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Agust D "HUH?!" 現実を生きろ ~日本語選びにこだわる和訳歌詞 no.098

お前は俺のことを知ってるつもりだが
(俺の全てを)
どの戯言たわごともお前自身の願望でしかない
お前の 願望通りの人生

HUH?! (feat. j-hope)



何だってんだよ
お前俺のことわかってんの?
何だってんだよ
お前俺のことわかってんの?
何だってんだよ
お前俺のことわかってんの?
クソったれが
お前は俺のことを知ってるつもりだが
(俺の全てを)
どの戯言たわごともお前自身の願望でしかない
お前の 願望通りの人生

俺の全てが、お前の願望通りの人生
これはお前の願望 俺の全てが
これはお前の願望


手ぶらで来て、手ぶらで去る
その言葉は俺に当てはまらない
無駄骨だな
とにかく田舎臭くて、
自称ミュージシャンのガキ共は
クスリを吸うのに忙しい
楽想の源、大邱から築いた成功の業報
たまさかの成功 運が良い 成功
一物でも剥いて召し上がれ
ホワイトハウスに飛ぶだなんて
イカれた奴だと雑魚共が言うのさ
何が重要なのかが分からず劣等感が爆発
毎度 俺が滅びたと心配するお前
お前の人生の方が滅びた事が何故解らぬ
そう ネットの世界と現実はかなり違う
現実を生きろ お前の人生を
皆気をつけろとミンミンわめ
全てにビンタ百発くれてやる
皆身綺麗なフリは疎ましいね
是非自分の糞でもあらためろ
数多の記事と
ゴシップ情報化時代の悪人
現実がドブだと言うなら逃亡せよ
切実にお前だけでも上手くいくよう祈るよ


何だってんだよ
お前俺のことわかってんの?
何だってんだよ
お前俺のことわかってんの?
何だってんだよ
お前俺のことわかってんの?
クソったれが
お前は俺のことを知ってるつもりだが
(俺の全てを)
どの戯言もお前自身の願望でしかない
お前の 願望通りの人生

俺の全てが、お前の願望通りの人生
これはお前の願望 俺の全てが
これはお前の願望


お前がどう思おうと
お前が何をしようとどうでもいい
お前が何を言おうとどうでもいい
お前が何を持とうと
お前が何を知ろうとどうでもいい
お前が何であろうとどうでもいい
俺はお前と関わった全ての部分で、
ただ価値の無い事この上ないので
何か言うべき言葉が必要
俺がやるべきことをしても、
俺が行くべき道を行けども話題になるから、
火事を再起する

俺の計画は直行(燃え上がれ)
路の上で、維持し続ける(燃え上がれ)
俺の足取りは想いが深い(燃え上がれ)
故に俺の復帰は容易い(燃え上がれ)
予め屈辱となる仕組み
加熱された機械ども
俺は逆境は堪え軽蔑は我慢できないから
これは 俺がくれてやるフィードバック


何だってんだよ
お前俺のことわかってんの?
何だってんだよ
お前俺のことわかってんの?
何だってんだよ
お前俺のことわかってんの?
クソったれが
お前は俺のことを知ってるつもりだが
(俺の全てを)
どの戯言もお前自身の願望でしかない
お前の 願望通りの人生

俺の全てが、お前の願望通りの人生
これはお前の願望 俺の全てが
これはお前の願望



韓国語歌詞はこちら↓
https://music.bugs.co.kr/track/6197076
『HUH?! (feat. j-hope)』
作曲・作詞:Agust D , 장이정 , j-hope


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今回は、BTSのSUGAがAgust D名義で発表した三枚目の、また、商業的に発表される初のソロアルバムとなる2023年4月リリース「D-DAY」収録の "HUH?! (feat. j-hope)" を意訳・考察していきます。


1.feat. j-hope

トラックリストが公開された日、その豪華な数々のコラボ曲の存在が明らかになった時のワクワクは忘れられません。中でもj-hopeの参加については、彼が入隊の準備を進めていることが既に公になっていたこともあり感慨もひとしおでした。

前作「D-2」の収録曲 "Strange" でRMのフィーチャリングを叶えていたこともあり、いつかホビとの作業も実現させたいと考えていたとアルバムリリース時の配信で語っています。↓

(28:45~HUH?!の話題)

この配信内でユンギは、「どう考えてもホビ程信用して上手くできるような人が思いつかなかった」と全幅の信頼をホビに寄せており、「こういうビートに凄く余裕を持って(間を)空けながら訥々と吐き捨てるのが本当にホビは上手だからお願いした」と振り返っています。

また、"HUH?!" は "해금(Haegeum)" と同じくドリルミュージックのひとつだとのことで、ラップを乗せるのが非常に難しく苦戦していたホビを応援しながら作業したとのこと。そんな中ホビが書いた歌詞はユンギの意図を十分に汲む希望通りの仕上がりで一発OKだったといいます。十数年の付き合いは伊達じゃないことが良くわかります。


2.は⁈↗

楽曲タイトルになっている「Huh」はイラっとした時の日本語「は?↗」とほぼ同義の意を含むとのこと。不意に出る声に言語の壁がないというのが興味深いです。↓

いくつかある「Huh」が持つニュアンスの中でも、今回楽曲に当てはまるのはその苛立ちを表すものであることは一聴して声色からもわかりますが、前出の配信では「誰かに怒っている訳ではない」のだと語っています。ユンギ的には今までと比べ歌詞を「少しマイルドに書いた」とも言っています。

「俺のことわかったような口をきくな」という旨の憤りをのっけからぶちかます歌詞は、そう言われてみると怒り爆発というよりは呆れの方が勝っているようにも聞こえてきます。

What the shit, do you know about me?
(何だってんだよ、お前は俺について知っているのか?)

中略

Your wannabe life, 'bout me, all me ※1
(お前がなりたがっている人生 俺について 俺の全て)
This is your wannabe life, 'bout me, all me
(これはお前がなりたがっている人生)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6197076

※1 wannabe…(有名人などに)なりたがっている(参考

本人とは関係の無い所である事ない事を垂れ流す者たちに対して「お前は俺の何を知っている?」と問い質し、難癖をつけて引きずりおろそうとしてくる者には「正直になれ、俺の人生が羨ましいんだろ?」と諭す。
アンチの行動原理が主に〈嫉妬〉であるのだと見切っている彼は、このように圧倒的な余裕で相手の痛い所をついていきます。

공수래공수거 그 말은 내게 해당 안 돼 헛수고 ※2
(空の手で来て空の手で去る その言葉は俺に該当しない 無駄骨だ)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6197076

※2
・공수래공수거(空手來空手去)…人は手ぶらで来て手ぶらで去るものなのだから、富に欲を出す必要がない(参考
・헛수고…無駄骨(参考

「What you know about me?」という歌詞に "HUH?!" との共通項が確認できる「Agust D」収録の "give it to me" は、「カネだろうと名誉だろうと何でもいいから持ってこい」と言い放つ楽曲です。
この彼の内にある貪欲な部分が「欲を出す必要が無い」という意味を持つ「공수래공수거」に当てはまらない、という流れであると推測できます。

著名人があからさまに欲を出すとそれに対するアンチ意見が湧いて出る傾向があるかと思いますが、それらの「嫉妬」に対して穏便であいまいな姿勢を取るくらいならすっぱり「カネも名誉も欲しい」と言って退けてやる、下げ目的で難癖をつけてくる奴らよご苦労さん、とあしらう余裕を感じます。


■ホワイトハウス訪問とは何だったのか

어쩌다 성공 운 좋아 성공 *이나 까 잡숴 ※3
(偶さかの成功 運が良い 成功 ◆でも剥いて召し上がれ)
백악관으로 do fly 빙* 새끼들이 말야 ※4
(ホワイトハウスに飛ぶ イカれた奴だとガキ共が言うんだよ)
뭐가 중한지를 몰라 열등감들이 폭발
(何が重要かがわからず劣等感が爆発)
매번 망했다고 날 걱정하는 니 인생이 망한 걸
(毎回滅びたと俺を心配するお前の人生が滅びたことを)
왜 몰라
(なぜわからない)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6197076

※3
・어쩌다…偶さか(参考
・까다…皮をむく(参考
・잡수다…먹다の敬称、召し上がる(参考
※◆には男性器を意味する文字が入る

※4
・do+動詞の原形=動詞を強調する「do」(参考
・빙*…元は身体の一部が不自由な人を指す言葉が転じた悪口の方言(参考1)(参考2
・~(이/가) 말야=~(이/가) 말이야…~が言うんだよ(参考

ここでは2022年5月にバンタンがホワイトハウスを表敬訪問した件が言及されています。

この「異例」尽くしの対面に対する批判的意見に対してユンギは「何が重要かがわからずに劣等感を爆発」させているのだと冷静に分析しています。

そもそも、何故彼らはホワイトハウスに行ったのか?
私自身恥ずかしながら、アジア系民族に対する偏見・差別に対抗する意志を表明するため、という薄い認識しかなかったので、あらためてあの時何が起こっていたのかを残っている記事で振り返ってみました。

彼らが米大統領と会談した5月31日は、アメリカで毎年5月に実施されている「AAPI文化遺産継承月間」の最終日でした。
AAPIAsian American and Pacific Islander(アジア系アメリカ人および太平洋諸島民)
この月間活動は1979年から形を変えながらもこれまで続いている、AAPIコミュニティの多様性とその文化・歴史を祝福、継承していく主旨の活動で、ジョン万次郎がアメリカに到着した日、中国系労働者が多く携わった大陸横断鉄道の完成日が含まれているとして5月が選ばれたとのこと。

ARMY目線で考えると、迫る入隊期限を控えている中で7人揃っての貴重な活動としてはいささか唐突で斜め上の出来事であったことは確かです。ARMYですら驚いたのですから、何も知らない・知ろうとしない人たちが吐く「自らの身の程を知れ」と言わんばかりの批判も致し方なかったのかもしれません。

ただ、この40年以上続いているAAPI文化遺産継承ヘリテージ活動をいかに意義ある形で、効率よく、現代社会に生きる者たちに知らしめるか、という命題の答えが「アジア系アーティストの現在進行形最高峰且つ、ワールドワイドスターのホワイトハウス訪問」だったと考えると、事実上他の選択肢は皆無だったのでしょう。

敬う心があれば差別もなくなる。互いが互いを理解し、尊重し合える関係を築く。
大統領との対談直前に行われた記者会見で、ユンギは「人と違うことは悪いことではない」と語っています
何が重要かがわかっているからこそ、彼らは矢面に立ってでも正しいと思うことに取り組むことができるのだと実感します。


■お前なんかどうでもいい

ここからは、ユンギが1発OKを出したホビのラップパートをかいつまんで見てみます。

난 너에 대한 모든 부분에, huh ※5
(俺はお前に接した全ての部分で)
그저 가치 없기 그지없기에, huh ※6
(ただ価値のない事この上ないので)
무슨 할 말이 필요해, huh huh ※7
(何か言うべきことが必要だ)
내 할 일을 해도, 내 갈 길을 가도
(俺のやるべきことをしても、俺の行くべき道を行っても)
화제가 되기에, 화재를 재기해 ※8
(話題になるので、火事を再起する)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6197076

※5 대하다…向かい合う、接する(参考)過去連体形 대한 で「接した」(参考
※6
・그지없다…この上ない(参考
・~기에…~ので(参考
※7 하다…言う、する 未来連体形 할 で「言う/するべき・つもり・はず」(参考

※8 화제ファジェ(話題)と화재ファジェ(火事)が同音異字句となっている。

この火事のくだりではホビの楽曲 "방화(Arson)" を思い起こさずにはいられません。

確固たる信念をもって行動してきたと自負していても、自分との接点の中で何の価値も感じられなかった人は必ずいる。
それらの者たちに言わねばならない事。
それは、何をどうしようがどうせ全てがアンチの話題の「火種」になってしまうのなら、自分は敢えてこの情熱を消すことはないし、なんなら再燃しまくるぞ、と。

내 플랜은 직행 (burn up) 
(俺のプランは直行(燃え上がれ))
On the street, keep that (burn up) ※9
(路の上で、それを維持して(燃え上がれ))
내 step은 깊게 (burn up) ※10
(俺のステップは深く(燃え上がれ))
So 내 복귀는 쉽게 (burn up)
(だから俺の復帰は容易い(燃え上がれ))
이제 모욕이 될 시스템, huh
(既に屈辱になるシステム)
과열이 된 기계들, huh
(加熱された機械たち)
난 역경은 참고 경멸은 못 참기에
(俺は逆境は堪えて軽蔑は我慢できないから)
이건 내가 주는 feedback, huh
(これは俺がくれてやるフィードバック)

※引用文に付けた和訳は直訳
https://music.bugs.co.kr/track/6197076

※9 "on the street" はホビが入隊前最後ににリリースしたソロ楽曲のタイトルと一致。
※10 깊다…深い、厚い(参考

自らの原点である「路の上」を舞台に、我が道を直行するプランを実行し続ける。積み重ねた努力の厚みの分だけ想いの深さを体現するステップは、いつ何どきリスタートすることになろうと準備は常にできている。

「予め屈辱となるシステム」および「加熱された機械たち」には、「どんな発言も行動も侮辱に変換することだけを機械的に行う準備が常にできているアンチたち」という意味がこめられているのではと思います。

外野がどれだけ騒がしくてもどうでもいいと受け流す、「何を言われても動じない」余裕たっぷりの「Huh」。ミンPDのお眼鏡に適ったその悠然とした態度が、この「Huh」の声色に込められています。



本来個人の数メートル先に届けるのが限度だったはずの「生の声」が容易に海さえも越えるようになり、時を経て面と向かっては言えないような「心の声」までもが簡単に相手に届いてしまう世の中になりました。

手中にある小さな画面の中の世界は、どんなにリアルな映像でも、どんなに克明な報道記事でも、そこに必ず他人の視点が介入します。ネット上の世界と現実世界は、似て非なるもの。

他人の視点で切り取られた世界が、他人の意思で編集され、他人の思惑で公開されていることを理解しつつ、自分の視点、自分の意思を失わずにいることは実はかなり難しいことだと思います。

また、他人の人生を気軽にのぞくことが出来るようになり、見なくても良いものを見てしまうことで、抱えなくても良い妬み嫉みを抱えてしまった経験のある方も少なくは無いでしょう。

現実世界の中で何が重要なことなのかを理解することは、同時に、自分自身についての理解をより深めることだと思います。
「現実を生きろ お前の人生を」
このメッセージをどう捉えるか、それを考え始めることが、それぞれがより豊かな人生を手に入れるための第一歩になるのかもしれません。



今回も最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。
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