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j-hope "MORE" 息するように音楽がしたい ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.052

終わりのない学習
ぶつかり倒れながら生まれる作品
この位置でも行動して
自分のものにして より良いものにして
また 誰かのお気に入りになる

MORE


ああ、俺は渇望している
必要だ ビートの上でサーフィン
俺は 水を得た魚さ
吸い上げろ 音楽を
歌に合わせて よどみなく
ダンスする子どものように
情熱を持ち続けろ
俺は行かなくちゃ
俺はまだ(十分じゃない)

11年目の独学中
俺が引いた蛍光ペンの下線アンダーライン
学びの美学だけ
終わりのない学習
ぶつかり倒れながら生まれる作品
この位置でも行動して
自分のものにして
より良いものにして
また 誰かのお気に入りになる
それが俺の半生、生きる理由、
人生の愉しみ
それらの原動力で進み続ける

全部もってこい
全てやってやる

叫べ!俺は言う「もっと」と
ああ、そうだ!
俺はもっと欲しいから

叫べ!俺は言う「もっと」と
ああ、そうだ!
俺はもっと欲しいから

耳朶じだを打つキック、スネア
体が休まる間もなく作業室に直行し、
ミックステープを作るのさ
フィードバックが来ても差し戻す
何でも甘く食べるKitKat
俺には甘い弊害 (わかってる)
相互関係、本当に有益だ
オイルを入れてくれたらドライブして
また 俺はビートの元に
みんな注意しておけ 俺は不注意だ
芸術が染み込んだいかした絵画に酔いしれて
ずっと〈サルバドール・ダリ〉ひと筋さ

望むよ 未だに
ファンと共に在るスタジアム
掃き集める 全てのトロフィー
グラミーまでも
名誉や富が全てではないのだ
もうわかっている
俺は己が作るものに生かされている
だから「もっと」

吸って 吸って 吐いて 吐いて
生きて 呼吸するように
全部もってこい
全てやってやる

叫べ!俺は言う「もっと」と
ああ、そうだ!
俺はもっと欲しいから

叫べ!俺は言う「もっと」と
ああ、そうだ!
俺はもっと欲しいから

ああ、俺は渇望している
必要だ ビートの上でサーフィン
俺は 水を得た魚さ
吸い上げろ 音楽を
歌に合わせて よどみなく
ダンスする子どものように
情熱を持ち続けろ
俺は行かなくちゃ
俺はまだ(十分じゃない)



韓国語歌詞はこちら↓
https://m.bugs.co.kr/track/6167131

『MORE』
作曲・作詞:j-hope , Ivan Jackson Rosenberg


*******

今回は2022年7月にリリースされるj-hopeのソロアルバム「Jack In The Box」先行配信曲 "MORE" の歌詞を意訳・考察していきます。

「Proof」以降フェーズ転換し、暫くの間は各々ソロ名義で楽曲リリースを行っていくことになった防弾少年団。その栄えあるトップバッターをj-hopeが務めることになり、先行してロック・フェス『ロラパルーザ』で最終日ヘッドライナーを務めることが発表されていた件と併せ、予想もつかなかった急激な展開でありながらも納得のスタートダッシュ、といった感じがしてなりません。

アルバム「Jack In The Boxびっくり箱」のタイトル曲として先行リリースされたこの楽曲は、文字通り蓋を開けてみてびっくり!という感覚がぴったりの作品でした。



1.初心

"MORE" はハードロック寄りなサウンドで、コンセプトフォトもかなりダークなものとなっています。意図的に個を前面に出したことにより結果的にグループにおけるj-hopeとは異なる印象を受ける形になりましたが、歌詞を読んでいくとそこには、彼の中の変わらない信条がしっかりと刻まれていました。

Eenie meenie miney mo ※1
춤추는 아기 flow (踊る子ども 流れるように)
Keep my passion, I gotta go (情熱を持ち続けろ 俺は行かなくちゃ)
I'm still (not enough) (俺はまだ十分じゃない)

※引用文に付けた和訳は直訳 https://music.bugs.co.kr/track/6167131

※1 =「どれにしようかな」(アメリカの歌遊び)(参考

―――純粋に歌に合わせて体を動かし楽しく踊っていた頃のように(初心を忘れず)熱意を持ち続けろ。何故なら自分はまだ十分ではないから―――

このホビのストイックな心構えは、すでにデビュー直後の "Born Singer" の歌詞でも表現されています。

매순간마다 자신에게 다짐해 초심을 잃지 않게
(毎瞬間ごとに自分に誓う 初心を忘れないように)
항상 나답게, 처음의 나에게 부끄럽지 않게
(いつも僕らしく、最初の自分に恥じないように)
ー"Born Singer" j-hopeパート

※引用文に付けた和訳は直訳 https://btsblog.ibighit.com/m/132

何事も場数を踏んで慣れてくるとその分質が良くもなりますが、同時に悪くもなる危険をはらんできます。新人の頃の緊張感や熱意は時が経つと共にどうしたって薄れてゆき、経験値と比例した規模の失敗を引き起こしかねません。

この「初心忘るべからず」精神を絶えず持ち続けることはなかなかに難しいものです。こうして歌詞に刻んで自ら歌い継ぐことによって、彼は彼自身にこれを言い聞かせるという役割を持たせているのかもしれません。


2.求道心

また「学び」というキーワードにおいても彼は持ち前の真摯な姿勢を貫いています。

11년째 독학 중(11年目の独学中)
내 형광 밑줄은 배움의 미학뿐(俺の蛍光下線は学びの美学だけ)
끝이 없는 학습(終わりのない学習)

※引用文に付けた和訳は直訳 https://music.bugs.co.kr/track/6167131

"Yet To Come" においても、学びに対して「欲」を持っていることがうかがえる描写があります。

아직도 배울 게 많고(未だに学ぶことが多くて)
나의 인생 채울 게 많아(僕の人生を補うことが多い)
ー"Yet To Come" j-hopeパート

※引用文に付けた和訳は直訳 https://music.bugs.co.kr/track/32563058

ミックステープ「Hope World」発表時のV LIVEでは、「一生懸命に勉強して、曲も書いて研究して」「そうしている間に音楽を本当に愛し始めました」「今では音楽がひとつの人生になってしまった」と語っています。(15:51~が該当箇所)

業界に入ったきっかけがダンスだった彼は、音楽を専門にやってきた仲間たちから影響を受けて自ら学び始め、ここまで好きになるとは思わなかったと振り返る程に音楽に情熱を注ぐことになったと話しています。

尽きることのない彼の向上心が終わりのない学びを支え、今ここにまたひとつの答えを書き記す。勤勉で努力家な彼が今回のアルバムでどんな研究結果をはじき出してくるのか、その全貌を知ることになる瞬間が待ち遠しくて仕方ありません。


3.野心

後半に差し掛かったあたりからは、彼の中で沸々としている野心の片鱗をうかがうことができる言葉が並びます。

귀에 kick snare, 들림 hit that ※1
(耳にキック、スネア 聞こえるものがそれを打つ)
몸이 쉴 새 없이 직행, make my mixtape
(体が休まる間もなく直行 ミックステープを作る)
피드백 와도 get back
(フィードバックが来ても元に戻す)
뭐든 달게 먹는 KitKat 내겐 sweet 해 (appreciate) ※2
(何でも甘く食べるキットカット 俺には甘い弊害(わかってる))
상호 관계, 참 유익해(相互関係、本当に有益だ) ※3
기름 주입해 주면 drive 해 또 난 beat에
(オイルを注入してくれたらドライブして また俺はビートに)
다들 주의해, 나 부주의해(みんな注意して 俺は不注意だ)
예술이 배인 멋진 그림에 취해, 계속 'Dali' 들이대 ※4
(芸術が染み込んだ素晴らしい絵画に酔って、)
(【1】ずっと〈ダリ〉に心をつぎ込み続ける)
(【2】ずっと〈裏腹に〉突き付ける)

※引用文に付けた和訳は直訳 https://music.bugs.co.kr/track/6167131

※1
「キック(=バス・ドラム)」「スネア」共にドラムビートを構成する要素
この楽曲のイントロはまさにこの歌詞の部分、創作欲に溢れビートが鳴り響くホビの頭の中をイメージして作られているのではないかと思います。

※2
当初は後半の「俺に(とって)は~」につなげるために前半を「(他の)皆は甘く美味しく食べるけど」のようなニュアンスで訳したかったのですが「뭐든」は物にしか使うことができないので「뭐든 달게 먹는(何でも甘く食べる)」は確定せざるを得ず、さらに먹는が連体形なのでKitKatにかかることも確実。
…となると「何でも甘く食べるKitKat」と少々不思議な文章になるのですが、これはKitKatに多種多様な味の商品が存在することが関係しているのだと思います。
日本で暮らしていると季節ごと、地方ごとに様々なフレーバーのお菓子が存在することに今でこそ然程驚きはしませんが、海外の方にとってはたいへん珍しいものであるようで、おみやげとしても大変人気だそうです。
ネスレ日本が韓国にキットカットを輸出していることもあり、韓国でも様々な味のKitKatが身近なものになっているようです。

なので、この一行の前半部分は「(どんなものでも)甘く(して)食べる(ことができる)KitKat」というニュアンスなのだと思われます。

後半「내겐(俺に(とって)は)」と続き「sweet 해」とあるのですが、見たまま訳すと「sweet(甘い・甘いもの)」+「하다(する・為す)」で公式MVの字幕も「僕にはsweetさ」となっています。ですが、それだと前半と後半の内容に差が出ず「俺には」の「には」が活きません。
そこで私は「해」を「害・弊害」の意味で扱うことにしました。(参考

どんなものでも甘く食べることができてしまう」ことが「俺にとっては弊害である」、そしてそれを「appreciate(認識している)」。

この部分を私は、
アイドルとして活動している時はどんな心境も感情もある意味オブラートに包む必要があり、それは絶対的に甘く幸せなものとして受け手の元に届けられることが大前提である。
しかしその「甘さ」は彼自身の本来の姿を表現するには弊害となる。
…ということになるのではないかと捉えました。

※3
「相互関係」とはこのふたつの立場に在るそれぞれの自分自身の関係性を指しており、「기름 주입해 주면 drive 해(オイルを入れたらドライブして)」とある部分には "달려라 방탄(Run BTS)" における「両の素足が俺たちのガソリン」のフレーズにまつわる以下の定義が適用できるのではと思います。

"길(Road)" 当時に「防弾という靴を履いて」進むことを決意しているのに、ここにきて「裸足がガソリン」であるとしている点に若干の矛盾を感じたのですが、「裸足=(個々の)本質」と捉え、「防弾という靴」が車であると例えると、前進するためには「ガソリン=裸足=本質が必要、という式が成り立つんです。

今回、防弾会食での会話内容よりグループでの活動ペースがこれまでとは異なるものになっていくことがわかりましたが、この歌詞を踏まえるとつまり彼らは今「ガス欠」状態で「防弾という靴」を履いたまま前に進むことが困難な状態なのかもしれません。

ー"달려라 방탄(Run BTS)" noaの考察より

https://note.com/nozomiari/n/nf775f7d61173

「オイルを入れる=個々の活動で本質を磨く」ことが叶ったら「ドライブする=グループで活動する」。そしてまた創作活動の糧を得て、ビートの元に。この「有益な相互関係」の成立こそが、今まさに彼らが取り組んでいることなのではないでしょうか。

※4
예술이 배인 멋진 그림에 취해, 계속 'Dali' 들이대
この一文は以下の通り二通りの解釈が可能であると考えます。

【1】ずっと〈ダリ〉に心をつぎ込み続ける
・Dali=(サルバドール・)ダリ(スペインの画家)
・들이다=(力などを)入れる、(真心などを)込める・つぎ込む(参考
・대다=前の言葉が指す行動を繰り返す、~し続ける(参考

【2】ずっと〈裏腹に〉突き付ける
・Dali=달리=他に、裏腹に、違って(参考
・들이대다=突き付ける(参考

シュルレアリスムの画家であるダリの表現手法は「ダブルイメージ」と称され、ひとつのモチーフに複数の姿を重ねて描くものでした。
この「ダブルイメージ」の手法がこの歌詞にも適用されているとしたら、十分に有り得る解釈だと思います。

【1】では「ダリという芸術家(の作品)に対して心を注ぎ続ける」という意味で成立します。

【2】では「バンタンのj-hopeとして築き上げたものとはまた違った、ある意味それを裏切るようなものをこれから突き付けていく」という意思を表明をしているのだと思います。
すると「皆注意して」という注意喚起は今後はオブラートに包まないある程度「不注意」ともとれるような表現もしていくから覚悟しておいて、というメッセージともとれるのではないでしょうか。
「フィードバックが来ても差し戻す」描写は、その「不注意」な内容を(内部で)指摘されても修正しないという場面の描写なのではないかと思います。

何より直前に「예술(芸術)」「그림(絵画)」と伏線を張っておいた上で「Dali」のくだりを持ってくるあたりに創作の意図をものすごく感じます。「芸術が染み込んだ絵画」はここでは「音楽」のメタファーであり、それに酔いしれてタガが外れた状態(不注意)での表現に「注意しておけよ」と煽る。センスの塊です。美しい。

今現在の自分に必要なこと、足りないものから目を逸らさずに、飽くなき挑戦と「愉しむこと」を忘れない。「箱」を飛び出すための原動力を自身の中に見出すことができるのが、彼の最大の強みであるのではないかと、私は思います。

呼吸するように音楽がしたい。「もっと」自然に、「もっと」思い切り。
だからタイトルは「MORE」。
彼にはこれからも更にたくさんの新鮮な音楽を思いっ切り吸い込んでいって欲しいと切に思います。


最後までお付き合い下さりありがとうございました。

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