ショートショート「長生きのエッセイ」
「元気がでないときに読むと、いいんだよね」
まっしろ壁の病室の、蛍光灯のベットから、君はいつか言ったのだ。ぼくはなんでか知りたくて、急いで帰りにその一冊、小遣い叩いて買ったのに、でも、俺は元気だけが取り柄だから、ついぞ読まずに、今日まで来たのだ。
君が好きだったその本を、あれから今日までボロボロに、今夜はじめて読んだのだ。読むにやまれぬそのままに、めくりめくって最後まで。「元気がでないときに読んでも、よくなかったよ」濡れた奥付裏表紙、そのまま棺に入れたのだ。