骨折と固定具

 腕を骨折しました、とPさん(仮)が来られました。レントゲン写真のスマホ写真を見せてもらった限りではかなりひどい折れ方で、当然のように手術で釘を入れて、固定。固定具の抜去は1年後の予定。そしてこのたびは、固定手術の抜糸は済んだけれど肩が動かしづらい、とのことで来院されました。
 骨折? 病院の処置は済んだ? よっしゃー、じゃあおばちゃんに任しときー!と、言いたいところですが、Pさんの場合はなかなかに難しい。問題は、固定具の存在です。

 すっぱり簡単な折れ方でない以上、手術で固定具を入れるのは必然なんだろうな、と、素人ながらに思います。思いはするけど、内固定(⇔外固定=ギプスとか添え木)が厄介なのは、骨に穴をあけてボルトで固定すること、いずれ再手術してそれらを取らなきゃならないこと(残す場合もありますが、それはそれで問題が残る、と私は思っています)、そして生活面では、〈治った気になる〉のが早いこと、を、私は心配します。

 骨折直後・手術直後・抜糸直後のPさんの状態を考えると、肩が動かしづらいのも、患部が脹れて痛いのも、当たり前と言えば当たり前です。なんせそこそこの太さの骨がぼっきり折れてるわけですから、身体の中はてんやわんやの修理作業で大騒動です。でもそのことを差し置いて〈日常生活の不便〉を感じてしまうのは、ギプスでがっちり固定されていないからなのだろうな……と想像します。
 ギプスで固定されていたなら、もっとわかりやすく面倒な不便のあれこれがアカラサマにある代わりに、〈身体の中では大変なことが起こっている〉と自覚・配慮することはより簡単、というか、せざるを得なくなります。結果的に、自分の身体をいたわる期間が確保できそう。

 傷のまだ新しいPさんに対して〈身体修整法しんたいしゅうせいほう〉でできる作業はそれほど多くなくて、ともかく身体がしている〈本来の修理作業〉を邪魔しないように、周辺の不要になった凝りを弛めるとかそんな施術をしました。
 そうしながら、くれぐれも訴えたのが、〈金属で無理やり固定しているだけのことで、中ではまだ骨は折れている〉こと、〈のびのび・軽々動かそうと思うのはその意味で実に危険〉なこと、を言いました。
 手術で骨をつなぐのも傷口を糸で縫うのも、その処置自体が、断絶した部分を貼り合わせ・治しているわけではありません。固定・縫合は、身体の組織が自力でその隙間を貼り合わせ・治しやすいように、〈あっちとこっちをほど良い距離で固定しておく〉ための処置です。
 なので、手術が済んで・抜糸が済んでも、まずしばらくは、安静を。

 そしてリハビリについても相談されましたが、こちらはまあほどほどに、というのが私の立場です。仕事柄、なかなか理解不能なリハビリ・プログラムの話は聞きますし、それを真面目にこなしてただただ疲れた・自覚的には余計に悪くなった、という話も聞きます。医師か理学療法士かわかりませんが、担当者の腕前によって効果はかなり変わりそうです。まあ、何の仕事でもそうでしょうが。
 そしてそもそも私は、整体がうまくいっていれば殊更リハビリをしなくても、日常生活の中で十分回復するのだな、という経験をこれまでにしていますので、Pさんには、まあ、もうちょっと状態が落ち着いた頃にもう一度、そして固定具を抜去して傷痕が落ち着いたそのときには必ずも一度整体に来てください、その間の期間については、〈来たくなったそのときに〉程度で十分です、と伝えてお別れしました。
 ともかく、まだ折れてるし・金属入ってるし・ボルトの出っ張りもあるからね、それは忘れないでね!と、念を押しつつ。

 結局のところ、「頭痛薬飲んだから平気です!」と言われたときと同じで、治ってないのに治った気になって、元気ふうに・無造作に動かれるのが、もしかすると私はいちばん怖いのかもしれません。Pさんにも、〈骨折中、注意!〉の注意喚起のためだけに、看板代わりのギプスをぐるぐる付けたいくらいです……。

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