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Jung Kook "Yes or No" 君の答えを聞かせて ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.111

僕らは 恋に落ちているの?
そうだと言って
それとも違うの
君の答えを聞かせてくれよ

Yes or No


これは愛の歌のたぐいではなくて
僕なりの探りを入れるやり方
僕の頭の中は混乱を極めてる
今正に己の心を信じてみるよ

そして もし
何より僕らに賭けてみるのなら
僕は臆せず倍賭けしてみせよう
そして もし
僕らがベッドに辿り着き
僕がカバーを剥ぎ棄てて
そして もし
僕が 間違っているならば
僕はただ 現実から完全に
目を背けるしかないだろう
僕は知らなければならない

君はこのたかぶりを感じているの?
もしそうなら、
どういうことなのかは明らかだと思う
僕らは 恋に落ちているの?
そうだと言って
それとも違うの
君の答えを聞かせてくれよ

君は僕らについて考えているの?
もしそうなら、
どういうことなのかは明らかだと思う
僕らは 恋に落ちているの?
そうだと言って
それとも違うの
君の答えを聞かせてくれよ

このクラブにいる者は
皆かなりハイになっている
僕は君に為す術なく迷っている
もし 僕らが永遠に
見知らぬ者同士でいたのなら
先々上手くいっていたと思う
僕が見るものを君が見てくれるなら
それが 何なのかを見据えてみよう
僕らは更なる高みへ向かうだろうが、
足元を見おろしてはいない
もし それが絵空事ならば
僕がいつまた高く飛べるかわからない
したがって僕は知らなければならない

君はこの昂りを感じているの?
もしそうなら、
どういうことなのかは明らかだと思う
僕らは 恋に落ちているの?
そうだと言って
それとも違うの
君の答えを聞かせてくれよ

君は僕らについて考えているの?
もしそうなら、
どういうことなのかは明らかだと思う
僕らは 恋に落ちているの?
そうだと言って
それとも違うの
君の答えを聞かせてくれよ

君のことが気になるんだ
僕みたいに君は感じる?
この部屋には魔法がかかってる
君もそうだと思う?
君のことが気になるんだ
僕みたいに君は感じる?
この部屋には魔法がかかってる
僕らは何をしようとしているの?

君はこの昂りを感じているの?
もしそうなら、
どういうことなのかは明らかだと思う
僕らは 恋に落ちているの?
そうだと言って
それとも違うの
君の答えを聞かせてくれよ

君は僕らについて考えているの?
もしそうなら、
どういうことなのかは明らかだと思う
僕らは 恋に落ちているの?
そうだと言って
それとも違うの
君の答えを聞かせてくれよ



英語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6221239

「Yes or No」
作曲・作詞:Blake Slatkin , Henry Walter (Cirkut) , Ed Sheeran , Johnny McDaid


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今回は、2023年11月にリリースされたBTSのJung Kookによる1stソロアルバム「GOLDEN」より "Yes or No" を意訳・考察していきます。


この "Yes or No" には、2019年4月発表のミニアルバム第6集「MAP OF THE SOUL : PERSONA」収録曲 "Make It Right" 、2021年7月にリリースされた "Permission to Dance" 以来の関わりとなるEd Sheeranが制作に参加しており、エドの楽曲に備わる独特な '情緒' をこの楽曲にも感じることができるかと思います。

想いを通わせたいと思う相手に対する自分の願望と、双方を取り巻く現実との間にギャップを感じている主人公が、その曖昧な関係性について白黒はっきりさせようとする。そんな "Yes or No" の歌詞にはおそらく多くの人が共感することができるのではないでしょうか。

好意を持っているのは自分の方だけなのだろうか。
これ以上親密な関係を求めても許されるのだろうか。
人間関係をより深めるために感じるそういった葛藤は、何も恋愛に限ったことではないとも言えます。

誰かと深く関わりたいという気持ちは時に、自分に自信が持てなくなる瞬間を引き寄せることもある。
私はそんなジレンマを、ジョングク自身が抱えているであろう表現者としての葛藤と重ねながら読み解いてみようと思います。




1.ラブソングではない

歌詞全体を包んでいる感情は「僕」から「君」への愛であることは確かなのですが、冒頭で示されている「ラブソングではない」という前置きを読み飛ばしてはならないと思います。

This ain't another love song baby ※1
(これはラブソングというものではないんだよ)
It's my way of putting feelers out ※2
(それが僕の探りの入れ方)
All the traffic in my head's going crazy
(僕の頭の中で全ての往来が狂っている)
I'm gonna trust my heart right now
(僕は今正に自分の心を信じるつもりだ)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221239

※1
・ain't=is not
・another…そういうもの(参考
※2
・way of ~ing…~するやり方(参考
・put feelers out…探りを入れる(参考

この歌が「自分なりの探りの入れ方」であるとして、或る「混乱」の中においても自分の心に従おうとする姿が前提としてここに表現されています。

「混乱」を表すために「traffic(=交通・往来)]
が「crazy(=狂う)」という言葉が用いられていることに目を向けると、「見ている方向が違う複数のものが時にぶつかり合って=思想の異なる意見が時に対立して」混沌としている中でも、最も大切な自分の心のままに進もうとするその姿勢を感じ取ることができると思います。

自分を愛して欲しいという気持ちが深まれば、相手に受け入れてもらえるだろうか、という不安も生まれるもの。
世に出した作品に対する個人の感想や意見が賛否両論であろうともそこに込めた自分の心に従い進んでいくことを選び取る強さは、下手をすると否定派から攻撃される恐れもある。
1対1の人間関係に置き換えてもその原理は同じで、相手からの好意を感じているからといってその人に自分の全てを受け入れてもらえる保証はない。
それでも、自分だけは自分を信じていようと思う。

この姿勢を前提とした上で、自分(の表現)と関わろうとしてくれる――自分(の表現)に好意を見せてくれる相手に対しその気持ちに揺らぎがないか「探りをいれる方法」のひとつとして、この歌が存在していると考えることもできると思います。


And if it's better to bet on us
(そしてもし 僕たちに賭ける方が良いのなら)
then I'll double down [on] ※3
(僕は倍賭けしよう)
And if we end up in bed ※4
(そしてもし 僕らが最終的にベッドに行き着いて)
and I put the covers out ※5
(そして 僕がカバーを外に出したなら)
And if I'm wrong
(そして 僕が間違えているなら)
I'll just bury my head deep underground ※6
(僕はただ完全に目を背けるだろう)
I gotta know ※7
(僕は理解しなければならない)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221239

※3 double down on…~に倍賭けする(参考
※4 end up in…最後に行き着く(参考

※5 put out…外に出す(参考
★ネット上の翻訳記事を拝見していると、この語句の翻訳結果にバラつきがあるようでした。「the covers」がシーツやカバーをまとめた「寝具」を指し「put」に置くという意味があるので、「布団を出す」「寝具を整える」のような解釈が見受けられますが「put A out」で「Aをある場所から外に移動させて置く」の意味になります。
ここでは「ベッドの領域の外に寝具を移動させる」との解釈(尚且つここではただ寝具を外して準備するというよりは、後に出てくる「the rush(感情の昂り、性急さ)」を考慮すると「手あたり次第雑に領域の外に放る」イメージ)が当てはまるのではと思います。

※6 bury one's head in the sand…現実から目を背ける(参考
※7 gotta=have got to(~しなくてはならない)(参考

関係性をはっきりさせようと探りを入れる過程で、必ず良い方に転ぶと信じて思い切った行動に出てみる、という選択肢もあるでしょう。ここでは、その行動によって行き着いた先をベッドになぞらえています。

相手に自分への好意があるのなら、野暮なことを言わずとも最後までいってしまって構わないはず。この期に及んでもし自分が相手の気持ちを量り違えていたとしたらーー相手が「No」を選ぶのならーーそれが目を逸らしたくなるような現実であっても知らなければならないだろう、と。


Are you feeling the rush?
(君は僕のこの感情の昂りを感じているの?)
If so, then I think I know what's going on ※8
(もしそうなら、どういうことかわかると思う)
And are we falling in love?

(僕らは恋に落ちているの?)
Say yes or no, yes or no, yes or no
(’はい’か’いいえ’か言ってくれ)

Are you thinking ‘bout us?

(君は僕らのことを考えているの?)
If so, then I think I know what's going on

(もしそうなら、どういうことかわかると思う)
And are we falling in love?

(僕らは恋に落ちているの?)
Say yes or no, yes or no, yes or no
(’はい’か’いいえ’か言ってくれ)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221239

※8 know what is going on…起こっていることを理解している(参考

自分は君を愛したくて、君に愛されたくて仕方がないけれど、君はそんな僕の逸る気持ちを理解してくれているのだろうか?
もしわかってくれているなら、皆まで言う必要はないよね?
僕たちは本当に互いに想い合えていると思う?
はっきり答えて欲しい。

…切実です。


2.答えを知らなくてはならない

自分たちは本当に互いに同じ想いを持てているの?という問いに対して、'はい' か 'いいえ' かで答えさせる。
蜜月を迎えた関係においてその行動がいかに無粋であるかは想像に難くありませんが、それでも敢えて答えを訊ねなければならない理由がこの後ではっきりしていきます。

Everybody in this club so faded ※9
(このクラブにいる者はみんなかなりハイになっている)
I'm trippin over getting lost on you ※10
(僕は君に為す術がなく道に迷っている)
If we forever started out as strangers ※11
(もし僕らが永遠に見知らぬ人として始まったなら)
I think my ever after just came true ※12
(僕はその後ずっとただうまくいったと思う)
If you could see what I see
(僕が見るものを君が見てくれるなら)
then let's see what it's about
(それについて見てみよう)
We will go higher and higher
(僕らは更に高みへと進むだろう)
but we're not looking down
(でも僕らは下を見下ろしていない)
If it's a dream there's no telling ※13
(もしそれが夢ならば断言できない)
when I'll be coming ‘round ※14
(いつ僕がまた元に戻っているのか)
And I gotta know
(したがって僕は知らなくてはならない)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221239

※9 faded…ハイになっている(参考
※10 
・trip over…つまずいて転ぶ(参考
・get lost…道に迷う(参考)lost on…~に効き目がなくて(参考
※11 start out as~…~として始まった(参考
※12 ever after…その後ずっと(参考
※13 there is no telling…はっきり言えない(参考
※14
・will be ~ing…未来で進行している行動【未来進行形】(参考
・come around…回ってくる、巡ってくる(参考

クラブでハイになる大勢の人々(=本人たちの意思や意図が及ぶ範囲を超え、良くも悪くもバンタンの活動に熱狂している人々)。
その中のひとりでもある「君」の心に寄り添おうと必死でいるけれど、どうすればそれが叶うのかわからずに進むべき道を見失ってしまっている。

いっそのこと始めから出会うことも無ければ、関わりさえしなければ、相手の気持ちを推し量ることについて悩まずに幸せだったかもしれない。

それでも尚「君」が自分と同じものを見てくれるというなら、何はともあれそれに向かって進んでみよう。
そうすれば自分たちはより一層確かな居場所を手にすることができるだろうけれど、その高みから下を見下すことはしていない。

とはいえ、そんな理想的な状況がもし絵空事で終わるなら、今後自分がいつまた今と同じテンションで前へ、上へと進むことができているかは、はっきりと明言できない。

したがって自分は「僕たちは本当に互いに想い合えていると思う?」という問いに対する「君」の答えを知らなくてはならないのだ。


Something about you ※15
(君について気になることがある)
Do you feel the way I do?
(君は僕と同じように感じる?) ※16
There's magic in the room
(この部屋には魔法がある)
Tell me do you feel it too?
(君もそう感じる?)
Something about you
(君について気になることがある)
Do you feel the way I do?
(君は僕と同じように感じる?)
There's magic in the room
(この部屋には魔法がある)
Tell me what we gonna do?
(僕らは何をするつもりだと思う?)

※引用文につけた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6221239

※15 something…気になる何か(参考
※16 feel the way 人 do…人と同じように感じる(参考

互いに想い合い理解し合っていると肌で感じているに過ぎない時間は、相手との間で起こる全ての状況を自分に都合の良い方へと解釈することもある程度許されている時間でもあります。
ある意味一番幸せな時間であり、「友達以上、恋人未満」なんていう表現がぴったりな夢のような時間です。

ところがひとたび想いを口にし相手の本心を問うた時点で、その魔法の効力は失われてしまう。
相手が自分をどう思っているのか、この想いがひとりよがりなのか、これから何をすることになると「君」が思っているのか…魔法が掛かったその部屋で一緒に過ごしながらひたすら気になっている(=口に出していない)主人公。

今後未来でもこの幸せを続けていくためには自分に対する「君」のはっきりした気持ちを知らなくてはならないとわかってはいるものの、それを聞いた時が幸せな時間の終わりかもしれないと思うと直接聞くことは出来ない。

だからこの歌はラブソングではなく「探り」を入れるやり方として成り立っている歌なのです。


「Something about you~」のBridge部分がメロディー含めて私の超絶大好きな部分なのですが、「魔法が掛かった部屋」というワードにあのロマンチックなムードランプの光を重ねていました🤩
言葉にして聞かなきゃと思いつつもできない、したくない。でも知りたい。そんなもどかしくも熱のこもった切ない想いが溢れる楽曲でした。



今回も最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。