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いつから東京の女になったの

私たちは目的地へ向かうために道を歩いていた。

途中、友人が自販機で飲み物を買いたいと言うので、すぐそばにあった自販機へ近寄った。

友人が小さいオレンジジュースを買ったあと、私も続いて水を買った。

「うわ、ペットボトルの水を買う女だ」と言うから、

「なによ、別に良いじゃないか」と睨んだ。

もしや中学生のとき、私は彼女に、わざわざ自販機で水を買うのは勿体ないとかなんとか言ったのだろうか。

水道の水を飲めば良いのに、とか言ったのかも。
言った気がする。

「東京の女だなぁ。
 …あれ?そういえば、のんは神奈川の女だったね」

「そうだよ。私は神奈川の女だよ。
 私たち、地元一緒じゃん。」

彼女は忘れてしまったのだろうか。

テニスコートの落ち葉を掃除しながら、『好きですかわさき愛の町』を2人で熱唱していたら、他のテニス部員からドン引きされたうえに、先輩にきつく叱られたあの暑い日を。(ちなみに、川崎市では『好きですかわさき愛の町』という曲がゴミ収集車から聞こえてくるので、川崎市民はみなこの曲を口ずさめるのである)

「そうだった、そうだった。
 なんか、東京の女だと思い込んでた。」


というやり取りが、妙に引っかかった。

というのも、先日、東京駅の丸の内口の辺りで待ち合わせをしていて、スマホ片手にふらふら歩いていたら、正面から向かってきた大学生くらいの女の子ふたりと、すれ違いざまに「東京の人っておしゃれだね」と言われたからである。(いや、まあ、私のことだけを指して言ったわけではないのは重々承知している)

私、いつの間に東京の女になったのだろう。
東京に住所を移しても、心は売っていないつもりだったのに。


でも、都会には慣れた。

自分の装いが街で浮いてはいないだろうかと気にすることも無くなったし、人のかわし方も上手くなったし、必要な嘘もつけるようになったし、色んなことを無視できるようになった。

必要がなくなれば切り捨てられるようにもなったし、良い顔できる人の数には限りがあるということも知った。

まだつけなくてはいけない力は他にもたくさんあるし、そうなりたいわけじゃないけれど、必要なのことなのだ。

この街で生きるには。

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