NH式呼吸リハビリ法(仮称)の概要

2024年9月現在でもコロナウイルスに感染した後に遷延する症状(以下COVID-19後遺症)に苦しむ方が世界中で増え続けている。「long-covid」「post-COVID condition」とも呼ばれ、2024年の報告によれば、全世界で累積発症数は約4億人に達し、経済的影響は年間1兆ドルと推計されている。

COVID-19後遺症の方が苦しむ症状として倦怠感(だるさ、疲労感)と息苦しさが代表的なものとして知られているが、これらと同様な症状を引き起こす病気として「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労性症候群」(ME/CFS)という疾患が従来から知られている。ME/CFS患者はコロナ禍以前の時点で国内に30万人ほど存在していると想定されていたが、COVID-19後遺症の一部はME/CFSに移行することが知られており、今後同様なものとして扱われていくと考えられる。COVID-19後遺症を訴える患者が増えるにつれME/CFSの患者も急増している可能性が高い。

COVID-19後遺症に対する効果的な治療法は確立していないが、先行研究や臨床上の所見から、感染による肺機能障害や血管内皮細胞の損傷、さらには微小血栓による組織の酸素不足などが息苦しさの主な原因と考えられ、酸素供給量を増やすための呼吸リハビリテーションの有効性が報告されている。

従来の自己で行う呼吸器リハビリテーションでは、両手を組み肩関節屈伸運動と深呼吸を行うことで大きな換気量が得られるとされているシルベスター法などが知られていたがME/CFSの患者には負担が大きく実施が難しかった。また、椅子に座って行う胸郭可動域拡大訓練、筋力トレーニングなども推奨されるがいずれも中程度以上のME/CFSの患者には負荷が強すぎ不可能であった。そして症状が重く外出が困難な患者や、診療施設が不足しているためリハビリを受けられない患者も多く、自宅で実施可能なリハビリの必要性が高まっている。英国では、遠隔でのオンラインリハビリ指導も含めたリハビリプログラムの先行研究があるが、多職種の連携が必要であり、多額の費用や人的資源を必要としているために実施できる国や地域は非常に限られている。我々は以上の問題点を克服すべく、重症度に応じて無理なく自己実施可能な呼吸リハビリ方法を開発し、オンライン指導を行ってきた。

我々の提唱する呼吸器リハビリテーション法(仮称・NH式呼吸リハビリ法)では症状が重くても無理なく実施できるように重症度別にそれぞれの内容を考案した。ME/CFSの患者の重症度の指標であるPS(パフォーマンス・ステータス)別にリハビリの種目を構成した。その内容に従い我々はCOVID-19後遺症患者やワクチン接種後症候群の患者を対象として(仮称)NH式式呼吸リハビリ法の動画公開及びオンラインでの指導を実施しており、その指導人数は2024年時点でのべ1500人を超える。

以下に NH式呼吸リハビリ法(仮称)の概要と詳細を述べる。

概要

患者の重症度に合わせて個別化されたリハビリプログラムを提供する点に特徴があり、従来の方法と比べてPEM(労作後倦怠感)のリスクがある患者でも無理なく行える。重症患者は仰臥位から無理なく始め、次いで側臥位、座位、立位へ進むように段階的に構成されている。努力不要で自然に呼吸が深くなる体勢の保持や呼吸に意識を向けるマインドフルネスから始まり、胸式・腹式呼吸の訓練、側臥位での負荷の少ない方法での胸郭拡大訓練と進み、長呼気での呼吸筋のトレーニング、重症度が低い患者には座位での脊柱可動域訓練、呼吸法と歩行の同時訓練をおこなっていく。ゆっくりとした呼吸やマインドフルネス瞑想の要素を取り入れた事で副交感神経を活性化しリラクゼーション促進、ストレス軽減が可能なことも特徴である。さらに、リハビリ動作の指導だけでなく、日常生活での適切な呼吸方法にも焦点を当てている。

詳細

以下に我々の提唱する呼吸リハビリ法の詳細について記載する。
重症度は筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労性症候群(ME/CFS)の指標であるPS(パフォーマンス・ステータス ME/CFSの患者の重症度を表す指標)に基づいており、その段階に合わせ独自に考案した呼吸リハビリである〈NH式呼吸リハビリ法(仮称)〉。

以下がその詳細内容である。PSと患者の状態に合わせ❶-➓の中から適切な内容を処方、⓫と⓬はPSと関係なく適宜行うものとする。

❶仰臥位で椅子などに下肢を乗せる。股関節や膝関節を直角位まで上げるのが望ましい。なければ 膝を立てる程度でも良い。上肢は腰の横に下垂させ前腕を回外させる。きつければ手は楽な位置で構わない。そしてそのまま呼吸に意識を向け自然な呼吸を続ける。(腹筋群が弛緩する事で横隔膜が動きやすくなり呼吸が深くなる。)適宜肩関節を外転位、挙上位に移動させ5分から10分程度行なう。

❷側臥位で胸の前でクッションなどを抱える。軽く背中を丸めた状態で呼吸を意識する。その状態で呼吸に伴い胸や背中が動くのを意識する。きつくない範囲で背中をさらに丸めたり、より深く呼吸をしていく。

❸側臥位から上側の股関節をやや外転外旋させ半伏臥位状態で床に膝をつく。その状態で呼吸に伴い側腹部が動くのを意識する。さらに上にある側の上肢を屈曲外転させ胸部や肋骨が呼吸と共に動くのを意識する。きつくない範囲で各部位が動くよう意識し深く呼吸する。

❹仰臥位で胸部と腹部にそれぞれ手掌を乗せる。胸部が膨らむように息を吸い、脱力して吐く。1分から数分行う。次に腹部が膨らむように息を吸い、口をすぼめて自然に吐き、次に細く長く吐く。1分から数分行う。次に胸部と腹部の両方が膨らむように息を吸い、自然に吐き、次に細く長く吐く。1分から数分行う。

❺仰臥位で第1指と第2指で側腹部をはさむように手をあてる。吸気とともに側腹部が膨らむのを意識する。次に拇指と示指が均等に押されるように深く吸って呼吸する。

❻仰臥位で胸部の前で腕組みのように反対側の手で両肘をゆるく持つ。そこから吸気とともに肩関節を屈曲させていき、額に下ろす。呼吸を整え呼気とともに肩関節を伸展させ腹部に下ろす。8回程度行う。

❼側臥位になる。肩甲骨を外転させる形で上側の手を前方に突き出す。息を吐きながら行なう。一旦呼吸を整え前方から戻す際に肩甲骨を内転、胸椎を回旋させる形で腕を後ろに引く。息を吐きながら行う。8回程度行う。

❽側臥位になる。肩甲骨を外転させる形で前方に突き出した腕を息を吐きながら頭の方向へ挙上しながら元の位置まで一周する。息を吐きながら行う。8回程度行う。

❾端坐位になる。息を吸いながら胸椎と体幹を伸展させる。次に息を吐きながら体幹を屈曲させる。8回程度行う。

➓端坐位になる。息を吐きながら胸椎と体幹を側屈させる。その場で呼吸を数回繰り返す。これを左右両側5回から8回程度行う。

⓫端坐位もしくは仰臥位になる。深く鼻で息を吸い、口をすぼめて可能な限り長く吐いていく。これを5分程度行う。

⓬端坐位 、もしくは立位となる。その場で足踏みを行いながら歩数に合わせて呼気、吸気を長めに行う。

実際にどのPSに対しどの種目を適用するか、動画による解説などは当noteの別ページや下記のYouTubeのリンク先を参照されたい。

PS8〜9

https://youtu.be/BiXuOuP4Dh0?si=vFofYwk8n-jLEdyn

PS6〜7

https://youtu.be/HUgcZk9xybo?si=ZMl1tCalvPhzpXSW

PS4〜5

https://youtu.be/U7uZX74QZzk?si=KS4u9Kp2X7IuG7gl

PS2〜3

https://youtu.be/AuTXAbdiGIc?si=voCif8yxymVhJ0d_

PS0〜1

https://youtu.be/QzIQoZCvbrE?si=O1p0FDbwMhUkmGMQ

※PS(performance status)とは…慢性疲労症候群診断基準である。数字が大きくなるほど重たい症状を示す。
【参考】「厚労省判断基準(AMED HP内資料参考)」


学会発表などのプレスリリースは下記のリンクを参照されたい。

スマートウォッチデータから示されるコロナ後遺症の症状変化 呼吸リハビリオンライン指導での効果検証

コロナ後遺症に呼吸リハビリオンライン指導が有効な可能性  スマートウォッチでコロナ後遺症患者への効果検証

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