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BTS "잠시(Telepathy)" 君のBibilly Hillsになりたい 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.038

例え今は離れていても
僕らの心だけはひとつじゃないか
僕のそばに君が居なくても
君のそばに僕が居なくても
僕らは一緒だということを
全部わかっているでしょう?

잠시(Telepathy)



毎回同じ一日の中で
君と会う時が何より僕は幸せだよ
毎回違う日常の中で
君という人は何より僕の特別だよ

変わりはない?
辛くなかった?
僕はこの頃…そうだな…
ふわりと浮いてしまったみたいだよ
有り余る時間のお陰で
こんな歌を書くんだよ
これは、君のための歌

さあ出発しよう 青い海へ
僕ら一緒に駆け回っていた
あの 青い海へ
余計な心配は 一旦
置いたままで 暫く
僕らだけで楽しもう共に
思い出す
青い海の真ん中
小さな島

例え今は離れていても
僕らの心だけはひとつじゃないか
僕のそばに君が居なくても
君のそばに僕が居なくても
僕らは一緒だということを
全部わかっているでしょう?

毎回同じ一日の中で
君と会う時が何より僕は幸せだよ
毎回違う日常の中で
君という人は何より僕の特別だよ

朝 野に咲く花の様に起き上がる
鏡みたいに 僕は君を確認
やに代わりに君だけ窺った
あざだらけの膝がうんとまた重たい
通りを散歩して 考えるよ
この 星が/離れていることが
縮めてくれてる僕らの距離

僕は君の ※Bibilly Hills になれるかな?
君が僕に同じことをしてくれたように

速すぎるのはちょっと危険だ
遅すぎるのはちょっと退屈さ
速すぎないよう
遅すぎないよう
僕らの速度に合わせて行こう
これはかなり長めの
愉快なローラーコースター

例え今は離れていても
僕らの心だけはひとつじゃないか
僕のそばに君が居なくても
君のそばに僕が居なくても
僕らは一緒だということを
全部わかっているでしょう?

毎回同じ一日の中で
君と会う時が何より僕は幸せだよ
毎回違う日常の中で
君という人は何より僕の特別だよ


韓国語歌詞はこちら↓
https://m.bugs.co.kr/track/32075139

『잠시(Telepathy)』
作曲・作詞:SUGA , JANGYIJEONG , Hiss noise , RM , Jung Kook

※Bibilly Hills=비빌 언덕(頼みの綱) 見出し2にて解説



*******


今回は、2020年11月にリリースされたスペシャルアルバム「BE」に収録されている "잠시(Telepathy)" を意訳してみました。

「BE」に収録されている曲たちは、既に決定していた活動を休止や中止せざるを得なくなってしまった状況から生み出されたものとなっており、様変わりした世界に於いて誰もが一度は経験したであろう状況や心境が、彼らの音と言葉で綴られています。



1.レトロ+ポップ+ディスコ

全8トラックの中でもこの "잠시" は、Skitを挟んだアルバム後半に向けての盛り上がりを予感させる軽快なアレンジで、作曲したSUGAは「BE」リリース時のV LIVE(肩の手術後のお休み中なのでビデオ参加)でこれを「レトロ・ポップ・ディスコサウンド」と呼んでいます。(23:32~)↓

また、ユンギ個人V LIVEでも曲についてのエピソードが語られています。(11:17~)↓

「レトロ・ポップ・ディスコ」のくだりはグローバル記者会見でも話題が出ていたようですが、V LIVEの事前収録日との前後関係を考えるとミンPDのコメントの方が先だったのかな?と思われます。

「BE」関連の動画には、メンバー間で話し手と聴き手を設定したインタビューシリーズがあり、話し手ユンギ←聴き手ナムのものがこちらです。↓

上記動画のインタビューでは曲作りの行程などについても話が及んでいて、自分の才能と能力を把握し尽くした職人:ミンユンギの顔を垣間見ることができて大変興味深かったです。

個人的にはこの楽曲、アレンジが超好みです。イントロの「星が降ってくる音」(と私は勝手に呼んでいる)が聞こえてくる時点でディスコサウンド好きとしてはたまらなくて、ゆるーいテンポが頭を空っぽにしてくれるところも大好きです。


2.君のBibilly Hillsになりたい

今回歌詞を翻訳してみて、一番難儀だったのはナムパートでした。彼が紡ぐ言葉たちには特別な役と立ち位置が割り当てられているので、まずそれを理解するのに少し時間を要しました。

以下、韓国語歌詞につけた和訳は直訳です。

아침 들풀처럼 일어나 ※1
(朝 野草のように起き上がる)
거울처럼 난 너를 확인 ※2
(鏡のように僕は君を確認)
눈꼽 대신 너만 묻었다 잔뜩 ※3
(目ヤニの代わりに君だけうかがった ひどく)
또 무겁다 멍 많은 무르팍이 ※4
(また重たい あざの多い膝が)
거릴 거닐며 생각해 이 별이 ※5
(道を散歩して、考える この星が/離別が)
허락해 주는 우리의 거리 ※6
(下落させてくれている僕たちの距離)
Oh can I be your Bibilly Hills ※7
(僕は君のBibilly Hillsになれるかな)
Like you did the same to me ※8
(君が僕に同じことをしてくれたように)

https://music.bugs.co.kr/track/32075139

※1
朝の陽の光を浴びて顔をもたげる野の花を思い浮かべました。情勢が変わる以前は仕事の為に不規則な生活を送りがちだったが、活動がままならず強制的に休暇を取らざるを得なくなってしまい、結果的に「朝陽と共に起きる」ような規則正しい生活になってしまった。ということを示唆しているのだと思います。

※2 ※3
「鏡のように」見るものと言えば何だろうと考えた結果、スマホだ!と気付きました。おそらく、寝起きで顔も洗わないまま「君」とビデオ通話中のスマホを覗き込み、自分の目ヤニをチェックする代わりに「君」が元気かどうかをうかがっているの図。なのだと思います。自分の見た目よりも「너만(君だけ)」が気になって仕方ないんです…かわいい。

※4
※3の行の最後の「잔뜩(ひどく)」は、次の行の「무겁다(重たい)」にかけるのが自然かと思います。改行が意味を無視しているのは、韻を踏ませた部分が文字として整列した時の見映えの良さを優先したのかなと推測しました。「アザだらけのひどく重たい膝」は、困難な状況下で(肉体的にも精神的にも)苦痛を受けていることのメタファーだと思われます。

※5
「이 별이」は「この星が」と素直に訳しても収まるのですが、スペースを飛ばして読むことで「이별이(離別が)」とも読むことができます。直前の「道を散歩する」のくだりから「この星(地球)」へと思いを馳せる一方、離れ離れになっている状況によって得られた気付きについてもここで言及しているのではないかと思われます。

※6
이 별이(この星が)」と訳した場合
暫くそばにはいられないけれど、この星が「君」と僕とを繋いでくれていると思えばその距離も縮まっていく。

이별이(離別が)」と訳した場合
離れていることがかえって「君」のことを意識させ、様子が気になって仕方がない。近くにいられた頃よりも「君」との距離を縮めてくれている。

※7 ※8
Bibilly Hills という綴りを見て、私は最初、普通にビバリーヒルズと空目しました(笑)よくよく見てみたら…Bibi…?検索結果を色々と拝読し「비빌 언덕」にたどり着いた時にはもうただただ感心するだけでした。

「비빌 언덕」の意味とその解説にはこうあります。

頼みの綱
直訳すると「こする丘」。牛や馬が虫を追っ払う時に最後に頼れる方法が「背中を丘にこすりつける」という説がある。

https://www.kpedia.jp/w/35418

更に「비빌 언덕」が「Bibilly Hills」となった瞬間(?)をとらえた映像がこちらです。↓
(下記動画リンクは会話の流れがわかるように少し手前から始まるようになっています。ナムさんの口から「비빌 언덕」という単語が出るのが30:10あたり。その後30:25あたりでユンギが「비빌 Hills」ともじっています)

かつて自分が困難な状況にあった時、いくつもの「頼みの綱」を頼って窮地を脱した経験から、自分も誰かの「頼みの綱」になれるかな?という気持ちが「Bibilly Hills」という造語にはこめられていたのでした。
ライブではこの部分を「なれるかな?」ではなく「なりたい!(I want to be your Bibilly Hills)」に更新して披露しているようです。滾ります。

…たった8行にこの情報量。
見出しの冒頭にも書きましたが、ナムさんが的確に選んだ言葉たちはそれぞれが特別な「役」を持っていて、絶妙な「演出」をつけてもらった上で舞台上の最適な場所に「配置」されているのだと思います。「配役」をする際には「伝えたいことを伝えられるか」が最重要ポイントなので、選ばれる言葉の言語は多様で、時には韓国語、時には英語、そして今回のように造語であることもあります。

限られた尺の中に言いたいことを誤解のないように詰め込む作業はきっと想像以上に難しいはずなのですが、完成形をこうして堪能させてもらう度に、きっと彼は心底これを楽しんでいるのだろうなという確信を持ってしまいます。訳しているこちらも、謎解きをしているようなワクワク感でいっぱいになりました。



2020年という特異な年に生まれた曲だからこそ胸に響くフレーズもたくさん含まれている歌詞でしたが、今後情勢が落ち着いたとしても、忘れたくない、忘れてはならないものを聴く度に引き寄せてくれる曲になるだろうとも思いました。

曲の終盤「僕らの速度に合わせて行こう/これはかなり長めの/愉快なローラーコースター」とあるように、どっしり構えて、自分のペースで、まだまだ出口の見えにくいこの状況をどう楽しんでやろうか、そんな気概を持って行きたいなと思います。



最後までお付き合い下さりありがとうございました。

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