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短編小説「時間と時短」

ガチャ。ガチャ。キィー。

少し立て付けの悪い扉が、音を立てて開く。

「ただーいまー」

まぁ、1人暮らしをしているのだから返事があるわけもないのだが。

“雀百まで踊り忘れず”とはよく言ったもので、習慣になったものは中々忘れないらしい。

今日は休日で大学は休み。いつもなら学食で昼食は済ましていたが、そういうわけにはいかないので、急遽スーパーに行ってレトルトカレーを買ってきた次第である。

手を洗い、部屋着に着替え、キッチンへ。

相変わらず調味料が少ない殺風景な台所だが、うん。まぁ、塩とケチャップが有れば大体の味付けが可能なので良しとしよう。

箱を折り返し、レンジへ入れる。

あとは2分待つのみ。

実に早い。

早くていいのだが・・・。

僕は同時に、こうも思えてしまうのだ。

「やっぱり手料理とは何かが違うなぁ」と。

その理由が、味の問題かどうかは分からない。ただ、それが料理以外の、別のことも関係することは分かった。

“別のこと”というのは、つまり“かけた時間の量”じゃないだろうか。

昨今では「最短〇〇分より〜」や「〇〇時間以内にお届け」など、何かにつけて時間を短くすることを耳にする。

もちろん、それ自体に僕は反対しないし、むしろ賛成派なのだが、いささか量が多すぎるのではないかと思う。

例えば、さっきの料理にしてもそうだ。レトルト食品は確かにすぐに完成し、食べることができるので便利だ。しかし、それを使いすぎると次第に、手間はかかり少々作るのに時間がかかるが、その分、情のこもった料理の味を忘れてしまうのではないか?とも感じる。

時短も重要だが、たまにはあえて時間のかかるものを楽しむ余裕というのが必要なのではないだろうか?

まぁ、現にレトルトカレーを作って食べようとしている自分の意見なぞ、信頼度は薄いだろうがーーー

ピー、ピー、ピー。

よし、できた。

あらかじめ米を入れておいた皿に、ルーをかけ、テーブルに移動。

はて。さっきまで何を考えていたか。すっかり忘れた。

やはり、空腹時は頭が鈍いというのは本当だったようだ。

では、腹を満たしてから、また、じっくり時間をかけて考えるとしよう。

せーの。



「いただきます」


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