『薔薇の名前』ともう一冊【ネタバレ注意!】

 本記事はストーリーのネタバレはしていませんが、推理小説でもある『薔薇の名前』と、〈ある推理小説〉との関連を話題にしています。
 すべての本は一切の先入観なく・まっさらな気持ちで読みたい! とくに推理小説に関しては、〈密室物の傑作!〉〈安楽椅子で解決!〉は良いけど、〈どんでん返しの傑作!〉〈最後の20行が衝撃!〉とか言うのはルール違反!とお考えのかたは、お読みにならないでください。




 さて。
 大学時代に図書館で映画『薔薇の名前』をレーザーディスク(懐かしい…)で見ました。ほこりっぽい中世の教会が舞台で、静かで厳かな雰囲気(BGMを使ってなかったんだったかも?)、淡い光と濃い闇が印象的な画面の、かなり入り組んだミステリーです。私的には、時代とか土着感の見心地が古谷一行主演の金田一耕助シリーズのヨーロッパ版ぽくて、主演のショーン・コネリーがやたらに渋くてかっこいい。その弟子役のクリスチャン・スレーターが若い! 当時見ても若かった!
 で、おもしろかったのでそのまま原作を読みました。ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』上下巻。分厚くて・蘊蓄いっぱいで・やたらに理屈っぽいけれど、映画でストーリーは把握しているので、ぐいぐい読めました。

 その後、なんの巡り合わせだったか、二階堂黎人『聖アウスラ修道院の惨劇』を読み始めました。
 舞台は現代・日本の修道院。閉鎖的な空間で連続殺人事件が起こるわけですが、これが『薔薇の名前』とまったく一緒! 殺され方も、事件の展開も何もかも!

 『薔薇の名前』を読んでわりと間もなくのことでしたし、しかも私は『薔薇』を気に入ってましたから、読んでる最中は腹が立って腹が立って仕方なかった。どこかに、「本作は『薔薇の名前』に取材してます」的な断り書きがないもんかしら、と、カリカリしながら調べるけれど見つからない。それでも投げ出さずに読み続けた理由が何だったのかはわかりませんが、最後の最後、肝心の動機が明かされた瞬間に、衝撃を受けました。これは……、これはすごいっ!

 ああ、これを書きたかったがばかりに、二階堂さんはこの分厚い本を書いたのだ(『薔薇』ほどじゃないけど『アウスラ』も結構分厚い)。途中、『薔薇』の既読者からボロクソ言われるかもしれんことを覚悟の上で……と考えるとやたらしみじみしてきて、ボロクソ言ってごめん!の反省と、いや納得したわ!の脱帽にぐるぐるしながらため息をついたことを憶えています。


 で、何が言いたいかというと、手塚治虫『ブラック・ジャック』の実写化でドクター・キリコを女性が演じる、と聞いて、ふとむかし読んだこれらの本のことを思い出したのでした。
 私的には、「いや~……ここまでの衝撃を与えてくれるなら、原作改変(? 本歌取り?)にも意味があるわ」と唸った、数少ない、痛烈な経験なのでした。ご興味のかたは、ぜひ。


 映画『薔薇の名前』 ジャン=ジャック・アノー監督
 ショーン・コネリー主演 1986年製作(1987年日本初公開)

 『薔薇の名前』上下巻 ウンベルト・エーコ著 河島英昭訳
 東京創元社 1990年

 『聖アウスラ修道院の惨劇』 二階堂黎人著
 講談社文庫 1996年


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