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必要なのは画材ではない

結構前から、いま制作中のものの制作過程をnoteに投稿していきたいなぁと考えていながら、どう書いていけばよいのかわからず、かなり悩んでいる。
起きている間中、ずっと考えている。

正直、これを考えることに注力しすぎて、肝心の制作の方が滞ってきたので、困っている。どうしたものか…

今日も、今日とて、どうしたものかなと考えながら、道を歩いていたら急に思い出したことがあった。

大学生の頃、中学時代からの友人が家に泊まりに来た。

彼女はいままで美術関係の話は1度もしたことがなかったのに、
「そういえば、のんのんってどうやって絵を描いてるの?」
と尋ねた。


それもそのはず。
私の部屋には、ベッドと、何も置いていない机と、イスと、ギチギチに本が詰め込まれた歪んだ本棚しかなかったからだ。

友人が泊まりにくる時は、部屋が狭くなるので、画材や、制作中のものは、全て大学の自分のスペースに置いてきていたので、それっぽいものが部屋には何ひとつ置いていなかった。

「最近はパソコンで描くことが多いかな」
と答えると、

「やってみたい!」
と言うので、私は友人を椅子に座らせ、MacBookをリュックから取り出して彼女の前に置いた。

Adobeのillustratorのソフトを立ち上げ、画面左側に並ぶ色々なツールを使って見せたあと、マウスの主導権を彼女に渡した。

彼女は真っ白なアートボードを2、3秒見つめてから、
「で、何を描けばいいの?」
と尋ねた。

私は咄嗟に、
「何でも。好きなものを描いたらいいんだよ〜」
と答えた。

嘘ではないが、易しくなかった。
“なんでもいい”ほど難しい事はないと、痛いほど知っていたのに。

「じゃ、ごはん作ってくるから、好きに使っていいよ」と言って、彼女をほったらかした。

まな板の上で野菜を切りながら、「あーあ、私って本当に性格わるいな」と思った。


下ごしらえを終えて、フライパンで何かを炒めていると、彼女は「何作ってるのー?」と、台所へやってきた。

やっぱりね、と思った。
彼女は何も描けなかったのだろう。

私は彼女の顔を見ずに、
「もういいの?」
と聞いた。

「うん、もういいかな」
と返す。

「じゃあ、あーんして?」
彼女の口に食べ物を突っ込みながら、ごめんと思った。


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