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神戸からのデジタルヘルスレポート #110(特定疾患の治療支援①)

『神戸からのデジタルヘルスレポート』は、神戸拠点のプロジェクト支援企業・Cobe Associeが提供する、海外のデジタルヘルススタートアップを紹介するマガジンシリーズです。

今年は年末まで全20回で、昨年2022年に創業したデジタルヘルススタートアップを取り上げていきます。毎週木曜日朝配信予定です!

今回は全20回のうち7回目、テーマは「特定疾患の治療支援①」を取り上げていきます。


1. Oska Health:腎臓病患者のためのデジタルケア

企業名:Oska Health
URL:https://www.oska-health.com/
設立年・所在地:2022年・フランクフルト(ドイツ)
直近ラウンド:Pre-Seed
調達金額:€2.5M

Oska Healthは、腎疾患を有する患者が心臓血管系疾患や腎不全のリスクを軽減し、治療コストを削減できるよう促進するデジタルケアソリューションを提供しています。このデジタルケアには、医療保険との提携や最先端の健康アプリ、治療計画アルゴリズム等が包括されています。

出所:https://www.oska-health.com/

<サービス内容>
現在、EUの医療費の70%以上が慢性疾患に費やされています。そんな中、Oska Healthは、ドイツでは900万人、世界では7億人いるといわれている腎臓病患者が、合併症で入院するのを防ぐことをミッションにサービス開発を進めている企業です。 腎臓病患者は、入院や透析管理のリスクと常に隣り合わせにいます。しかしながら、そのリスクを最小限に抑えるため、診療以外のサポートとして、疾患に応じた行動変容を起こす必要があるものの、そのサポートは診療(医療機関の受診)以外の場面では不足気味です。Oska Healthのコーチおよび健康アプリは、医師の診察の合間合間に患者へ推奨するアクションを知らせ、その患者の身体管理ができるよう設計されているものとなっています。最先端のアルゴリズムと医学的根拠に基づいて設計された治療計画により、腎臓病患者が新しい健康的な習慣を身に着けられるよう支援します。

<ターゲットである腎臓病患者の現状>

  • 糖尿病+高血圧 長期にわたる糖尿病や高血圧が原因で発症

  • 10人に1人が発症 10人に1人の高確率で腎臓病に苦しんでいる患者が存在

  • 心血管合併症のリスクが20倍 腎臓病と診断された患者は、そうと診断されていない患者よりも、心血管合併症を発症するリスクが20倍高い

  • 公的医療保険支出の10%を占める CKD(慢性腎臓病)3~5が占めている割合。3~4の患者の50%は入院費用だそう

出所:https://www.oska-health.com/healthcare-payers

今年(2023年)月には€2.5Mのプレシードの資金調達を行っています。この資金調達によって、さらなるサービスの開発促進させていくそうです。今後の展開が楽しみです。

2. Arise:摂食障害ケア

企業名:Arise
URL:https://www.wearise.com
設立年・所在地:2022年・ニューヨーク(米国)
直近ラウンド:Seed
調達金額:$4M

Ariseは、米国で約3,000万人の患者がいるという摂食障害をケアするため、オンラインによるバーチャルケアモデルを構築している企業です。

出所:https://www.wearise.com/health-plans

創業者はアマンダ・ダンブラ氏ジョアン・チャン氏の2名。共同創業を行った彼女らは、自身が摂食障害の経験者だそうです。実際に患者として摂食障害の健康的および精神的問題に苦しみ、治療を受けた経験から、患者の8割がケアを受けていないというこの現状を解決したいと考え、本事業を発足するに至ったそうです。

<サービス内容>
過食症、過食症、拒食症、反芻障害、食物回避や食事制限など、さまざまな形で現れる可能性のある摂食障害。Ariseは、コミュニティケアと臨床ケアをオンラインセッションを通して提供します。トラウマ、PTSD、不安、うつ病、薬物使用障害など、摂食障害の原因となる、または摂食障害と並行して存在する可能性がある過去および現在の生活状況や基礎疾患にも対処するように設計されているそうです。
▼提供内容例

  • ピアメンバーシップ:Care Advocateと呼ばれるケアサポートとの毎週のセッション

  • コミュニティサポート:同様の疾患に苦しむメンバーとの毎週のグループサポート

  • 個別ケア:医師や管理栄養士等、専門家との個別のケアプラン設計と実施

<摂食障害を取り巻く現状>
全国神経性食欲不振および関連障害協会による「摂食障害に関する統計」では、摂食障害は世界中で少なくとも 9% の人々に影響を及ぼしているそうです。さらに、摂食障害のある成人の約20%~30%が自閉症を抱えていたり、有色人種の摂食障害患者の場合は、摂食障害とすら診断されていないといいます。
上記のように、患者が多く存在する一方、ケアを受けられているのは2割ほどしかいない、との現状から、同社は、よく見られる雇用主モデルではなく、民間保険や医療保険(メディケイド)と直接連携していくことを目指しているそうです。

3. Kitea Health:水頭症や心不全などの埋め込み型脳圧センサー

企業名:Kitea Health
URL:https://www.kiteahealth.com/
設立年・所在地:2022年・オークランド(ニュージーランド)
直近ラウンド:Seed
調達金額:$6M

Kitea Healthは、慢性疾患(水頭症*や心不全)を遠隔モニタリングするための世界初の埋め込み型センサーを開発した医療技術スタートアップです。
*水頭症:米国だけで100万人以上が罹患している不治の病

<サービス内容>
以下の記事では、COOであるナタリア・ロペス氏が自社サービスを紹介している動画がございます。よろしければご覧ください。

このセンサーは米粒程度の大きさ。最初にアプローチしたのが水頭症の患者の「脳」だそうです。水頭症は脳内の過剰な体液の蓄積によって引き起こされる症状で、主に幼児や高齢者が罹患するだそうです。シャントによる脳圧検査は、脳圧の上昇を軽減するのに役立つものの、侵襲性があるため、その実施には常に失敗するリスクを孕んでいます。このデバイスを利用することで、そのような測定のリスクを避け、常に自宅でも遠隔でモニタリングすることができ、今後の臨床転帰の改善につながるのでは、と期待されているそうです。


4. Birdsong Hearing Benefits:聴覚障害者向け補聴器

企業名:Birdsong Hearing Benefits
URL:https://birdsonghearing.com
設立年・所在地:2022年・ジャクソンビル(米国)
直近ラウンド:N/A
調達金額:N/A

Birdsong Hearingは、聴覚障害者向けのAIテクノロジー補聴器を提供するスタートアップ企業です。米国では4,800万人以上が難聴を抱えており、2021年に米国言語聴覚協会(ASHA)が 実施した世論調査では、全成人の半数以上(51%)が聴覚に問題があると報告されています。Birdsong Hearingは補聴器だけでなく、聴覚給付という格好で保険会社と連携し、難聴の早期発見とサポートを提供します。

同社の補聴器は、AI技術を活用して、周囲の音を自動的に収集・調整し、聴覚障害者がより自然な音を聞くことができます。また、補聴器のフィッティングは、オンラインで行われ、顧客は自宅から補聴器を注文することができます。2019年に米国の健康テクノロジー企業コンペティションで優勝し、その後、多くの投資家から資金調達を行っているため、今後の普及・拡大が期待されているそうです。商品画像をみるだけでも、かなりコンパクトなつくりですね。また、運営チームには、聴覚障害者の経験を持つ創業者が含まれているそうです。

出所:https://birdsonghearing.com/hearing-care

<サービス内容>

  • 聴覚障害のケアプランの設計(どんな補聴器が良いか、等含む)

  • アンケート結果、電子メール、チャット、通話録音、その他の会員データを含む顧客データのオムニチャネル音声を活用した分析

  • 民間保険や企業労働組合との福利厚生との連携

  • Birdsong Hearing Benefits内の高度な訓練を受けた医療提供者で構成されたネットワーク(専門の医師へのアクセスも可能)

同社は、SNSでも発信しています。補聴器サービスに関することだけでなく、耳を澄まして瞑想する動画や、睡眠と聴覚の関係に関する情報等、様々に発信しています。よろしければご覧ください。

5. Arphio:希少疾製性疾患のみ専門の医薬品開発

企業名:Arphio
URL:http://www.arphio.com/
設立年・所在地:2022年・サン・グワン(マルタ)
直近ラウンド:N/A
調達金額:N/A

Arphioは、いずれもグローバル大手製薬企業であるAdalvoSKファーマが連携して設立した、希少疾病用医薬品のみを専門とする企業です。2社が協業して設立した同社に関するニュース記事がございます。よろしければご覧ください。

同社がターゲットする気象疾患について。世界中で3億人を超える人々が、7,000以上の希少疾患のうちの1つまたは複数を抱えて暮らしているといわれています。そのうち、承認された治療法が可能なのは、確認されている希少疾患の内のほんの5%程度です。希少疾患を有する患者が正確な確定診断を受けるまでには約7年かかっているといわれており、様々な医師を10回診察する必要があると推定されています。 上記の現状を打破すべく、同社は、革新的なテクノロジーの応用し、希少疾患用の専門特化した医薬品開発企業として研究開発を行っています。

具体的な事業内容や製品については、現在まだ発表されていないようで、研究および開発途中段階だそうです。この研究および開発に用いているのが、世界中の医薬品不足の特定と予測のためのソリューションを提供しているデータサイエンス企業DrugsIntel (DI)の技術です。これを用いて、この希少疾患の治療開発を実現しようとしている、とのことです。

DrugsIntel (DI)について

  • ビジョンと焦点は、シュロモ・サドゥン博士の論文「世界中で希少疾病用医薬品の発売を成功させるための 6 つの柱」に基づいている

  • MLを使用して過去のデータ、リスク要因、原因データを収集すると、モデルは、指定された科学者によって検証された体系的な研究分析に基づいて有病率の値を予測できる

  • 75か国以上、6,000以上のソースをカバーする医薬品データの集約、処理、統合、展開

EU大手の製薬企業が2社連携し、最先端のテクノロジー技術を持つ企業を巻き込みながら、サンプルも限定的である希少疾患に臨んでいることは興味深いですね。今後、研究および開発が進むことで、これまでレアであったが故に治療法や情報が乏しく苦しんでいた患者および患者家族にとって、大きな展開が期待できそうです。

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