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진(Jin) "The Astronaut" 君へと向かう僕の道 ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.071

暗闇の中で見つけた
たったひとつの輝き
君へと向かう僕の道

The Astronaut


君、そして僕
終わることのない日々
僕の宇宙になってくれた
僕たちの物語

目的地もなく流れていく
あの 小惑星のように
僕もただ流されていたよ
暗闇の中で見つけ出した
僕の、全ての夢
新しく始まる物語

君と一緒にいると
他の誰も気にならないんだ
僕は自分に幸せをあげるよ
君と一緒にいると
他の誰も気にならないんだ
こんな気持ちは初めてだよ

君、そして僕
宇宙を旅する 砕けない星みたいな
君の夢になるよ

暗い道を照らしてくれるあの天の川のように
君は 僕に向かって輝いていたよ
暗闇の中で見つけた
たったひとつの輝き
君へと向かう僕の道

君と一緒にいると
他の誰も気にならないんだ
僕は自分に幸せをあげるよ
君と一緒にいると
他の誰も気にならないんだ
こんな気持ちは初めてだよ

こんな気持ちは初めてだよ

君と一緒にいると
他の誰も気にならないんだ
僕は自分に幸せをあげるよ

君と一緒にいると
他の誰も気にならないんだ
僕の人生、それは君の瞳の煌き
幸せはまさしく今 ここにある

愛しているよ
愛しているよ



韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6180359

『The Astronaut』
作曲・作詞: Guy Berryman, Jonny Buckland, Will Champion, Chris Martin, Jin, Kygo, Joan La Barbara , Jóhann Jóhannsson , Moses Martin


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今回は、2022年10月28日にリリースされたBTS(防弾少年団)Jinのソロ・シングル "The Astronaut" を和訳・考察していきます。

2021年に発表されたコラボレーション曲 "My Universe" 以来、Coldplayとは2度目の共作実現となりました。楽曲制作の経緯など、楽曲にまつわるあれこれをジンくん本人が発売当日のWeverseライブで明かしてくれています。↓

私はこの配信をリアタイできたのですが、まだまだ字幕なしの聴き取りは5割程度の理解力…それでも、このタイミングで話せることを全て話してくれたような、そんな印象をうけました。
この記事を書いている時点(配信翌々日)では公式の和訳がまだついていませんが、内容要約記事の日本語版が配信されています。↓

彼は自分の周りをクリアにする能力に本当に長けているなと今回あらためて感じました。話をする雰囲気づくりから声のトーンを含め、簡潔でありながらも、過不足のない感じ。だからこの人は信頼できると思えるし、おちゃめな脱線から何かに気付かされることもある。

公式発表の曲紹介にもあるように、この楽曲は「ARMYに対する愛情を込めて手掛けたもの」となっています。水面下での紆余曲折を経て辿り着いた、彼の「今」が表現された歌詞を紐解いていきます。


1.共鳴するふたつの宇宙

ソロ・シングルのタイトル「The Astronaut宇宙飛行士」の発表に、彼の "Moon" からの心境の繋がりが描かれるのではないかという予感と、大好きな天文テーマに大きな期待を抱いた私ですが、その後公式から追加情報が解禁された際にはさらに歓喜することとなりました。

🌌Co-written by Jin of BTS & Coldplay🌌

宇宙コラボの再来!👏👏👏

イギリスの老舗音楽雑誌「New Musical Express(NME)」の記事では、バンタンとColdplayのアーティストとしての共通項に触れ、両者の歩んできた道がどのように交わり、今も尚関わり続けていることに言及しています。↓

特にクリス・マーティン氏は、かねてからのColdplayファンであったジンくんにギターを贈ったこともあり、二人の間に流れる柔らかい空気感は "My Universe" 関連のコンテンツにも残されています

そんな二人の現在の関係性を我々も垣間見ることができるはからいが、公式Twitterで展開されました。↓

来週アルゼンチンでライブやるから新曲歌いに来る?という地球規模なクリスヒョンのお誘いに、ヒョンのいるところならどこへでも!と二つ返事で快諾するジンくん。
はたして40時間をかけて無事アルゼンチン・ブエノスアイレス入りしたジンくんが、ライブリハーサルに参加した際の様子↓

続いて公演当日、公式さんが頑張って光速でアップしてくれたステージ映像。サムネ、最高の瞬間…!↓

この "The Astronaut"のステージにジンくんを迎え入れる直前に、クリス・マーティン氏は観客に向かってこうスピーチしました。↓

数年前、自分たちは特定の種類の音楽を常にやらなくてはならない気がしていた。僕たちは型にはまっていなければならなかった。そして、自分自身の人生に対してもまた、そう思っていた。それから僕は良い人たちに会い、良い本を読み、素晴らしい先生に出会ったけれど、彼らは幸せそうだった。彼らを幸せにしたものは、知らないことやまだ理解していない人々のことを怖れないということだった。
僕の人生、僕らのバンド人生に真の恵みをもたらしたのは、二年ほど前、韓国のボーイバンドと仕事をするように勧められたことだった。
僕は往々にして、先入観を覆さなかった。僕は人間だから。でも少しして「何故僕はそれを怖れているのか?彼らが違っているというだけなのに?」と思うようになった。それで僕らはこの道を選び、『My Universe』という楽曲を共に作ることにしたんだ。
それがバンドとして与えられる最高に楽しくて充実した関係のひとつであるとわかったし、たくさんのことを僕らに教えてくれた。怖れるのではなく、ただ受け入れてみるのだということを。
そして、半年ほど前にそのメンバーのひとりから僕に電話がきて、彼はこう言ったんだ。「僕は韓国軍に入隊するために12月にバンドを離れなければなりません。それが国の決まりだからです」「皆さんに少しの間さよならを告げる歌が、皆さんに愛を届ける歌が、僕には必要なんです」と。そこで僕は言ったんだ。「OK、僕らで一緒に曲を作ろう」と。
心配するどころか、僕たちがBTSと築くこの関係にとてもワクワクしていて、とてもありがたいと思っている。そしてこの曲が出来上がって、「僕たちの最高の楽曲のひとつだ、この'紳士'に贈ろう」と思ったんだ。
"See BTS’ Jin perform ‘The Astronaut’ with Coldplay live for the first time in Buenos Aires" NME 28th October 2022 より、クリスのスピーチ部分を抜粋して和訳

https://www.nme.com/?p=%2Fdiscussion%2F4678%2Fthe-50-worst-album-titles-in-history%2Fp1

(上記記事は記者さんの実況レポであり、実際にクリスが発言した内容とは若干異なります。多数の映像が個人的なアカウントから公開されているので、全文を確認されたい方は「Chris Martin speech」などで検索してみてください。)

1977年生まれのクリスは私の2か月前に生まれていて、結婚した年と第一子が生まれた年が同じで、今回 "The Astronaut" 制作に参加してくれている第二子の息子さんもウチの2人目と一つ違い。同じ年月、同じ時代、同じタイミングで親になった人生を生きてきた者として、僭越ながら自分と重ねて見ることができる部分や共感できる感覚が多かったりもするのですが…彼のようなやわらかい思考をこの年になっても保ち続けるにはやはり、自ら刺激を得に行くことを怠ってはならないんだな、と思いました。

そして「今日の防弾」は「今日のJin」として。↓

運命的な出会いを果たしたふたつの宇宙が、それぞれの色を引き立てながら会場の星たちを惹きつけていく様は感動的で圧巻でした。

バンタンが7人そろってのカムバックを予定している2025年に、Coldplayはバンドとしての「最後のアルバム」をリリースすると発表しています。二組のアーティストがまた何らかの形で響き合える時がくるのなら、絶対にその時を見逃したくない、そう思います。


2.真っすぐな歌

今回のシングルリリースにあたっては、ジンくん本人の楽曲解説コンテンツもいくつか用意されていました。

僕が歌詞を書いた」とどのコンテンツでも明かしている上、クレジットに並ぶ制作陣の中にはジンくんの他に韓国の方がいらっしゃらないところを見ると、韓国語歌詞は全てジンくんの手によるものだと思われます。(Weverseライブでは、クリスとのやり取りの中で韓国語部分が後から増えたというエピソードも)

それでは、歌詞の韓国語部分を詳しく追って行きます。

You and me(君と僕)
끝나지 않을 history(終わらない歴史) ※1
Oh, 나의 우주가 돼 준(僕の宇宙になってくれた) ※2
우리의 이야기(僕たちの物語)

목적지 없이 흘러가는 저 소행성처럼
(目的地無く流れていくあの小惑星のように)
나도 그저 떠내려가고 있었어
(僕もただ流されていたよ)
어둠 속에 찾은 나의 모든 dream
(闇の中で見つけた僕の全ての夢)
새롭게 시작될 story(新しく始まる物語) ※3

※引用文中の和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6180359

※1、3 ~지 않을(終わらない)、시작될(始まる)…「-ㄹ」は未来連体
※2 ~가 돼 준(~になってくれた)…「-ㄴ」は過去連体形なので우리(僕たち)=You and meにかかる

You and me(君と僕)
깨지지 않는 별처럼(砕けない星みたいに)
너의 꿈이 되어(君の夢になるよ)
우주를 여행하는(宇宙を旅行する) ※4

어두운 길을 비춰주는 저 은하수처럼
(暗い道を照らしてくれるあの天の川みたいに)
너는 나를 향해 빛나고 있었어
(君は僕に向かって輝いていたよ)
어둠 속에 찾은 단 하나의 빛
(闇の中で見つけたたったひとつの光)
너에게 향하는 나의 길
(君に向かっている僕の道)

※引用文中の和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6180359

※4 여행하는 ○○(旅行している○○)…「-는」は現在連体
ここでは、詩的許容範囲内で倒置が行われているものだと思われ、二行前の「砕けない星」あるいは「君の夢」に「旅する」が掛かるのではないかと思いました。なので、意訳ではそのように意味が通る順で並べ替えています。

自分は単純、ストレートな表現が好き」と自ら分析している通り、例えば現状に対する意見を込めたり固有名詞に複数の意味を潜ませたり複雑に韻を踏んだりするのがそれぞれ得意な弟たちの歌詞とは全く別の性格を持つ歌詞であることが読んですぐにわかります。

前掲のインタビューで自分のソロ曲の中で最も気に入っているとしている "Moon" の歌詞も、まるでたったひとりの相手に対して真摯に綴った手紙のような、まっすぐな世界を持っていました。

"Moon" ではARMYを地球に、自身を月に例えていましたが、今回 "The Astronaut" ではARMYを「은하수(天の川)」に、自身を「소행성(小惑星)」とのようだと表現しています。

――目的もなくただ流れに身を任せていたけれど、明るい道を示してくれたARMYたちのお陰で、全てと言っていい程たくさんの夢と呼ぶことができるものを見つけ出すことができた。
そしてそれはひとつひとつが輝いて、大きな宇宙になったんだ。
その宇宙で僕はARMYの夢になり、ARMYは僕の夢になるんだよ。――

歌詞冒頭の「You and me」は「これから言うことはお互いに言えることだからね」という「우리의 이야기(僕たちの物語)」を語り始めるにあたっての大前提であり、広い宇宙の中の小さな星でしかなかった自分をARMYたちが見つけ出してくれたように、自分もARMYたちの光を信じてこれからも進み続けていくのだということ、自分が今いるこの宇宙が〈互いが互いを照らし合っている世界〉であるのだということを伝えようとしているのだと思います。

一方的に「いつも愛してくれてありがとう、これからもよろしくね」ではないところがバンタンマインドとでも呼ぶべき重要なポイントなのではないかと私は思います。ARMYたちにとっては太陽レベルで眩しい彼らだけど、いいやそれは違う、と。僕らも同じ宇宙の中に漂うあの星々の中のひとつなんだ("소우주(Mikrokosmos)")、と示し続けているのです。

先のことなんて誰にも分らない。
それでも「砕けない星のような君の夢になるよ」と彼が誓うことができるのは、互いが夢を語り合うことのできる「私たちの物語」がこれからも終わらずに続いていくと確信しているからなのではないでしょうか。


3.A life, a sparkle in your eyes

続いて英語歌詞の読み込みをしてみます。
ジンくんとの会話からインスピレーションを得たColdplay側が主に作業をした部分だと思われます。

When I'm with you
(僕が君と一緒にいる時)
There is no one else ※5
(そこには他に誰もいない)
I get heaven to myself ※6
(僕は天国を自分にあげる)
When I'm with you
(僕が君と一緒にいる時)
There is no one else
(そこには他に誰もいない)
I feel this way I never felt ※7
(今まで感じた事がない事を感じている)

※引用文中の和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6180359

※5 そこには他に誰もいない→他の誰かがいても、いないも同然
ARMYたちと一緒なら誰に何と言われようとかまわない

※6 「get 物 to 人」…人に物を(手に入れて)送る
★「get 物 for 人」とはニュアンスが異なる。(参考
→自分の為に幸せだと思うことは自分でする

※7 今まで感じた事がない事を感じている
→こんなことを感じるのは初めてだ

When I'm with you
(僕が君と一緒にいる時)
There is no one else
(そこには他に誰もいない)
A life, a sparkle in your eyes ※8
(人生、すなわち君の瞳の中の輝き)
Heaven comin' through ※9
(天国は確かに現れている)
And I love you
(そして僕は君を愛している)

※引用文中の和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6180359

※8
・コンマで区切られた名詞→同格参考
・A life…aが付く可算名詞のlifeは(個人の)「命」、「一生」
→意訳では「僕の人生」としました。
 何故「My life」ではなく「A life」なのかを考えるとやはり、一方的ではない相互関係であることを示したかったのではないか、と推測します。

※9 come through…はっきりとわかる、表に現れる(参考

韓国語歌詞ではもちろんなのですが、英語歌詞においてもジンくんの想いと姿勢がシンプルかつ抒情的に語られていて、アーティストとしてのそれぞれの力量と、同志としての親和性の高さが存分に発揮されたものになっていると感じました。


4.星の王子さま、あるいは

MVのティザーが公開された時、荒野に堕ちた宇宙船を前にし瞳に憂いを湛えるジンくんを見て、私はサン=テグジュペリ作『星の王子さま』を思い出しました。「不時着」「宇宙」「星」というキーワード、ON:Eコンでの "Moon" のステージセットを思い出したのです。

MV本編の蓋を開けてみると「他の惑星から来た僕(Jin)が宇宙空間を彷徨って地球に不時着し、故郷の惑星に戻らなければならなくなったが、結局、愛する人と大切なものがある地球に残る事を決心した」(本人談)という内容であることがわかりました。

『星の王子さま』はどちらかというと逆の展開をして〈切ないエンディング〉を迎えるので、MV全体にふんわりとしたおひさまの匂いを感じてほっとしたところがあります。「この曲を聴いている間は幸せな気分になって欲しい」(本人談)というジンくんの意図がMVに最大限落とし込まれているのだと思います。

でもやっぱりちょっと気になったので、家にある内藤あろう氏 翻訳版の『星の王子さま』を久しぶりに通読してみました。

作中に登場する「大切なものは目に見えない」という気づきは作品を象徴する言葉として既に広く知られているものですが、今回あらためて読んでみると、その〈切ないエンディング〉を迎えた王子さまの想いに「皆さんに少しの間さよならを告げる歌が、皆さんに愛を届ける歌が、僕には必要なんです」とクリスに直訴したジンくんの心が私の中でぴたりと重なりました。

この "The Astronaut" をはじめとしたたくさんの楽曲自体が、空白となる年月の間に彼を想うきっかけとなることは間違いありません。
その上で、私たちには他にも方法があるのだということに気付かされたのです。

MVに登場する「自室」のアイテムひとつひとつに目を向けると、これまで彼が恐れず明け透けに自分のことを話してくれてきたお陰で、彼の好きなものに関するものが揃っていることがわかります。釣り竿、ゲーム機、ゲームキャラクター…。
それらは我々が普段の生活していても目に入る可能性があるありふれたものたちでもあり、そしてそんなありふれた瞬間にふと彼のことを思い出す時、そのアイテムはすでに彼にまつわる唯一無二のものとなるのです。

MVには10歳ぐらいの女の子がARMYの象徴として描かれているという考察を読み、なるほど、と唸りました。女の子が一人で自転車に乗れるようになった姿を「ファイティン」と送り出すジンくんの気持ちが「僕がそばにいなくても君(ARMY)は大丈夫」であるとするならば、残されたARMYが途方に暮れる時にも、「なにげない景色の中に僕を思い出して笑顔になれるきっかけはたくさんあるんだよ」という、背中をさすってくれるちょっとしたしかけ●●●を用意してくれたのではないかと思うのです。

だから、あの超ロングなゲーム実況ですら、そんな「笑顔」の種のひとつだったのだと言えるのではないかと…。

グループの長兄であるが故に、考えなくてはならないこと、残さなくてはならないものがあるとこれまで人一倍「重力」を感じてきたに違いない彼が、音楽で繋がった敬愛するヒョンの力を畏れずに借りて「無重力」の世界を自由に表現できたこと。
それがこのソロシングルの一番の醍醐味でもあり、また、そうやって解放された愛は、ARMYたちだけではなく後に続いてゆくメンバーたちにとっても道を照らす星となったのではないかと、そう思わずにはいられません。

メンバーに楽曲の感想を求めたところ、秋リリースにぴったりの曲だと評価されたと語ったジンくん。ジンくんの声は紅葉の季節に野外で聴くとものすごくハマるんですよね。わかります。(Sound Cloudに上がっているカバー曲たちなんか特にそう)

色付く世界を眺めながら、今日も宇宙に想いを馳せます。



最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。
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