Agust D "D-Day" その日がやってくる ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.094
D-Day
未来はどうにかなるだろう
平気さ 平気
鏡を見ても苦痛の色はない
その日がやって来るまで
俺は 本気で死にそうだ
でも なんとかなるさ
対価を戴く時間がくれば
俺は街へと繰り出していく
切り替えろ 時が迫り来る
そして 時間切れ
未来はどうにかなるだろう
平気さ 平気
鏡を見ても苦痛の色はない
俺は本気で死ぬかもしれない
仕業に対する報いが
俺に返ってくるのがわかる
対価を戴く時間がくれば
俺は街へと繰り出していく
切り替えろ 時が迫り来る
そして 時間切れ
その日がやってくる
実に善き日だ
この日のために今に至るまで
迷路をふらついていたようだ
無邪気だった過ぎし日は
恐らく もう終わり
生まれ変わる俺たちのために
祝杯を今一度上げる
憎しみに満ちた世界に
憎悪は尚一層余計だね
蓮の花は泥濘の中でも
輝かしく花を咲かせるものなんだから
ねちねちと人と比較
劣等感 自己嫌悪
こういったことに向かって
本日を以って銃口を向ける
あんた何なんだ?
限界なんかはぶち壊せよ この野郎
過去を後悔せず、
未来を恐れるな この野郎
不可避な事に当たって
十分に苦しんでしまえ
無闇に傷をほじくり返しながら
傷痕を悪化させないことを願う
思い出せない
思い出せない
思い出せない
これ以上何も言うな
思い出せない
思い出せない
切り替えろ 時が迫り来る
そして 時間切れ
未来はどうにかなるだろう
平気さ 平気
鏡を見ても苦痛の色はない
その日がやってくるまで
俺は 本気で死にそうだ
でも なんとかなるさ
対価を戴く時間がくれば
俺は街へと繰り出していく
切り替えろ 時が迫り来る
そして 時間切れ
未来はどうにかなるだろう
平気さ 平気
鏡を見ても苦痛の色はない
俺は本気で死ぬかもしれない
仕業に対する報いが
俺に返ってくるのがわかる
対価を戴く時間がくれば
俺は街へと繰り出していく
切り替えろ 時が迫り来る
そして 時間切れ
その日がやってくる
禁止されたことから
解放されると同時に
あなたの新章を開く
燻るにしては俺らは
相変わらず若くして幼い
昨日よりマシな今日のための
最小の努力
あんた何なんだ?
限界なんかは無いだろ この野郎
過去は過ぎていったし
未来は遠い話
何を怖れている この野郎
過去は過去であり
現在は現在であり
未来は未来であるだけだ
過度な意味の展開に骨を折る 十中八九
今日を以って迷路をすり抜け
新たな始まりを開始
憎しみに覆われた世界に
再び 蓮の花が咲くのだ
そう その日がやってくる
堂々と胸を張ることを願う
証明はあなたの役割だから
どうか証を示すことを望む
思い出せない
思い出せない
思い出せない
これ以上何も言うな
思い出せない
思い出せない
切り替えろ 時が迫り来る
そして 時間切れ
未来はどうにかなるだろう
平気さ 平気
鏡を見ても苦痛の色はない
その日がやって来るまで
俺は 本気で死にそうだ
でも なんとかなるさ
対価を戴く時間がくれば
俺は街へと繰り出していく
切り替えろ 時が迫り来る
そして 時間切れ
未来はどうにかなるだろう
平気さ 平気
鏡を見ても苦痛の色はない
俺は本気で死ぬかもしれない
仕業に対する報いが
俺に返ってくるのがわかる
対価を戴く時間がくれば
俺は街へと繰り出していく
切り替えろ 時が迫り来る
そして 時間切れ
韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6197074
『D-Day』
作曲・作詞:Agust D , Vincent "Invincible" Watson , 2Live , RM
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今回は、BTSのSUGAがAgust D名義で発表する三枚目の、また、商業的に発表される初のソロアルバムとなる2023年4月リリース「D-DAY」収録の1曲目 "D-Day" を意訳・考察していきます。
アルバムリリースに合わせワールドツアー直前に行われたライブ配信では、制作時のエピソードが語られています。↓
(18:45ごろ~ "D-Day" の話題)
この本人の解説によると"D-Day" のビートは元々 "달려라 방탄(Run BTS)" 制作時に最終候補に残っていた2つのうちのひとつであり、関係者の意見がもう一方のビート(実際に "Run BTS" で使用されたもの)に集中したためその時は採用になりませんでしたが、既にラップ歌詞を付けていたユンギが自分の楽曲に使用する許可を得て今に至ったとのこと。
アルバムの1曲目なので、最初からサビで入るインパクトのある曲を目指したと話しています。
また、そのサビ自体も元々は "해금(Haegeum)" 向けに作っていたもので、英語詞の作成においてはナムさんの力を借りたことも明かしています。
1.「その日」を迎えるために
ミックステープでリリースされた「Agust D」、「D-2」に続き、Agust Dとして通算3作目の作品集となったソロアルバム「D-DAY」。
そもそも日本では馴染みの薄いD-Dayという言葉について、ここで確認したいと思います。↓
つまり「その日のために時間をかけて準備する」ことが大前提であり、突発的に起こった出来事の当日を後からD-Dayと呼ぶことはない、ということが言えると思います。
ユンギがこのD-Dayをどんな日と捉えていたのか。
その一端はドキュメンタリー「SUGA: Road to D-DAY」に収められており、予告編では、音楽に対して(生みの苦しみやジレンマを感じる度に)「やめたい」と否定的になることから解放される日。それをD-Dayと考えて出発した、と語っている部分が収められています。↓
楽曲 "D-Day" には、そんな「解放の日」を目指して作業をする姿が描かれています。
※1
・would…willより起こり得る確信が低い時の推量(参考1・参考2)
・for real…実際に、マジで(参考)
※2 A and B…「条件(AすればB)」の意。(参考)
※3
・time (is) ticking…ある時間に刻一刻と時が迫っている様(参考)
・time (is) over…決められた期限を超えること(参考)
※「タイムオーバー」は和製英語
※4 カルマ…因果応報の法則(参考)
この部分が特にナムさん色の強い言葉選びのような気がします。(下記記事参照)
好きが高じて生業となった音楽ではあるけれど、思うように作業が進まず死に物狂いになる辛い時間の方が遥かに多いのが現実。
鏡の中の自分の顔色を確認しながら、まだできる、まだいけると自分で自分のケツをはたく日々。
それでも必ずなんとかなっている未来が来ると信じて疑わない。
「その日」を迎え、自分が作り出したものに対する対価が支払われた暁には、極上の解放感が待っている未来を。
自分が成した良くも悪くも全ての成果が、他でもない自分自身に残酷なまでに返って来る未来を。
「この曲はn時間で作りました」といったようなコメントが彼の口から出てくることが時折ありますが、実際には死線を行き来するような日々を幾日も過ごした上でしか、そのような奇跡の瞬間は訪れることなどないのではないかと思います。
プロデューサーとして思索し続ける毎日の壮絶さを窺い知ることができる、熱のこもった印象的なサビ部分の歌詞となっています。
2.否定的感情との決別
ミン・ユンギがSUGAに続いて生み出したAgust Dという名の〈第三の男〉は、2016年当時に抱えていた怒りを一番の原動力としていた、と「D-DAY」関連のインタビューで本人が答えています。
アイドルとラッパー/ミュージシャン、それぞれの領域から容赦のない批判を受けたことを機に生まれた反骨精神が彼のモチベーションとなっていました。
1作目「Agust D」収録の "마지막(The Last)" には '恨が生んだ俺' というストレートな歌詞も見受けられ、アイドル活動と並行して作られた作品であるとは信じがたい程の熱量で生々しい怒りが表現されています。↓
2作目「D-2」には、過去に起こった出来事に対する後悔や疑念を綴った "어땠을까(Dear My Friend)" が収録されています。↓
過去作で赤裸々に語り尽くしてきた怒り、後悔、劣等感、自己嫌悪…そういった負の感情との関わり方について彼は、最終章にしていよいよ結論を下します。
※5 기에(~するものだから)…持論の根拠を説明する(参考)
※6 부로…~を以って(その時を起点とすることを強調する場合の「~から」)(参考)
蓮の花はどんなに汚い泥の中でも美しく花を咲かせることが知られており、花言葉「清らかな心」や「泥中の蓮」という言葉が生まれています。
ここでは、そんな蓮の花の凛とした姿を〈理想の姿・あるべき姿〉として掲げることで、
・人と比較して劣等感を持つこと
・自己嫌悪に陥ること
こういったことに向かって今日を以って銃口を向ける=今後はそのようなネガティブな気持ちにはならない
という意志表示になっているのだと思います。
ついに、否定的な感情と決別する時がやってきたのです。
※7 당신…不特定多数に向けて呼びかける際の「あなた・あんた」(参考)
※8、9
・~고 말다…~してしまう(参考)
・~길=~길 바라다…~であることを願う・望む(参考)
ここでは自分自身にだけでなく、この歌を聴いている不特定多数の者たちを含めた「당신(あんた)」に対する叱咤激励が投げかけられています。
起こってしまったことを悔やむな。
これから起こることに対して恐れを持つな。
物事が想定通りに進まなくてもグダグダ・オロオロするな=むしろ避けられない事にも正面からぶつかってしっかり打ちのめされてしまってこそ得られるものがあるのだ、と諭しているのではないでしょうか。
やたらと傷をほじくりながら…のくだりなどは、「アジクト ヨジョニ」はもうおしまいだと爽快な程にスパッと切り捨てている感じもします(笑)
3.過去を許し、今を生きる
記事冒頭で紹介したライブ配信の終盤で彼は、自分なりに過去を許したひとつの方法であったと、アルバム「D-DAY」を振り返って語っています。
過去、現在、未来。これらの時制に関するキーワードが歌詞に頻出することは、Agust Dの楽曲がひとりの人間の人生そのものであることを裏付けているのだと思います。
※10
・敷衍…押し広げて説明すること(参考)
・十中八九…10の内8か9=ほとんど(参考)
※11 ~ㄴ다(~なのだ【宣言のニュアンス】)(参考)
過去は過去、現在は現在、未来は未来であるのみ。
書き換えられない過去にも、操作しようのない遠い未来にも、必要以上に意味付けして説明したって疲れて終わるだけ。
迷走する日々はこれを以っておしまいにして心機一転。
憎悪にまみれた世界で我ここにありと胸を張る日がやってくる。
「あなた」はおそらく、彼の音楽を受け取る側にいる者のこと。
その「役割」である「証明」とは、彼が楽曲を通して叫び続けてきたことがそれを聴いた人にしっかりと届いているかどうか、その証を明らかにすること。
楽曲に触れ意図を理解し、胸を張って今を生きて行く姿を見せることが「あなた」の役割であり、彼が見たいと望む光景であるのだと言えるのではないでしょうか。
今回も最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。
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