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BTS "Danger" 与えた分だけ欲しくなる 〜日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.136

お前は 俺がいなくても平気なのに
俺はお前のことで溢れて狂いそうだ

Danger



毎日 こんな感じ
お前はお前 俺は俺
それがお前の公式
携帯電話はお飾り
俺はお前の彼氏で合ってはいるか?
うんざりだ
なぜ宿題みたいに
言い表すのを押し付けて
俺たち何のビジネス?
それとも俺が嫌いか?
Dong-Dong-Digi-Dong-Dong
心を少し広く持てよ
今日もまた 呪文を唱える

俺たちは平行線
同じ場所を見てるけど余りにも違うね
俺はお前の他にはいないのに
なぜお前は俺の他にもいるみたいなの
根に持ったら お前は訊くね
「拗ねたの?」
俺を拗ねさせたことでもあったのか?
お前は귀요미可愛い子、俺は지못미残念な奴
起こることを願う
お前が もっと俺を愛する奇跡が

お前は 俺がいなくても平気なのに
俺はお前のことで溢れて狂いそうだ
でもなぜこうなるんだ?
なぜ 馬鹿をしでかす?
俺はもう 警告する
惑わせるな

ふざけてんの?お前 一体 俺が何だよ
なめてんの?ああ 俺を弄んでるんだよ

お前は今 危険だ
なぜ 俺を試す?
なぜ 俺を試す?
惑わせるな

ふざけてんの?お前 一体 俺が何だよ
なめてんの?ああ 俺を弄んでるんだよ

お前は今 危険だ
なぜ 俺を試す?
なぜ 俺を試す?
惑わせるな

お前のせいですごく苦しい
お前のせいですごく苦しい
お前のせいですごく苦しい
惑わせるな

お前は俺にとって悪すぎる
お前は俺にとって悪すぎる
お前は俺にとって悪すぎる
惑わせるな

連絡不在中、開錠手配中
お前という女の本心を捜索中
送ってくれたのは たかが2、3行
これが俺が望んでいた恋愛、夢?
波瀾万丈 ラブストーリー
全部どこいったっけ?
ドラマに出てきた主人公たち
みんなあっちに行け
お前のせいで数百回と抱える頭
お前は淡々と
ただ 堂々と
俺を振る パンパン

何だよ 何なんだ?
俺はお前にとって何?
お前より お前の友人に伝え聞く報せ
欲しい 欲しい ああ お前が欲しい
お前という女は詐欺師
俺の心を揺さぶる犯人
火がつく前から俺の心を使い果たして
一方的な求愛をしてみたところで無駄
お前にとって俺はただの恋人ではなく
友だちの方が楽だったのかもしれない
俺は愛に敗れた負け犬

お前は 俺がいなくても平気なのに
俺はお前のことで溢れて狂いそうだ
でもなぜこうなるんだ?
なぜ 馬鹿をしでかす?
俺はもう 警告する
惑わせるな

ふざけてんの?お前 一体 俺が何だよ
なめてんの?ああ 俺を弄んでるんだよ

お前は今 危険だ
なぜ 俺を試す?
なぜ 俺を試す?
惑わせるな

ふざけてんの?お前 一体 俺が何だよ
なめてんの?ああ 俺を弄んでるんだよ

お前は今 危険だ
なぜ 俺を試す?
なぜ 俺を試す?
惑わせるな

お前のせいですごく苦しい
お前のせいですごく苦しい
お前のせいですごく苦しい
惑わせるな

お前は俺にとって悪すぎる
お前は俺にとって悪すぎる
お前は俺にとって悪すぎる
惑わせるな



韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/3637685

『Danger』
作曲・作詞:Pdogg, Thanh Bui, "Hitman" Bang, Rap Monster, SUGA, j-hope


*******


今回は2014年8月に発表されたBTS/防弾少年団の正規アルバム第1集「DARK&WILD」に収録されているタイトル曲 "Danger" を意訳・考察していきます。

この楽曲は、ベトナム系オーストラリア人ミュージシャンのThanh Buiを制作陣に迎えたギターロック色の強いヒップホップ曲であり、アメリカで録音された意欲作です。
この時のコライトが縁で、アルバムリリース後の11月にはThanh Buiによるリミックスバージョンがリリースされており、ピアノの旋律が印象的な、原曲とは全く異なる世界観が繰り広げられています。

1.制服を脱いだ少年たち

2014年6月末、彼らはMnet制作番組『防弾少年団のアメリカンハッスルライフ』(2014.7.24~初放送)の撮影の為アメリカに渡りました。正規1集のレコーディングは、番組撮影と同時進行であったことが伝えられています。

Mnet公式チャンネル内のダイジェスト版

番組撮影の経緯等を伝える記事

"Danger" 録音当日のレポ

SUGAによるアルバムレビューでもレコーディングや、アメリカ帰国直後に行われたというジャケット撮影の様子などが語られています。↓

〈学校シリーズ〉の活動を終えて制服を脱いだ彼らですが、「DARK & WILD」においてより一層目指している音楽を体現するために、誠心誠意を尽くしたことが当時のインタビュー記事から窺い知ることができます。

ダンス練習を1日16時間、という超人的なエピソードから、大衆性に関する世間の評価は評価として「自分たちがやりたいことをやった」という信念の表明に至るまで、初の正規アルバムに対する思い入れの深さがにじみ出ています。

特に現地ヒップホップの空気感を活かすことを目的とし、アメリカでレコーディングされたこの "Danger" は、視覚的にも聴覚的にも隙のない本格的なパフォーマンスが魅力的です。


2.思い通りにならない愛

公式に言及されているアルバム「DARK & WILD」のコンセプトは「思い通りにならない愛」。
タイトル曲である "Danger" はそのコンセプトのど真ん中をゆく、フラストレーション溢れるトゲトゲした内容になっています。

맨날 이런 식
(毎日こんな風)
너는 너 나는 나 너의 공식
(お前はお前 俺は俺 お前の公式)
핸드폰은 장식
(携帯電話は装飾)
나 남친이 맞긴 하니? I'm sick ※1
(俺は彼氏で合ってはいるかい?うんざりだ)
왜 숙제처럼 표현들을 미뤄
(何故 宿題みたいに表現を押し付けて)
우리 무슨 비즈니스? 아님 내가 싫어?
(俺たち何のビジネス?それとも俺が嫌い?)
덩 덩 디기 덩 덩
(ドン ドン ディギ ドン ドン)
좀 살가워져라 오늘도 또 주문을 빌어 ※2
(心を少し広く持てよ 今日もまた呪文を唱える)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/3637685

※1 
・~긴(=~기는) 하다…~ではある(参考
・~니?…~であるかい?、~するかい?(参考
※2 주문을 빌다…呪文(주문)を祈る(빌다)→呪文を唱える

彼女に対する自分の気持ちと、自分に対する彼女の気持ちが釣り合っていないことを痛い程自覚している'俺'。自分が「彼氏」かどうかを確認したくなるが、嫌な事(=ここでは’宿題’に例えられている)を人に押し付けるかのように、明言するのを渋っている。
いちいち腹を立てるのもバカバカしい。
不毛な言い争いを避けるために、「心を広く持て」と今日も自分に言い聞かせる。

우린 평행선,
(俺たちは平行線)
같은 곳을 보지만 너무 다르지
(同じ場所を見るけれど違いすぎるね)
난 너 밖에 없는데
(俺はお前以外にいないのに)
왜 너 밖에 있는 것만 같은지 ※3
(何故 まるでお前は他にいるかのようなのか)
꽁하면 넌 물어 "삐쳤니?"
(根に持ったらお前は聞く「拗ねたの?」)
날 삐치게 했던 적이나 있었니 ※4
(俺を拗ねさせたことでもあったのか)
넌 귀요미, 난 지못미 ※5
(お前は「可愛い子」 俺は「残念な奴」)
생기길 니가 더 사랑하는 기적이 ※6
(起こるように お前がまた愛する奇跡が)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/3637685

※3 ~것만 같다…まるで~かのようだ(参考
※4 ~게 하다…~させる(参考
※5 
귀요미キヨミ…かわいい子(参考
지못미チモンミ켜주시 해서 안해=守ってあげられなくてごめん)の略。転じて「残念」の意。(参考
※6 ~길=~기를 (바라다)…どうか~であるように、~することを望む(参考

つれない態度を突き付けられて絶望しても、最終的には彼女がまた奇跡のように自分を深く愛してくれることを願う'俺'。
武骨な言葉や態度でありながらも、根っこの方では彼女への愛情に溢れていて完全に見切りをつけることができません。

넌 내가 없는데
(お前は俺がいないのに)
난 너로 가득해 미칠 것 같아
(俺はお前で溢れて狂いそうだ)
근데 왜 이러는데
(でも 何故 こうなるんだ)
왜 바보를 만들어 ※7
(何故 馬鹿を引き起こす?)
나 이제 경고해
(俺はもう警告する)
헷갈리게 하지마
(混乱させるな)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/3637685

※7 만들다…作る、生み出す、引き起こす(参考
★바보를 만들다(馬鹿を引き起こす)→馬鹿をしでかす

男女の付き合いをしているはずの'彼女'が何故、次々と自分の気に障ることばかりをしでかすのか、その真意がわからずに'俺'は相当イライラしているのだと思われます。

★「바보를 만들다」の主語を나(俺)にしてしまい、且つ「何故俺をおかしくさせるのか」「何故俺を狂わせるのか」「何故馬鹿にならせるのか」などと〈使役文〉にしているネット上の既存翻訳記事が散見されますが、「させる」と訳すには「語幹+게 만들다」である必要があります。
ここでの主語は'彼女'であり、彼女が馬鹿(바보)を(를)引き起こす(만들다)とするのが自然かと思われます。

장난해 너 도대체 내가 뭐야 ※8
(ふざけてんの?お前 一体俺が何だよ?)
만만해 uh 날 갖고 노는 거야 ※9
(なめてんの?ああ俺を弄んでるんだよ)
너 지금 위험해
(お前は今危険だ)
왜 나를 시험해
(何故 俺を試す?)
왜 나를 시험해
(何故 俺を試す?)
헷갈리게 하지마
(混乱させるな)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/3637685

※8 장난해…ふざけてんの?(参考
※9
・만만해…なめてんの?(参考
・갖고 놀다…持って遊ぶ→弄ぶ(参考)★갖다は가지다(持つ)の短縮形

自分の我慢が限界にきていることを察し、これ以上「混乱させるな」と彼女に警告を出したものの、ここで一気に抱えていた苛立ちが吹き出します。
何故。どうして。
思い通りの形にならない愛情の有り様に対する憤りが彼をケンカ腰にさせ、口から出てくる言葉も強いものになっています。

一方、恋愛の駆け引きができない'俺'は彼女からしてみれば、融通の利かない扱いにくい「唐変木」に見えているのかもしれません。


3.敗北宣言、故に

ふたりの気持ちのすれ違いが生んだ同時多発的な「ままならなさ」の数々に、'俺'は絶望の色を隠せません。

연락 부재중, unlock 수배 중
(連絡不在中、開錠手配中)
너란 여자 본심을 수색 중
(お前という女の本心を捜索中)
고작 보내준 게 문자 두세 줄
(せいぜい 送ってくれたのが文字ニ、三行)
이게 내가 바랬던 연애, 꿈?
(これが俺が望んでいた恋愛、夢?)
파란만장 러브 스토리 다 어디 갔나
(波乱万丈 ラブストーリー 全部どこに行ったんだ?)
드라마에 나온 주인공들 다 저리 가라
(ドラマに出てきた主人公たち 皆 あっち行け)
너 때문에 수백 번 쥐어 잡는 머리카락
(お前のせいで数百回掴み取る髪)
넌 담담 그저 당당, 날 차 빵빵 ※10
(お前は淡々と ただ堂々と 俺を振る パンパン)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/3637685

※10 차다…(恋人を)振る、蹴る(参考

ここまで読んでみると、'俺'にはドラマの登場人物やストーリー展開に恋愛の理想を抱くような無垢なところがある様子です。ところが、いざリアルの世界で彼女が出来てみると、思い描いていた甘い意思の疎通は夢のまた夢。簡単な連絡1本すらままならない。
理想と現実の間にある深い谷底で彼は頭を抱え、悩み悶えます。

뭐니 뭐니 난 네게 뭐니
(何だよ 何だ 俺はお前にとって何だ)
너 보다 니 친구에게 전해 듣는 소식
(お前よりお前の友人に伝え聞くニュース)
원해 원해 uh 너를 원해
(欲しい 欲しい ああ お前が欲しい)
너란 여잔 사기꾼 내 맘을 흔든 범인
(お前という女は詐欺師 俺の心を揺さぶる犯人)
불이 붙기 전부터 내 맘 다 쓰고
(火が着く前から俺の心を全部使って)
일방적인 구애들 해 봤자 헛수고
(一般的な求愛をしてみても無駄で)
너에게 난 그저 연인이 아닌 우정이 ※11
(お前にとって俺はただ恋人ではなく友情が)
편했을지도 몰라 I'm a love loser
(楽だったかも知れない 俺は愛の負け犬)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/3637685

※11 体言+이 아니다…~ではない(参考
※12 ~을 지도 모르다…~かもしれない(参考

ここでとうとう'俺'の方から「I'm a love loser」と敗北宣言が出てしまいます。
友達としてはウマが合っていたふたりだったのかもしれませんが、恋人として上手くやっていくためには何かが足りていなかったようです。
まあ、彼にとっての恋愛の教科書が手垢のついたドラマのベタな展開だったことを考えると、この結果もいたしかたないのではと思いますが…。

他人同士の人と人が、相手の気持ちを尊重しながら同じ方向にある同じものを見て歩いていくことがどれ程難しく、苦くて大変なものであるか。
その葛藤の中で、思い通りにならない憤りに任せて相手を傷つけてしまいそうになる〈危険〉。
愛しているのに何をしてもわかってもらえないと悟り、何故、どうしてという煮えたぎる憤りの制御が効かなくなるかもしれないと危機感を覚える'俺'。
この "Danger危険" で歌われているのはそういった〈危険〉です。

理想とかけ離れたふがいない自分。当時の彼らの同世代の気持ちを汲んだ作品としてはめちゃくちゃリアルですけれど、上手くいかない現実を前に「お前のせいで~」と繰り返すところには、まだまだ若いな…という印象を持ってしまったりして。

大人になっても他人同士の駆け引きは難しいところがたくさんありますけれど、自分で自分の〈危険〉な部分には、ちゃんと蓋ができる大人でありたいなとは思います。




ここ数件の記事では初期のタイトル曲を取り上げてみました。
「防弾スタイル」とも称されるデビュー当時の反骨的なテーマ選びとそのビジュアルの強さから、「何事にも屈しない」とか「我が道を行く」などといったイメージが私の中では先行していましたが、当時の彼らの同世代(10代後半~20代半ば)ならではの心の脆さや繊細さがしっかり織り交ぜられていて、ただ粋がっているだけの少年たちの、勢いに任せた話では全くなかったな、という印象です。

悩み、葛藤し、成長する少年の言葉たちは、怒涛の〈花様年華シリーズ〉へと受け継がれていきます。



今回も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。