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ワイン用ブドウ苗木の植え付け@東京ワイナリーを体験して思ったこと

こんにちは。東京ワインショップガイド編集長です。
ワイナリーでは、新しく拓いた畑があれば春にブドウ苗木の植え付けをします。畑を広げるにしろ、新たな品種を植えるにしろ、ワイナリーにとって次なるステップ。ワイナリーのSNSで「苗木の植え付けをしました」という投稿を読むと、新しい挑戦に胸ふくらむ様子が伝わってきます。
同時に、どんなふうにやるのか興味を持っていたところへ、東京ワイナリーでお手伝いの募集がありました。今回は、実際に体験してきた苗木の植え付けを振り返りたいと思います。

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都市型ワイナリー「東京ワイナリー」とは?

植え付けに訪れたのは、東京・練馬にある「東京ワイナリー」の自園です。
東京ワイナリーは、2014年に設立された都市型ワイナリー。東京産の高尾という品種を中心に他地域のブドウも買ってワインが醸造されています。昨年から練馬で自園の栽培も始められ、今回は新しい品種を植えるというので、お手伝いの募集がありました。
東京ワイナリーを運営するのは、醸造家の越後屋美和さん。小さなワイナリーなので、栽培や醸造のお手伝いが必要なときには、こうして募集の声がかかります。
当日、待ち合わせの駐車場に行ってみると、たくさんの人。なんと28人もの人が集まっていました。これには越後屋さんもうれしいびっくり。なかには20〜30代のママ・パパと小さなお子さん家族もちらほら。東京で暮らしていると、なかなか土いじりをする機会がないので、ワイン好きな大人も、畑仕事が珍しい子どもも、どこかワクワクした気持ちで集まっていました。
一行は、越後屋さんを先頭に、歩いて畑まで移動。到着した東京ワイナリーの自園は、住宅街のなかにある10aくらいの小さな畑でした。すでにシャルドネなどが植えられていますが、今回はアルバリーニョという白ブドウを100本植えるのがお手伝いのミッションです。
アルバリーニョは、リアス式海岸で知られるスペイン・ガリシア地方の白ワインが最も有名です。日本でも新潟・角田浜のワインコーストで植えられているように、雨の多い海岸沿いのエリアに植えらる品種。練馬は海岸沿いではありませんが、雨が多くても病気になりにくいところに可能性を感じて植えてみるとのこと。東京はワイン用ブドウの実績がないので、何でもやってみるということなのでしょう。

植え付けを前に越後屋さんがレクチャー


苗木の植え付け体験に先立って、越後屋さんから苗木の植え方からレクチャーがありました。こちらが、ワイン用ブドウの苗木です。枝から長い根っこが伸びています。苗木は、植え付ける前に、こうして水にさらして吸水させるそうです。

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ブドウは、ほかの果樹と同じように種から育てても親と同じ遺伝子を持つことはほとんどありません。違う品種になってしまうようなことがあるんですね。そのため、挿し木や取り木、株分けの方法をとります。大きな農園では自分たちで苗木を育てることもありますが、苗木屋から買うのが一般的です。東京ワイナリーでも苗木屋から買ったものが使用されていました。こうした苗木になるのには、2年くらいかかるそうです。

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ちなみに苗木は、このように途中で接ぎ木されています。アルバリーニョなどヨーロッパ系のブドウ品種は、フィロキセラというアブラムシへの抵抗力がないため、抵抗力のあるアメリカ系品種が台木として使用されているのです。

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苗木の根は、20〜30cmを残してカットしてから植え付けます。顔が全く見えませんが、左が越後屋さんです。

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穴の掘り方、根の添わせ方、土の掛け方などひと通り、越後屋さんが見本を見せてくれます。芽の部分をさわらないようになど、扱い方の注意点も。間違えないよう、皆、熱心に聞いていました。

いよいよ植え付け、スタート

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いよいよ植え付け。今回は、100本の苗木を2列に分けて50本ずつ植え付けます。写真は、植え付ける位置を均等にするため、列にメジャーを沿わせているところです。

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約30人で100本なので1人3本は植えられる計算です。ここで活躍するのが、割り箸。一人ひとりがメジャーの1メートル、2メートルという目盛りを目印に、1メートル間隔で割り箸を挿していき、ブドウを植え付ける目安にするのです。これで、メジャーを撤去しても正確に1メートル間隔でブドウの苗木が植え付けられます。考えられた作戦ですね。

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ここからは、レクチャー通りに一人ひとりがどんどん作業を進めます。まずは、割り箸を挿した場所を中心にスコップで穴掘り。

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掘った穴の中心に根の長さだけ盛り土をして、その周囲に根を沿わせていきます。こうすることで、根が横ではなく、下に向かって伸びるようになるんです。苗木は向きを合わせることも大事で、列に沿って芽が出るように揃えます。

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土をかぶせたら、水をたっぷりやります。ブドウは乾燥気味の気候の方がいい植物ですが、根付くまでは水をたっぷりやらないといけないそうです。

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さらに残った土もかぶせます。これでもう一度水をやれば植え付け完了です。

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途中経過。実は、タンクに貯めた水がなくなったので、再度水を汲みに行っている最中です。農地だと近くに用水路があるのが普通なので、都会の畑はちょっと大変ですね。

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水が到着した後は、水と土をかけます。その後は、2、3芽くらい残して剪定します。剪定して切り落とした枝は、土や水に挿し木すれば芽を出してくれ、うまくすれば発根して成長させることがでます。私も挿し木用の枝を4本もらって帰りました。挿し木の成長報告は、また改めて書きたいと思います。そして、100本の苗木の植え付けが完了ー! さすがの人海戦術で、1時間ちょっとで終わったと思います。

植え付け後に起きた残念なできごと

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終わったあとは、東京ワイナリーのシードルが振舞われました。子どもたちはジュースです。ワイナリーのお手伝いをすると、そのワイナリーのワインやシードル、ジュースをいただけることが多いですが、これって粋だと思いませんか? 手伝った労をそこでできたものでねぎらってもらい、そこから自然に「今年の出来はどう?」なんて、会話が生まれる感覚がいいなと思うのです。当然ながら、ひと仕事を終えた後のシードルは格別においしかったです。

今回、初めてブドウ苗木の植え付けを体験させてもらって、ワインの始まりを身をもって知ることができました。苗木や接ぎ木を目で見るのは初めて。こんなに細い枝が、樹齢を重ねて太い幹になっていくなんて、想像するだけで歳月や手がかかるというのがわかります。
こういう体験を同じ東京に暮らす私たちに経験させてくれた越後屋さんに、感謝。きっと越後屋さんがお手伝いの機会をくれたのは、自分たちが生活する街でいきいきと育つブドウのことを知ってもらいたかったのかなと思っています。ありがとうございます。

その後の成長は、東京ワイナリーのFacebookで報告されていたので、チェックしていました。途中、発芽率が悪いといった投稿もありましたが、なんとなく順調にいっているのかなと思っていました。

ところが、とても残念なことが起きたそうです。あろうことかブドウ畑が荒らされてしまったそう。被害としては、ブドウの支柱が抜かれていたり、枝が折られていたり・・・。越後屋さんは、「そばで成長を楽しんでもらえたら」という思いから畑に柵を立てていなかったそうで、せっかくの思いが踏みにじられた格好です。
ワイナリーにとって自社で育てるブドウにはひとしおの思いがあります。東京ワイナリーは、6年目にして自園を拓かれました。自分で育てたブドウでワインを造りたいというのは醸造家にとって自然な思いです。時間がかかったのは、東京で畑を拓くのに条件があったのかもしれません。そして、ブドウの苗木は注文して届くまでに2、3年かかるもの。単に苗木を植えるといっても、家庭菜園でタネを蒔くのとは違う物語があるわけです。

もちろんブドウが成長して実をつけるまでも時間がかかります。ポキッと折るのは一瞬ですが、そこまでかかった時間とまた育てる時間を考えると、どれくらい罪深いことをしたのか。ほんのいたずらでは済まないことを考えてほしいものです。少し手伝っただけですが、苗木を植えたものとしては、それくらい腹立たしく思いました。
さて今回は、苗木の植え付けについてレポートしました。挿し木の成長については、また報告します。

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