神戸からのデジタルヘルスレポート #62 (デジタル治療DTx・前半)
『神戸からのデジタルヘルスレポート』は、神戸拠点のプロジェクト支援企業・Cobe Associeが提供する、海外のデジタルヘルススタートアップを紹介するマガジンシリーズです。
今回は第62回・DTxを取り上げます!CureAppさんの薬事承認でいっそう注目度が高まったこの領域。いざ!
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Endeavor Rx:ADHDに対するデジタル治療
企業名:Akili Interactive Labs, Inc.
URL:https://www.akiliinteractive.com/
設立年・所在地:2011年・ボストン/アメリカ
直近ラウンド:Series C(2018年8月)
調達金額:$140.9m(DG Ventures, Omidyar Technology Ventures)
ADHDに対する治療はこれまで、心理療法や薬物療法が中心に用いられてきました。近年、この領域ではアプリやWebサービス形態で治療を行う「デジタル療法(デジタルセラピューティクス、DTx)」が注目を浴びています。
Akili Interactive Labsが開発・提供するEndeavor Rxは、ADHDの子供を対象にしたデジタル治療アプリです。↓が紹介動画なんですが、見てみるとほんまに普通のゲームです。
ADHDは複数の刺激を並列して処理するマルチタスクに問題を抱えている、といわれています。AkiliのEndeavor Rxは、注意や作業記憶を司る前頭葉を刺激して症状の改善を図ります。FDA承認のために使われた研究データでは、ADHDと診断れた8~12歳の子供の客観的注意を改善することが証明されています。
FDA承認とCEマークも取得済み。2019年3月11日には、塩野義製薬との戦略的パートナーシップを発表しています。同社が開発を行い、塩野義製薬は日本と台湾での規制対応と販売を担当します。現在、日本人向けプロトコルで臨床試験第2相が進行中です。
また、うつ病・自閉症・多発性硬化症の改善に向けたデジタル治療ゲームの開発及び臨床試験も開始しています。どんどん出てきそう、すごい勢いやなぁ。
Propeller:デジタル吸入器
企業名:Reciprocal Labs Corp
URL:https://www.propellerhealth.com/
設立年・所在地:2007年・マディソン/アメリカ
直近ラウンド:Corporate Round(2018年1月)
調達金額:$69.9m(McKesson Ventures, Social Capital)
Propellerは、喘息やCOPD患者を対象としたデジタル吸入器です。吸入器にはセンサーが内蔵されており、吸入頻度や場所、時間を自動的に追跡し、その情報を専用アプリで保存・分析します。
データが蓄積されていくと、アプリが症状変化や薬の使用について学習し、症状の管理とトリガーの特定をしてくれます。また、医師に対しても詳細なレポートが届くため、経過の確認や治療計画を立てるのが容易になります。
Propellerを使い始めて1か月で、症状の再発の減少や症状のない日の増加、服薬アドヒアランスの上昇が確認されています。臨床研究もこちらにたっぷり。
FDA認可はもちろん取得済み。現在では、アメリカにおける処方薬のシェア50%以上を占める7つの大手薬局グループの5つで対応が可能となっています。
長く付き合う必要がある病気だからこそのソリューションが詰まっていて素敵。スタッフのブログも充実していて素敵さがすごい。
Somryst:慢性不眠症に対するデジタル治療
企業名:Pear Therapeutics, Inc.
URL:https://peartherapeutics.com/
設立年・所在地:2013年・ボストン/アメリカ
直近ラウンド:Series C(2019年1月)
調達金額:$134m(Trustbridge Partners, Bridge Builders Collaborative)
Pear Therapeuticsが提供するSomrystは、慢性不眠症の人に対するデジタル治療アプリです。22歳以上の慢性不眠症を抱える方を対象に、認知行動療法を通じて症状改善を目指します。治療は9週間のプログラムで構成されており、スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスから利用可能です。
さらに、患者の治療と進行状況を追跡できる臨床医向けダッシュボードも提供しています。ダッシュボードでは、不眠症重症度指数、患者健康アンケート(PHQ-8)のスコア、夜間の睡眠状況に関する情報を収集、表示します。
2020年7月には、慢性不眠症の約350人の成人を対象とした仮想現実世界での臨床研究を開始しています。FDA認可のための準備も進行中。
その他にも、薬物中毒やオピオイド中毒に対するデジタル治療を行うアプリケーションも提供しており、これらはFDA承認を得ています。
Web情報が多い。これが丁寧に説明するということなんやなぁ...
BlueStar:糖尿病に対するデジタル管理アプリ
企業名:Welldoc, Inc.
URL:https://www.welldoc.com/
設立年・所在地:2005年・コロンビア/アメリカ
直近ラウンド:Series B(2016年3月)
調達金額:$55.2m(Johnson & Johnson Innovation, Hudson River Capital Partners)
Welldocが提供するBlueStarは、成人の1型と2型糖尿病を対象にした疾患自己管理支援アプリです。通常の医薬品と同様に医師によって処方されます。FDA認証を得ており、複数の大手保険の適用も可能です。
このアプリでは、ユーザーが血糖値を入力します。その情報をもとに生活習慣・モチベーション維持に関するアドバイスが表示されます。その他、アプリ上で専門家とのチャットや薬物療法や食事療法、運動療法といった血糖コントロールの方法を学ぶこともできます。
また、医療者に対しては、毎回の診察前に血糖値や服薬・体調の記録のレポートが送られます。これにより、患者が疾患管理や学習をできるだけでなく、医療者と双方向に情報共有できるシステムとなっています。
2010年にFDA認証を得てからは、アメリカとカナダで展開されています。さらに、2019年11月にはアステラス製薬と提携し、日本及びアジアへのサービスを展開していっています。従業員の健康管理としても利用できるみたいですので、企業内での展開も楽しみですね。
Proteus Discover:デジタル錠剤
企業名:Proteus Digital Health, Inc.
URL:https://www.proteus.com/
設立年・所在地:2001年・レッドウッドシティ/アメリカ
直近ラウンド:Venture Round(2019年11月)
調達金額:$492m(Harbin Gloria Pharmaceuticals, Sailing Capita)
Proteus Digital Healthは、服薬アドヒアランスを追跡できる小さなセンサーを内蔵したデジタル錠剤を提供しています。服薬したかどうかは、胴体に装着したウェアラブルセンサーが検知してくれます。正確な服薬アドヒアランスが可能であるため治験で多く利用されています。
デジタル錠剤はCEマークの取得、ウェアラブルセンサーはFDA認可を取得してます。センサーは、血圧、脈拍などの生理学データも測定可能で、自動的にアプリケーションに送信されます。その他にアプリケーションでは、服薬のスケジュール管理や活動量、歩数の測定が可能です。
多くの研究でも服薬アドヒアランスの向上が認められ、質の高いプロダクトではあるのですが、同社は2020年6月に破産申請をしています。追加資金を得ることができなかったことが原因のようです。大塚製薬とのパートナーシップを結んでいましたので、今後は大塚製薬が同社の技術を引き継ぎ、デジタル錠剤の改良をしていくそうです。
今後日本でどのような動きがあるかも注目したいですね。
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こんな感じで、第62回でした。
過去分もたっぷり厚くなってきました。マガジンのほうもぜひ見てみてください:-)
応援ありがとうございます!