよく説得しようとしても叶わず、納得できないまま飲みこんで表に出さないようにとお互い努力しなければならなかったこともあった。まるで自分の主張を押さえ込むための自己暗示でもかけるかのように…と。

人は誰しも、自分本位でのみ物事を考え続けることで「自分 VS 自分以外」の図式を作り上げてしまうと、異なる意見を持つ者が皆自分にとっての〈悪〉であるかのように思ってしまうことがあります。

しかし彼がここで「 내(ㅔ)」 ※내=私の네=あなたの と表記しているように、そういった考え方は「お互いさま」事案であり、相手にとっては自分もまた同様に〈悪〉に成り得ます。相手の許せない部分をあらためて分析してみると、自分にも同じ要素が備わっていることに気付く、ということもよくある話です。

そう考えると、どんなにそりが合わない相手だとしても、絶対的な〈悪〉だとは言えないのではないか、ということになるのではないでしょうか。

こうして彼の元には、「世の中に悪い人はいない」のではないか、という一粒の信頼の種が残されたのでした。


3.育ってきた環境が違うから

更にこの楽曲歌詞では、救いようのない非人道的な行為を働く者たちに対しての率直な意見も書き留められています。

Deadly criminal, 정말 사람이 저래?
(致命的な犯罪、本当に人がああやって?)
짐승보다 못한 인간들의 행위
(獣より劣る人間たちの行為)
참 더럽더라고 ※1
(本当に汚らわしかったよ)
심하게 말해 사람 새끼인가 싶더라고, 나도 ※2
(ひどく言うと人の子なのだろうかと思ったんだ、俺も)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6169186

※1 ~더라고…~だったんだよ(自分の経験を誰かに伝える)
※2 ~(ㄴ/는)가 싶다…~だろうと思う

この時彼が見ていたニュースがどんな内容だったのかは、〈獣より劣る人間たちの行為〉という率直な感想からある程度推し量ることができます。

私は先日、光州事件を題材にしたソン・ガンホ主演の映画『タクシー運転手』を視聴したばかりなのですが、他でもないホビの曲ということもありここではそのワンシーンが脳裏に浮かびました。

ニュースの中のこのおぞましい出来事は、本当に人の手によるものなのか?
そう疑問に思う程であった凄惨な場面と画面越しに向き合いながら、彼はその〈獣以下〉の人間たちに対してひとつの思案を試みます。

同じ人間であるはずの自分と〈獣以下〉の行為を働く彼らの間にある「違い」とは一体何なのか。

身近な人間との間で起こった諍いを経ることで得た「世の中に悪い人はいない」のではという人間の本質に対するひとつの信頼を、決して許されない行為に手を染めた〈獣以下〉の者に対して当てはめるとすれば、どんな「理由」がそこに見えてくるのだろうか。

そうして浮かび上がったのが、環境、教育といった育ってきたシステムの「違い」だったのです。

彼はそういった「違い」が〈獣以下〉の行為を働く人間たちを――後天的な〈悪〉を――作り出す理由のひとつなのではないかと仮定することで、「世の中に悪い人はいない」という信頼が守られるのではないか、と考えているのではないかと私は思います。

残念ながらそれらの「違い」は、この世に生まれ落ちた時点でほぼ確定しており、ある程度成長を遂げるまでは自力で状況を変えることは叶いません。それどころか、自分が置かれている場所が広い世界の中のほんの僅かな範囲でしかないことに気付いて状況を変えようと思い立つきっかけに、全ての人が出会えるとも限りません。
置かれた状況で得た経験のみが各々にとってのあたりまえの「普通」となり、疑う余地のない「正義」となるのです。


4.全ては人の心が造り出す

生まれ落ちた環境によってそれぞれの正義に違いが出るのなら、自分も誰かにとっての悪である可能性もあります。
そう考えると、「この世に悪い人はいない」という言葉の手前には「そもそもこの世には善い人も悪い人もいない」という前提が必要なのかもしれません。

彼は、曲の終わりで禅語を引用してこう書いています。

그렇다 한들 일체유심조 ※1
(そうと言っても 一切唯心造) ※2
우리가 만드는 거지
(俺たちが造っていることだろ?)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6169186

※1 -(ㄴ/은)들…~したとしても 한들=言ったとしても
※2 一切唯心造…「全てのものは心が造り出したものにすぎない」の意の禅語

―――〈善い人〉の存在も〈悪い人〉の存在も、全ては人の心が造り出した「観念」なのではないだろうか?
それならば、それぞれの意識次第で世の中から〈悪い人〉は居なくなるのではないか?―――

작은 시작이 큰 발걸음이기에
(小さな始まりが大きな歩みだから)
세상은 변해 나쁜 사람은 없기에
(世界は変わるよ 悪い人はいないのだから)
That's right? (そうだろう?)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6169186

自分ひとりが動いたところで広い世界はそう簡単には変わらない。個人の考えとしてはそう思うのが当然でしょう。何十億分の一でしかない自分の意見が、世界から〈悪い人〉をなくすことなどできないのだ、と。

それでも彼は、彼自身もひとりの人間でしかないのだと自覚しながらも、「世の中に悪い人はいない」というひと粒の信頼を胸に「世界は変わる」と謳っているのです。

本当にそう思います。That's right!
いつも「お互い様」の気持ちを忘れずに、想像力をもって生きていきたいものですね。



最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。
🤡