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♯19 【入院12日目】目覚め

……ん、……さん。

声をかけられる。握られた左手が温かい。

「終わりましたよ」


無事に終わったのだ。朦朧としてはいるが、意外にも身体は疲れていない。何もしていないのだから当然か。


再びICUに移る。また窓際の部屋だ。

ZARDの揺れる想いがかかっている。斜め上に青く澄んだ空が見えた。

アラフォーを泣かせにきてるのかよ。


……ほっとした。

ちゃんと、泣いてる。考えたことを言葉に変換出来てる。

生きている。


清々しかった。


ただ、そう思えていたのは痛み止めがかなり効いていたからだ。手術を終えた現実に気づくのはもう少し後だった。


頭が下がらないようにベッドは少し起こされている。
斜めに寄り掛かったような体制で身体の下にはビニール素材のシーツが敷かれていた。

痛み止めが薄れてくる。頭が痛い。
これは―――頭の中ではなくて術創の痛みなのだろうけど、当然痛い。

熱も上がる。汗が凄い、シーツの素材とベッドの角度のせいで身体が滑る。でも足を踏ん張る力は無く、姿勢を立て直すことが出来ない。腰も痛い。何を使っても身体を支えられない悪循環。頭には何か巻かれているし、瞼も重い。眼鏡も当然かけられない。時計の文字盤も針も白くとんでいる。時間がどれだけ過ぎたのかもわからない。痛い、暑い、しんどい。それしか考えられない。ICUだから相変わらずサイレンは鳴り響くし、さらに辛そうな人の枯れた声も聞こえる。様々な機器の作動音がピーピーガーガー音を立てている。


朝が来るまで、一睡もできなかった。


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