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神戸からのデジタルヘルスレポート #112(臨床支援①)

『神戸からのデジタルヘルスレポート』は、神戸拠点のプロジェクト支援企業・Cobe Associeが提供する、海外のデジタルヘルススタートアップを紹介するマガジンシリーズです。

今年は年末まで全20回で、昨年2022年に創業したデジタルヘルススタートアップを取り上げていきます。毎週木曜日朝配信予定です!

今回は全20回のうち9回目、テーマは「臨床支援①」を取り上げていきます。


1. Prana Thoracic:肺がんを早期発見する低侵襲デバイス

企業名:Prana Thoracic
URL:https://www.pranathoracic.com/
設立年・所在地:2022年・ヒューストン(米国)
直近ラウンド:Non-equity Assistance
調達金額:$6M

Prana THORACIC, Inc.は、肺がんが疑われる肺結節*の早期発見のための低侵襲肺デバイスを開発している、医療機器スタートアップ企業です。

*肺結節とは
胸部エックス線写真では肺は黒っぽく見えて、心臓・血管・横隔膜(筋肉)・背骨・肋骨などは白く見えます。これは正常です。しかし肺に何か病気ができると、黒っぽく見える肺のその部分だけが白っぽく見えるのですが、それが丸い場合を「結節影」と呼びます。
(参照:一般社団法人 日本呼吸器学会

<本サービスの開発背景・現状>
肺がんは、米国におけるがん死亡の主な原因のひとつであり、がんによる死亡全体の約25%を占めています。ほとんどの肺がんは、病気が広がってから遅れて診断されるため、初期の肺結節は診断が困難であり、生存期間が限られてしまっています。 米国では毎年1,400万人を超える患者が肺がんスクリーニングの対象となるものの、実際にスクリーニングを受けている患者は、現在、このうちの5%未満に留まっています。
通常(これまで)の肺のX線もしくはCTスキャンを受け、異常を検知した後の流れは以下です。

  • 針生検:肺結節が少なくとも2㎝以上の場合のみ可能。これほど大きな結節の場合、がんがかなり進行していることを意味する。

  • 手術:検査のための手術。毎年約4万件実施されている。他の侵襲的処置と同様、長期的な回復期間、瘢痕化、感染症、麻酔の合併症などのリスクが伴う。また、手術の内約20%は、はいの良性結節に対しても行われるため、患者にとっては理由なく肺の一部を切除される事態を引き起こすことになる。

  • 経過観察:明らかな「がん」だと判明するまで様子見すること。肺がんは進行が速いため、数か月待つことが治るがんと治らないがんの違いを生み出してしまう。

<本サービスの内容>
同社が開発しているThoraCoreシステムと呼ばれるデバイスは、上記ペインを解決するために開発されています。標的の肺組織を低侵襲で単一ポートで切除するために設計された電気外科器具であり、コンピューター断層撮影の誘導下で肺結節をターゲットにする特殊なアンカーが付いています。創業者であるネイサン氏によると、この装置は双極高周波を利用して切開部を密閉し、出血や空気漏れを最小限に抑えているといいます。現状、より大きな肺結節には、前述の針生検や侵襲手術が適しているものの、外科医は小型および中間サイズの結節を摘出するのに役立つ低侵襲ツールと持っていないそうです。ThoraCoreシステムは、この低侵襲を叶えるデバイスツールとして貴重な存在となり得ると考えられます。

出所:https://www.pranathoracic.com/#The-Solution

同社の企業HP内の記事では、肺がんの確定診断およびバイオマーカー検査に適切な組織を提供できるような状態を目指し、研究開発を進めていることも掲載されています。バイオマーカー検査領域においても、本サービスの影響度は高そうです。

同社は、2023年3月にシリーズ Aの$3Mの調達をしています。また、テキサスがん予防研究所からの$3Mの賞金も用いて、本製品の開発を進めていくそうです。肺がんだけでなく、乳がんなど早期発見に課題のある他部位の早期発見にも応用できる見通しだそうです。

また、同社は、MedTech Innovatorのアクセラレータープログラム2023年の対象企業として選ばれています。(ヒューストンの新興企業4社が選出されており、その1社として選ばれている)

2. Pramana:デジタル病理

企業名:Pramana
URL:https://pramana.ai/
設立年・所在地:2022年・ケンブリッジ(米国)
直近ラウンド:Series A
調達金額:$30M

Pramana, Inc.は"すべての解剖病理学をデジタル化する"を掲げる次世代病理学のデジタル変革を担うヘルステクノロジー企業です。Digital Pathology as a Service (DPaaS)と呼ばれるデジタル病理学ソリューションを提供しています。デジタル化されたガラスのスライドから、AI生成された病理学情報の取得、管理、解釈を可能にする動的な画像ベースの環境をプラットフォームとして提供し、病理医の診断をサポートします。

出所:https://www.labmedica.com/pathology/articles/294792174/first-of-its-kind-ai-enabled-service-digitizes-glass-slides-to-help-labs-create-digital-pathology-repositories.html

以下の画像のように、標準化された画像およびデータ形式で、病理学の診断を高解像度の画像でサポートします。症例を評価する観察者間の病理学者レベルのばらつきを防ぐ効果もあるそうです。

出所:https://pramana.ai/technology

同社は、2016創業のSpectral Insights(2020年4月にnferenceが買収)が前身となっております。 Spectral Insightsの強力なハードウェア機能と nferenceの堅牢なソフトウェア専門知識をうまく統合することにより、2021年10月よりDigital Pathology as a Service (DPaaS)の開発を開始したそうです。

出所:https://pramana.ai/about-us

<デジタル病理学と従来の病理学の違い>
従来、病理学は顕微鏡を使用して患者の組織や臓器を検査することによって研究されてきました。このプロセスは組織学と呼ばれます。しかし、技術の進歩によりデジタル化された画像が病理学に導入され、組織学は現在デジタル病理学と呼ばれる新しいレベルに押し上げられています。
従来の病理診断で課題とされてきたスキャン(顕微鏡ごしではなく、ガラススライドとしての対象病理の画像作成)について、以下の記事でも取り上げられています。よろしければご参照ください。

<病理学プラットフォームを大手と提携し拡大を続ける>
同社は、デジタル病理の変革を進めるため、戦略的パートナーシップを展開しています。

  • Gestalt Diagnostics Inc.:画像管理システムソフトウェアと同社のAIアルゴリズムを組み合わせる取り組み(参考記事

  • Cleveland Clinic:病理スライドのデジタル化、PathAIの機械学習アルゴリズムの開発・改良を行い、研究を推進するとともに、臨床現場における患者の転帰改善を目指す提携

  • Mayo Clinic:500万枚の病理学スライドをデジタル化する複数年の商業契約

3. Guided Clinical Solutions:ヒューマンエラー防止ガイド

企業名:Guided Clinical Solutions
URL:https://www.guidedclinical.com/
設立年・所在地:2022年・ボストン(米国)
直近ラウンド:Venture - Series Unknown
調達金額:$3M

Guided Clinical Solutionsは、手術室における薬剤投与方法の管理と文書化(記録)を行えるソフトウェアを開発している企業です。複雑な手術室における薬剤管理をテクノロジーを用いて管理することで、エラーを防止し、患者のアウトカムの改善に繋げることを目的としています。

<サービス内容>
手術室における薬剤管理については、以下のような問題が実は潜んでいるそうです。

  • 手術の25分の1で投薬エラーを伴っている

  • 40%以上の手術では1つ以上の投薬ミスが発生

  • 投薬ミスの3つに2つは、重篤もしくは生命を脅かすリスクを引き起こす可能性

  • 手術室における投薬ミスから発生する米国の年間被害額は$50億

同社では、上記を解決するために、GuidedORという手術における薬剤管理ソフトウェアを開発しています。本サービスを用いることで得られる効果は以下のような内容が研究結果として公開されています。

  • 投薬ミスの95%を防止

  • 医師はEHRよりも2倍高く評価(GuideORが使いやすいと評価)

  • 医師の手術にかける時間を20%以上削減

  • マウスクリックが50%以上減少

  • コンピューターモニター上での移動距離が50%減少

  • 費用対効果の高さの可能性(米国の年間$50億を超える投薬ミス被害額を防ぐ可能性)

2日間にわたって数十の新製品とともにデモンストレーションを行い、独創性、臨床的重要性、科学的メリット等を麻酔科医の委員会によって審査されたANESTHESIOLOGY 2022にて、同社は見事1位を獲得したようです。本製品(GuidedOR)は、今後医療機関にどんどん展開されることによって、AIを使用してエラーを防止し、医療従事者の効率を向上させ、かつ、コスト削減および患者のアウトカムを改善させることができる、と大きな期待が寄せられています。

4. CalmWave:ICUのアラーム適正化とアラーム疲労の防止

企業名:CalmWave
URL:https://calmwave.ai/
設立年・所在地:2022年・シアトル(米国)
直近ラウンド:Seed
調達金額:$4M

CalmWaveは、AIによって過度なアラートを防ぎ、リアルタイム データと履歴データを使用して適切な処置・対応について医療従事者にお知らせするシステムを開発・提供しています。従来のシステムでは、検知されるたびにアラートが鳴り、医療従事者の「アラート疲労」を引き起こし、燃え尽き症候群を引き起こすという課題を抱えています。本機能では、アラートを適正化し、医療従事者の意思決定に役立つ情報を提供する役割を担っているそうです。

出所:https://calmwave.ai/solution/

ICUに備え付けられているバイタルサイン機器から発せられるアラームは絶え間ないノイズとなり、医療従事者の疲労を招いている現状があります。アラートの内、80~99%が誤検知であり、国立医学図書館で「アラーム疲労」を検索すると、1955 年から現在までに書かれた 492件の論文が見つかり、その圧倒的多数が過去 10年間に発表されているほど、医療従事者にとって大きな負担が生じている問題といえます。 また、常に発せられるアラームに慣れてしまうことにより、特に重要なアラームを見逃してしまい、防げたはずの死亡例が発生してしまっているのも実情です。2005 年から 2008 年にかけて、米国食品医薬品局 (FDA) の製造者およびユーザー施設のデバイス エクスペリエンス (MAUDE) データベースには、監視装置のアラームに関連した患者の死亡に関する 566件の報告が寄せられているそうです。

こちらの記事では、アラーム疲労が要因となり17歳の娘を亡くした両親の例が取り上げられています。このアラーム疲労の事象については、FDAが介入するほどの重要問題とされている点も記事内の記載で確認いただけます。

<創業のきっかけはサバティカル期間のた捜索救助ボランティア>
創業者のRonenは2020年に前職を退職後、2年間のサバティカル期間を過ごす間に参加した捜索救助ボランティアの活動で、医師らから医療従事者のアラーム疲労について知ったそうです。これを機に様々な学術論文を調べ、以下について認識したことが、本サービスの立ち上げのきっかけとなったそうです。

  • 人工呼吸器から注射ポンプに至るまで、さまざまな機器からの警報の 85~99%は誤報か臨床的に重要ではないこと

  • ICU にいる看護師の時間の 35% はアラームへの対応に費やされており、看護師はシフトごとに 1,000 回ものアラームにさらされる可能性があること

  • 上記の状況は、医師や看護師の燃え尽き症候群の一因となるだけでなく、患者の怪我や死亡につながる可能性もあること

<サービス内容:CalmWaveは「静かなICU」
本サービスは、具体的には以下のような、各患者の状態の包括的なスコアと、患者のニーズとアラームの量に基づいてスタッフの作業負荷を調整するためのプラットフォームを提供しています。

  • 各患者に接続されているデバイスからデータを収集し、それを可視化 ユーザーは、個々の患者のビュー、病棟内のすべての患者の概要ビュー、アラームインシデントなどを確認できる

  • システムは、各患者の生理機能に合わせてカスタマイズされた閾値を提案できる 例:患者が喫煙者でベースラインの酸素飽和度の測定値が低い場合、パルスオキシメーターのアラームのしきい値を低く設定することを提案できる ※このシステムは AIを使用して患者のデータを評価し、そこから患者の生理学的状態を学習し、警報敷居値の提案を提供するもの

CalmWave自体はデバイスやアラームを制御しないが、ユーザーが提案の根拠を理解できるように透明なデータを提供することを目的としているそうです。 最終的には、同社は、誤検知なしで誤検知警報を削減し、警報疲労を和らげることで医療従事者の定着を促進することを目指しています。

CalmWaveGeekWire Awardsで最優秀UXデザインを受賞しています。 通常は非常に複雑で煩雑な患者情報 (バイタル サイン、検査室、薬剤、電子医療記録データなど) をシンプルでわかりやすい形式で提供することに重点を置いている同社サービスは、現場の医療従事者に配慮したデザインとして、また、ユーザーと患者に改善されたエクスペリエンスを提供できるとして、評価されているそうです。

5. Dopl Technologies:VRロボット遠隔手術

企業名:Dopl Technologies
URL:https://www.dopltechnologies.com/
設立年・所在地:2022年・シアトル(米国)
直近ラウンド:Pre-Seed
調達金額:$265K

Dopl Technologiesは、VRによるロボット遠隔手術サービスを提供しています。このサービスによって、病院と遠隔地の外科医を接続し、インターネット経由での手術を可能にします。 以下の動画で本サービスを紹介しています。よろしければご覧ください。

本サービスは、医師が仮想空間で作業できる遠隔ロボットプラットフォームのため、研修医等の指導にも用いられています。以下の動画は実際の手術の指導の様子だそうです。少々シュールに見えるかもしれませんが、よろしければご覧ください。

当該サービス(仮想現実 (VR) ベースの手術誘導システム)で、実際の心臓カテーテルアブレーションを行っている例がこちらの記事で紹介されています。高解像度のビデオ送信を必要とせずに、標準のインターネット接続を使用して遠隔地からリアルタイムでストリーミングし成功したそうです。

同社のTwitter上では、上記のYouTube動画やVRの様子(画像)等が紹介されています。よろしければご参照ください。


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