1人じゃない

 かの国民的アイドルの歌に「ナンバーワンにならなくてもいい もともと特別なオンリーワン」という歌詞がある。ここで歌うオンリーワンとはポジティブな意味でのオンリーワンのことだが、今回書くのはネガティブな意味でのオンリーワンである。

ポジティブな意味でのオンリーワンにはいくらでもなりたいが、ネガティブな意味でのオンリーワンになりたい人はいないだろう。ネガティブなオンリーワンになんてなりたくない。

そして、ネガティブなオンリーワンになりたくないと思っている人は自分がネガティブなオンリーワンなのではないかと思っているのだろう。

かく言う僕もそうだった。


始まりは小学生の時だった。

周りの同級生がクラスメイトの女子を見て「あの子かわいいよな」と話していた。僕もその会話に参加し、好きな子というのを見つけ告白もした。しかし、小5の時、休み時間中に見た一つ上の男子生徒が忘れられなくなった。男友達に抱く感情とは明らかに違った。好きな女の子に抱く感情ともちょっと違った。授業を受けていても、家に帰ってもその一つ上の男子生徒のことが忘れられなかった。この感情が何かは分からなかったが、周りの同級生がこの感情を抱いてはいないということだけは分かった。だから、誰にもこの感情は話さなかった。

時は高校にうつる。

高校生になっても周りの同級生は「◯組のあの子可愛くね」と話していた。僕もその会話に参加し、一緒に可愛い子を見にいった。それはもちろん、無理矢理周りに合わせてではなく自分が見にいきたいと思ったからである。しかし、同じ部活の同級生(男)に対して小学時代と同じ感情を抱いた。唯一違うのは、この感情は恋愛感情に近いと自覚できたことである。当時、僕は周りになんでも思ったことを話せた。だから、その同級生に抱く感情を他の友人に話したこともある。なんなら、その本人にも話した。みんな何も否定せず受け止めてくれたし、今でもその本人とは仲が良く週1ペースで会う。もちろん恋愛関係にあるわけでもなく、ただの友達の関係である。むこうは彼女もいるし、別に僕は恋愛関係になりたいとも思わない。でも、他の友達に抱く感情とは少し違う。

近年、LGBTQというものが叫ばれ、嫌でも耳に入ってくる。だから、僕は「バイセクシャル」なのだと思うようになった。しかし、バイセクシャルというのは男性女性両方に恋をし、性的・肉体的な欲望を抱く性的指向だと認識していた。

でも、僕は好きな男がいてもその人と肉体関係を結びたいとは全く思わない。だから、俗にいうバイセクシャルとは違うのかもしれない。男が好きでも肉体関係を結ぼうとは思わない。そんな人間いるのか。と自分がオンリーワンなのではないかと思いながら、最近まで生きてきた。

そんなある時、ネットで「セクシュアリティ診断」というものがあった。せっかくだからやってみた。すると、僕の指向に当てはまるセクシュアリティが見つかった。どうやら僕は「バイロマンティック」らしい。

バイロマンティックとは、男性と女性に恋愛感情を抱きうるが、必ずしも性的に魅力を感じるとは限らないというものである。

別に僕は、自分の性的指向の名前を知りたかったわけではない。自分がバイロマンティックということが分かっても何も変わらない。ただ、ネットで自分の性的指向が分かり、自分の性的指向が名前が付いているということが分かり、自分一人だけが抱く感情ではないということが分かった。多数派の感情ではないことはもちろん分かるが、自分は一人ではなかったのだ。仲間がこの世のどこかにいるのだ。


自分の性的指向が分かり、そして名前が付いていることが分かったと同時に自分が少数派の中の多数派でまだ幸せなのかもしれないと思った。


この世には名前が付いてもいない少数派の中の少数派がいるのだろう。例えば、僕の性的対象は人間である。世の中の人間がみな性的対象が人間とは限らない。動物の人もいれば、建物、液体、風船の人もいる。まだ僕らが知らないだけでもっともっと性的対象が存在するのだろう。しかし、そのどれもに名前が付いているとは限らない。ネットで調べても名前がついておらず、自分だけではと思っている人がいるだろう。昔、僕が思っていたように。

でも、世界には約80億人の人間がいる。その中で、自分だけというオンリーワンな人間などいないと思う。特に何も根拠はない。ただ、以前まで自分がオンリーワンだと思っていた僕はなんとなくそう思うだけだ。


だからこそそんな人たちに言いたい「1人じゃないよ」と。

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