いまはまだ無理だけど
私は昔からよく転ぶ子供だった。
階段、坂道、小石、溝、なんにもないところでもずっこけたり、両膝・両肘・あごを擦りむいて痛々しい傷を作ることは日常茶飯事だった。
だったというか、いまもまだそう。
その日は寝不足だった。
朝、電車に乗り込んだら運よく座れたので、会社の最寄り駅に着くまで眠ることにした。
はっと顔を上げると、扉上のモニターに最寄りの駅名が表示されている。
もう着いちゃったのか、と立ち上がって、扉の前で待機する。
駅に到着して、扉が開き、ホームに降り立つと、熱風が私の身体を吹き付けて、車内との温度差にげんなりした。
さっきまで寝ていたからか、夢を見ているみたいに重力を失っていて、足取りがふわふわとしていた。
下りの階段に差し掛った。
登ってくる人の波と、下りの人の波が出来ていて、私はその境界を歩いた。
登ってくる人と肩がぶつかりそうになって少し避けたが、タイミングが合わなかったのか、肩が軽く擦れて、その勢いで尻餅をついてしまった。
びっくりして尻餅をついたまま呆然としていると、私よりも10段ほど下にいたお兄さんがなぜか振り返って駆け寄ってきて、「大丈夫ですか」と起こしてくれた。
お兄さんにお辞儀してお礼を言うと、それはもう足取り軽く爽やかに去っていった。
そんな感じで、人前ですっころんだのは今月で3回目になるのだけど、毎回声をかけてくれる人がいる。
月曜日に転んだときは、外国の方が聞いたことのない言語で私の顔を覗き込んできたが、心配そうな表情をしていたので、心配してくれたのだと思う。
その方の母国語がわからなかったので、立ち上がって、笑って、お辞儀して、立ち去った。
人の心配ができる人ってすごいなと、いつも思う。
私はまだそこまで人に気が回らないから。
私の数少ない友人たちも、事あるごとに心配してくれる。
暑いというだけで、「今日暑いけど大丈夫?」って連絡をくれるし、心配をかけるようなことは言ってないのに、「大丈夫?悩みがあるなら言ってごらん」と言ってくれる。
その一言に、気づかいに、私はとても救われているのだ。
まだ自分のことで精一杯すぎて、いまはまだおうむ返しでしか心配できないけど、そのうち自然にできるようになってたらいいのになと思う。