三浦大知の『球体』についてダンスライターが思ったこと

三浦大知の『球体』はもっと多くの人に表現されるべき! その理由をダンスライター目線で考察しました

皆さんは『球体』というエンターテイメント作品を知っていますか?
これは、日本が世界に誇るエンターテイナーの一人である三浦大知が、音楽家・Nao'ymtと共に作り上げた実験的かつ未体験のコンセプチュアルプロジェクトで、2018年7月11日に音楽アルバムとしてリリースされました。

僕はこの『球体』がリリースされる前に、ミーティアという媒体で三浦大知のベストアルバムリリースのインタビューを担当したのですが、その時に「まだ言えないですけど、新たなプロジェクトを発表予定です」と匂わされたことを覚えています。

そして、その発表できないプロジェクトが『球体』だったわけなのですが、僕がこのコラムで語りたいのは『球体』のリリースに合わせて全国7都市で開催された”完全独演”公演『球体』の方です。

アルバム『球体』の音楽レビューに関しては、様々な大手メディアや著名な音楽ライターが素晴らしい記事を発信していますので、そちら見ていただければと思います。どれだけ『球体』がすごい音楽プロジェクトなのかがわかるでしょう。

僕のコラムでは、ダンスライター目線で"球体"と"ダンスシーン"を照らし合わせながら思ったことを書いていきたいと思います。

※このコラムは2018年に作成したものです。公開日は2020年7月ですが、内容は当時のものに少し追記したものです。ご理解の上お読みください。


『球体』を見て思ったこと「三浦大知は一生ダンスをやるつもりだ」

まず、『球体』について情報を整理しましょう。

・アルバム『球体』に収録されている楽曲は、すべて日本語の歌詞で構成されています
・独演『球体』は三浦大知自身が演出、構成、振付、出演を一人で行いました

その情報を見た時に、僕はごく自然に「三浦大知はダンスを一生やるための準備をし始めた」と思いました。
それは実際に『球体』独演を見て確信に変わります。

『球体』独演の振付はコンテンポラリーやジャズといった音楽が持つ感情を踊りで表現するダンスが随所に取り入れられていました。

三浦大知の振付といえばニュースクール系のHIPHOPで、世界の流行りや様々なダンスジャンルを取り入れたジャンルですよね。もちろん振付も激しく高難度なムーヴが多いので、ずっと高いクオリティで踊り続けるのは大変です。

以下にオリコンに掲載されたインタビュー記事のコメントを紹介します。

ダンスはアスリート的な要素もあるので、今のパフォーマンスを60歳のときに発揮するのは難しいと思います。
でも、キレが良い=「いいダンス」というわけではなくて、年を重ねたからこそ出せるグルーヴ感みたいなのもあるじゃないですか。カッコよさには種類があるので、ちゃんと自分と向き合ったパフォーマンスができていれば、踊ることも死ぬまで楽しめるんじゃないのかなと思います。
歌はそれこそ楽器(声)なので、自分の体と向き合って長く歌っていきたいと思うし、それに伴う年齢の変化、体型の変化、内面の変化も楽しめる。闘うことが大好きで、さらなる高みを目指して自分と向き合い、修行を続けている悟空と似た精神がもしかしたら僕のなかにあるのかもしれないですね(笑)

引用先:オリコン

上記コメントのように「今のクオリティのダンスをずっとできるかどうかはわからない」と話すことがありますが、実際にプロのダンサーでも同じ壁にぶつかっている人は多いと思います。それだけずっとやり続けるのは大変なジャンルなんです。

ここで話をコンテンポラリーとジャズに戻しますが、このジャンルは全ダンスジャンルの中でも息を長く続けられる部類に入ると思います。経験や表現力が生きるダンスですし、40代50代になっても現役のプロダンサーとして活躍している方もたくさんいます。もしかしたら60代になっても深みや味のある踊りができるジャンルかもしれません。

そのジャンルを取り入れた『球体』独演を、大ブレイクからベストアルバムリリースを経た、メディアの注目度が高い時期に行ったのは、自分はずっとダンスをやっていきたいんだという気持ちを強く伝えたかったのではないだろうか? と僕は思ったのです。

三浦大知は元々コンテンポラリーやジャズに興味があった?

CDTVという音楽番組の企画で「三浦大知が選ぶダンスパフォーマンスがすごいアーティスト10選」という企画があったのですが、そこで三浦大知は、俳優の森山未来と土屋太鳳を選んでいます。

森山未来の選考理由は

「100万回いきたねこ」という舞台を僕の昔のチームメイトの満島ひかりと一緒にやってたので、観にいかせていただいたんですけど、とにかく衝撃を受けたのを鮮明に覚えています。ダンスは動き、リズムに合わせて踊るダンス+表現力だと思うんですけど、俳優さんがここまでダンスの技術力を持った時に、僕たちは敵わない感じがあります。森山さんがやっているダンスが「コンテンポラリーダンス」といって、物になったり、感情になったり、抽象的なダンススタイルなんですけど、類稀なる身体能力と森山さんが持っている表現力。これが合わさることで、森山さんにしか作れない、踊れないダンスというものを持っている人だと思います。

土屋太鳳の選考理由は

ダンスのスキルはもちろんの事、女優さんなので表現力がスゴイです!

と挙げています。土屋さんのコメントが森山さんに比べて少ないのが気になりますが(笑)
共通して言えることは、表現力で魅せるダンスやダンサーにリスペクトを持っていること、そういったダンサーが踊っているコンテンポラリーやジャズに興味があるということでしょう。

いつか自分もそういう表現ができるパフォーマンスの場を作って作品にしたいという気持ち。少しでも長くハイクオリティなダンスで舞台を華麗に舞いたいという想いが、『球体』独演につながっていったのではないかと思いました。

三浦大知『球体』は親元を離れ、多くの表現者に使われる作品になるべき

冒頭でも触れましたが『球体』は音楽シーンに大きな衝撃をあたえた作品です。それは多くの音楽ライターの書いた記事から伝わる「新しい音楽を見つけた」という興奮度を見ていただければわかると思います。

僕はそれ以外に、三浦大知の『球体』は後世に残すべき作品だということを言いたいです。
それは"音楽作品"・"三浦大知のエンターテイメント"ということだけでなく、『球体』そのものがエンターテイメント作品として演じ続けられるものであって欲しいという想いがあります。

それはなぜなのか?
まず、理由を箇条書きで書いていきましょう

・日本語のみで構成された歌詞は完全なる日本製の作品
・日本のダンサーは世界でもトップクラス
・三浦大知が『球体』を自分のものだけにするつもりはない
・三浦大知は世界に見つかるべき存在

の4つですね。
三浦大知が自身の音楽について理想を話す時に以下の言葉を使うときがあります。

それに僕は、日本の楽曲はちゃんと“日本語の歌詞の歌”として海外の人に聴かれるべきだと考えています。僕らが英語圏の楽曲を“洋楽”と認識して聴くのと同じ感覚で、日本の楽曲を“海外の曲”として世界中の人に聴いてもらえるといいなって。そのために自分ができることがあるのなら、頑張りたいなといつも思っています。

 
引用先:オリコン

これはオリコンのインタビュー記事での発言ですが、僕も初めて三浦大知にインタビューをした時に同じ話を聞かせていただきました。これが三浦大知のコツコツやっていくスタイルの音楽だと思いますし、彼が世界で見つかる時の理想の売れ方なのだと思います。

そういうマインドですから、この『球体』というのは、三浦大知とNao'ymtによる"純度100%の日本製エンターテイメント"を世界に浸透させるスイッチと言えるのではないでしょうか?

このコラムを読んでいる皆さんは、三浦大知のファンの方や興味がある方だと思いますので、三浦大知が歌う・演じる『球体』に魅力を感じている方々が多いと思いますが、三浦大知の『球体』への想いはそれだけではないと思います。

以下のJK RADIO TOKYO UNITEDのインタビュー記事に掲載されていたコメントを見ていただきたいです。

「僕はこの『球体』というプロジェクトについては一生続いていくものだと思っています。一生どころじゃないというか、Naoさんとも話しているんですけど、自分たちの手を離れても残っていく作品にしたいよね、というのは最初からあったんです。
例えば、ちょっと風化してる銅像があるとするじゃないですか。その銅像が待ち合わせの場所になっていたり、そのまわりで本を読んでる人がいたり、みんなの憩いの場として銅像の広場があるんです。それは、誰が作った銅像か分からないけど、みんなそのまわりに集まってくるんです。そして、それがちょっと欠けてきたりしたら誰かが直したりして、ずっとここにある。それって人がどんどん繋いでいくということだし、ずっと残っているものってすごく素敵だなと思っていて。
だから、『球体』も僕じゃないパターンがあってもいいというか、別の違うプロデューサーが違う解釈でアレンジをして違うアーティストがレコーディングして、まったく違う『球体』が生まれても面白いでしょうし、自分がもし死んでも、この作品だけはずっと残っていくというか、そういうプロジェクトになるといいなと思っています。」

引用先:JK RADIO TOKYO UNITED

この発言からも分かるように、三浦大知は『球体』というプロジェクトを自分の作品だけで終わらせたくないという想いがあります。

他のエンターテイメントで例えれば『球体』は

有名な戯曲『ロミオとジュリエット』のように
有名なバレエ作品『白鳥の湖』のように
有名なミュージカル『レ・ミゼラブル』のように

というイメージです。はるか昔に生まれた作品ですが、今なお語り継がれている作品ですね。
演者を変え、形態を変え、時にはアレンジを加えられたりして、誰もが知る世界的エンターテイメント作品として後世に引き継がれています。

僕は『球体』にもそういう作品になって欲しいです。
そして、色々なエンターテイナーに『球体』を使ってパフォーマンスしてもらいたいですね。

それはダンサーだったり、シンガーだったり、役者だったり、カンパニーだったり、劇団だったり、パフォーマンスを生業にしている方々に『球体』を使って素晴らしいエンターテイメントを作って欲しいですし、そういうエンタメシーンのパーツになれば嬉しいと思います。

欲を言えば

「『球体』をやれば一人前! 」
「『球体』をやれば多くの人が注目してくれる!」
「あの大物エンターテイナーが『球体』を全国公演」

と謳われるくらい、表現者にとってのキラーコンテンツに進化したら面白いのではないでしょうか?

特に日本のダンサーは世界トップクラスの実力を持っています(足りないのは国のダンスエンタメへの理解と支援だけ)
そんなダンサーたちが『球体』を使って国内外でエンタメを発信すれば、すごいムーヴメントになるかもしれません。
もしかしたらそれが、三浦大知が世界に知れ渡るキッカケになるかもしれませんしね^^

なので、エンタメを生業にしている方が、もしこのコラムを見ていたら『球体』の存在を少しでもいいので頭に入れて欲しいです。
アルバムを聞いて、独演を見て、自分だったらどう作りたいか? そういうチャレンジをしてもらえると、面白くて新しいエンターテイメントの形ができるのではないかなと思いました。

三浦大知とNao'ymtが作り上げた『球体』

現状は「三浦大知が衝撃的かつ時代の先をいく音楽コンテンツをリリースした」に留まっていると思います。
僕はそれだけではもったいない作品だと思いますので、多くの方に認知され表現される作品になることを願っています。

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