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「チッ。」と、赤信号で止まる度に舌打ちが聞こえてくる。はじめて見る長い渋滞。これで何度目だろう。その度に肩をすくめて小さくなる。どんどん小さくなって見上げた先、窓からはビルが、ビルの間からは空が見えた。青い。 + よく晴れた朝だ。今日、私は東京に行く。 「これも持っていきなさい。」 「えー、いいよ。あっちでも買えるし。」 「いいから。なかったら困るでしょ。とりあえずよ。とりあえず。」 東京にはなんでもあるのに、母はぜんぶ持たせようとする。ものに溢れた実家。そうじゃなく
「なにそれ、傑作じゃん。」 「だよなぁ!最高の馴れ初めだよな。」 笑いながらジョッキを空ける目を、ちょっとだけ眩しそうに細めた。 お、これはちょっとマジだったんだな。 何か言いたいことがあるときの目だ。 はいはい〜、ご愁傷さま。 職場の同僚が結婚するとかで、もう何度目かの貧乏くじ飲み。 相変わらず、わかりやすいやつ。 + いわゆる、腐れ縁というやつだった。 大学時代、熱中していたバンド活動。入っていた軽音サークルは他大学も入り交じっていた。 真剣なやつもいい加減な
『それでも、わたしは踊る。』 狭い部屋にメトロノームと鼓動が響く。 体の芯から筋肉の動く音が聴こえる。 指先まで神経の一本ずつをイメージしながら、操作していく。 1.2.3.4... 一つひとつを、動かしては、止めていく。 静かな熱を抱いて、わたしは踊る。 + 夜が開ける前に一日を始める。 変わらない毎日。一日のうち大半を体を造ることに費やすからだ。もしかしたら何でもそうなのかもしれないけれど、ダンスは踊ってないときのほうが長い。 冷蔵庫を開けてミネラルウォ