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🎥 Edie

全ての世代が勇気づけられる、人生応援感動作!

Amazon Prime Video の作品紹介より

83歳の女優、リアルはじめての山登り!? カッコ良し!人生の3学期を迎えた人々に「遅すぎることはない」は魔法の言葉だ。

日本版予告映像内の、田口トモロヲ氏による推薦文


そうなのかな。そんな甘っちょろいものではないと思うけどな。主人公の行動は、恐怖や絶望、下手すれば死とも隣り合わせで、無鉄砲と非難を浴びても仕方がないものだ。それでも彼女をあのような行動に駆り立てた動機は、他者に与える勇気や感動とは無縁な、極めてパーソナルなものだ。少なくとも、僕はそう感じた。

こういったヒューマンドラマを十把一絡げに「良い話」に落とし込もうとする風潮は、僕の目には下品と無神経の極みと映って反吐が出る。

個人的には志向とは別な、もっと公的な側面からも一言申し上げたい。勇気や感動の美名に酔ってはしゃいだ挙句、結果的に遭難死を招いてしまった、栗城史多氏の一件はまだ記憶に新しい。良作を広めたいという供給サイドの気持ちはわかるが、もっと慎重になって欲しかったと思う。



長年に渡り介護してきた夫の死を機に、83歳の Edie は自分を押し殺して生きる日々への別れを決意する。そして、幼い頃に父と登るはずだったが叶わなかった山、スッコットランドのスウィルヴェンを目指す。 現地で Edie と出会ったアウトドアショップを営む Jonny は、彼女の無知っぷりと骨董品のような装備に呆れ、最新の装備を売り込み、ガイドを申し出る。 周囲に合わせることに辟易としているが、心細さも隠せない Edie。いいカモに出会えたと心で舌を出しつつ、基本的には真面目で手抜きができない Jonny。スウィルヴェンを目前にトレーニングを重ねるうちに、二人の距離は徐々に縮まっていく。ところが、いよいよ登山本番という直前になって、Edie は Jonny の同伴を断り、一人で行くと言い出す。

宣伝への批判から始めてしまったが、作品自体に嫌悪感を抱いているわけではない。むしろ逆だ。僕にとっても、これは間違いなく良作だし、観といてよかったと心底思っている。
僕は登山が好きで、それもあって本作が目に留まった。樹木の香りとか、風景とか、素晴らしいことはたくさんあるけど、登山に惹かれる理由はそういったことだけじゃない。乱れた呼吸も、ガクガクと震える膝も、泥だらけになった足も、転んで体に走る痛みも、挫折も、全部自分のものだからだ。振り返れば、成功よりも失敗が多い。一応は山頂に辿り着いても、その過程に大小様々な失敗がある。そして失敗の多くは、学びと準備の不足が原因だ。それでもやっぱり、その時々の自分が味わった失敗は、忘れがたい大切な経験だ。成功か失敗かはあまり問題ではなくて、なにもかも自分のものだという事実が、心身にとっても大きな充足感を与えてくれる。
話を映画に戻そう。いよいよ登山が始まると、最初は意気揚々で快調に歩が進むが、Edie は少しずつ身の程を知り始める。孤独がもたらす不安。思いがけない事態。悲劇の予感に縮み上がる心。今にも崩れ落ちそうな体。ついには激しい風雨が襲いかかる。それでも彼女は持ち堪え、傾斜を強めていくスウィルヴェンの頂へ向かう。
Edie の疲労と痛み、忍耐、そして最後に訪れる充足感が、彼女の肉体を通じてひしひしと伝わってくる。これは単独登山の、そしてなにもかもを自分ごととして引き受ける者の特権だ。一人で行けば、風景が変わる。頂上に着けば、心が洗われる。
厳密には彼女は一人ではなく、要所要所で救いの手が差し伸べられるのだが、ご都合主義的な話の運びとは映らない。そういった場面で描かれているのは、孤立に臆せず生きる選択をした人だからこそ持ち得る優しさや思いやりだろう。これから川を渡ろうという Edie に、山を降りてきた女性が声をかける場面が好きだ。カジュアルに挨拶を交わし、大丈夫かなと気を揉むが手も口も出さない。このほんのわずかな、一見本筋とは直接関わりのないエピソードに、人間関係のあり方についての作り手の理想像が現れているように思え、僕はそれに同意する。
Edie の物語と対になるように、Jonny のそれもそこかしこに挿入されてくるのだが、やや蛇足気味で、消化不良感が残った。おそらく編集の問題ではないかと思う。笑いの要素が低調だったことも含め、もっとなんとかなったんじゃないかという気がして惜しい。
ガジェット集めは、アウトドアの楽しみの一つであり、安全性の面で大切なことでもある。そのことが小気味よく描かれていて好感が持てた。盛り上がった購買意欲を、通帳を開いてなんとか抑えた。


★★★☆☆


★★★★★・・・出会えたことに心底感謝の生涯ベスト級
★★★★☆・・・見逃さなく良かった心に残る逸品
★★★☆☆・・・手放しには褒めれないが代え難い魅力あり
★★☆☆☆・・・見直したら良いとこも見つかるかもしれない
★☆☆☆☆・・・なぜ作った?
☆☆☆☆☆・・・後悔しかない


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