『眠れない一族』を読んでタンパク質を思う

 『眠れない一族』(ダニエル・T.マックス)は、ずいぶん以前から私の〈読みたい本リスト〉に載せていた本ですが、どんな内容の本なのか・なぜ読みたいと思ったのかをすっかり忘れてました……。副題を見ると「食人の痕跡と殺人タンパクの謎」。うーん、これはもしかして、西欧中世の貴族な名士が夜な夜な教会裏の墓地を暴いてがつがつと……みたいなホラー小説か?と想像しましたが、ページをめくると冒頭に書評があって、「なんとも魅惑的な推理小説」とある。推理小説なら読んでみるか、と思って読み始めたら、狂牛病で有名なプリオン病を扱った医学・化学系のルポでした(…)。うーむ。
 結果的には読んで大正解の、実に興味深く勉強になる本だったのですが、書名と副題のばらばら加減が……でも読み終わってみたら確かにその通りの内容なので、微妙にケチはつけにくい。敢えて言えば、落語の三題噺のような作りなのに、三つのお題を書名と副題に分割したことが問題、なのかしらん。『眠れない一族と食人の痕跡と殺人タンパクの謎』みたいにしてくれたほうがまだ私的には腑に落ちるような。ちなみに英語の原題は書名が『眠れない一族』で副題(?)は「医学ミステリー」。日本語の少々大仰な副題は日本で付けたようです。

 推理小説、というほど謎解きが主眼にあるとは思いませんでしたが、今回私が書きたいのは本書の詳細ではないですので、内容紹介的なことは省きます。
 要は、本書で取り上げられるのは、のちにプリオン病と括られることになる一連の病気、です。

 プリオン病は、ウイルスや細菌が原因で起こるのではなく、異常な形に折り畳まれたタンパク質が原因で起こる、らしい。
 哺乳類みんなが持ってるプリオンタンパク質は、正常な状態のときに何をしているのかはわかっていない。でもみんなが持っているのだから何かしらの働きはあるのだろう、と考えられている。ところがこのタンパク質には〈異常な形〉バージョンがあって、こうなると途端に有害になり、正常な形のプリオンタンパク質をどんどん異常化し、最終的には脳にひどい損傷をもたらし、やがて過酷な死に至らせる……実に恐ろしい病気になります。

 本書を読む前に私が読んだのが『アルツハイマー病研究、失敗の構造』(カール・ヘラップ)。本書の次にいま読みかけているのが『人体はこうしてつくられる』(ジェイミー・A.デイヴィス)。
 プリオン病の原因とされるのはタンパク質で、アルツハイマー病に係わるアミロイドもタンパク質絡み、『人体は~』はまだ読み始めたところですが、のっけから、タンパク質がどんな具合に折り畳まれるかは複雑すぎて数学的に予測できない、みたいなことが書かれている(21ページ)。なんか偶然でしょうけど、やたらにタンパク質づいている私の読書生活。
 そしてもう一つ恐ろしいのがmRNAワクチン。これは、人為的に、細胞にタンパク質を作らせるワクチンなんですよね……。

 ネットで調べたところでは、海外ではmRNAワクチンとプリオン病を結びつける噂もあるそうで、その真偽のほどはわかりませんけど、確かにちょっと結び付けちゃうよな、少なくとも、ちょっと頭をよぎりはするよな、と怖くなる。
 ちょっと前まで、ヒトゲノム計画とかDNA鑑定とか言って最先端は遺伝子! DNA!みたいな空気があるように思っていたけれど、いまのホットなブームはタンパク質なんでしょうか。
 もうなんか、あんまり複雑なことはしてくれなくて良いんだけどな……思いつつも、気が向くとそれらしい本を読んでみたりはする自分がいて、何というか……知りたいんだか、知りたくないんだか。……はあ。



 『眠れない一族 食人の痕跡と殺人タンパクの謎』
 ダニエル・T.マックス著 柴田裕之訳
 紀伊國屋書店 2007年

 『アルツハイマー病研究、失敗の構造』
 カール・ヘラップ著 梶山あゆみ訳
 みすず書房 2023年

 『人体はこうしてつくられる ひとつの細胞から始まったわたしたち』
 ジェイミー・A.デイヴィス著 橘明美訳
 紀伊國屋書店 2018年

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