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神戸からのデジタルヘルスレポート #35 (Home Medicines Reviews/HeadSafe/IntuiTap/Arterys/ScalaMed)

『神戸からのデジタルヘルスレポート』は、神戸拠点のプロジェクト支援企業・Cobe Associeが提供する、海外のデジタルヘルススタートアップを紹介するマガジンシリーズです。

いよいよ3月で、年度末追い込みの方も多そうですね....どうぞ体調を崩されませんよう。
レポートは今回で第35回!元気にデジタルヘルススタートアップを紹介していきますー:-)

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1. Home Medicines Reviews:服用薬レビューサービス

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企業名:Ward Medication Management
URL:https://wardmm.com.au/
設立年・所在地:1997年・オーストラリア
直近ラウンド:N/A
調達金額:N/A

まず...↑がWebのファーストビューなんですが、最高ですよね。企業としての世界観をストレートに伝える、あるべきWebの形を見ました...

さて、オーストラリアの高齢者の約半数は薬物の副作用を経験しており、さらに30%もの人が投薬治療のために入院していると言われています。30%!随分高いなという印象です。治療を安定して継続していく上で、自らが服薬している薬にどのような効果があり、リスクとしては何があるのか、さらにはそれが自分にとって適切な薬物なのか、患者自身が知っておくべきです。

Home Medicines Reviewsは、個々の患者が服薬している薬剤を、薬剤師と総合診療医がレビューし適切なものかどうか評価してくれるサービスです。相談を受けた薬剤師がレポートを作成し、かかりつけ医に送信することまでしてくれる。そしてなんと無料。Home Medicines Reviewが推奨する利用シーン・ユーザーは、

・服薬している薬が5種類以上ある
・最近薬の処方が大きく変更になった
・薬の副作用のような症状が出ている
・最近退院した

のような方々。日本でもたくさんいそう...めっちゃいいサービスだなとおもいます。

今では日本でも薬物管理のためのサービスやプラットフォームはいくつかありますが、Home Medicines Reviewsは薬物管理の重要性にいち早く目をつけて1997年から取り組んでいたことに驚きました。同社には薬剤師のメンバーも多く参画しており、まさに自信の問題意識をベースに問題に取り組んでいる、ということなんでしょうね。

また患者向けのサービスだけでなく在宅医療者向けのサービスも展開しはじめています。薬剤を使う患者側だけではなく、それを処方したり管理する側にも焦点をおいて取り組んでいく姿勢は重要だなと思いました。

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あと、なんといってもWebがCoolです。ぜひリンク先見てみてください。

2. HeadSafe:脳機能を瞬時に測定できるデバイス

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企業名:HeadSafe
URL:https://headsafe.com/
設立年・所在地:2017年・オーストラリア
直近ラウンド:N/A
調達金額:N/A

もう一つオーストラリアのスタートアップを。Headsafeは、脳機能を瞬時に測定してくれるデバイス”NUROCHEK”を開発・提供しており、スポーツ中の脳震盪などの急性期に使用することを想定して事業展開を進めています。
このプロダクトはもともとシドニー大学の研究チームが開発していたもので、その商業化・市場投入のためにDr. Adrian Cohenがリードする形でHeadsafeが設立されています。

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仕組みとしては、光を目に当てることで発生する視覚誘導電位を用いて脳の電気活動を評価すると。取得されたデータは、スマートフォンに自動的に送信されクラウドに自動的に保存されます。この仕組は特許取得済み。

脳震盪は、スポーツにおいて起こりやすく、そして恐ろしいものです。頭部外傷によりダメージを受けた脳は、本来の脳に戻るまでに数か月かかると言われており、自覚症状が治まっても脳はきちんと回復していないことを意味しています。その状態で再び脳震盪を起こすと死亡する可能性もあり、認知症や人格/気分の変化、うつ病を含む心理的障害などの長期的な変性脳疾患のリスクを高めることにも繋がります(「セカンドインパクトシンドローム」)。

上記のような課題は、脳震盪を測定する有用な診断ツールがないため見過ごされることが多いとされていました。そこにアプローチしたのがNUROCHEKのチームで、ラグビーチームと提携を結び研究を始めたとのこと。

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大学における研究が、直接的に世の中の役に立つ素晴らしい事例でした。スポーツ現場での、脳震盪による被害者が一人でも減るように早く製品化されることを望むばかりです。

3. IntuiTap:適切な脊椎穿刺の場所を教えてくれるデバイス

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企業名:IntuiTap Medical, Inc
URL:https://www.intuitapmedical.com/
設立年・所在地:2016年・シカゴ
直近ラウンド:Grant(2017年11月)
調達金額:$750K(Mass Challenge, Texas A&M New Venture Competition, MedTech Innovator)

脊髄液の採取や中枢神経系疾患や髄膜の疾患の診断のために行われる「腰椎穿刺」。私自身は経験はないんですが、イメージ画像を見るだけでもその侵襲性の高さがわかります...(私は痛いものが全般苦手です)

こちらの資料にも書かれていますが、患者の姿勢をどう調整するか、どのように部位を特定するかなど、一定難易度が高い手技になります。部位特定のための目安は「左右腸骨稜上縁を結ぶ線(ヤコビー線)が交差する脊柱の第4腰椎を目安に...」とされていますが、その特定も難しそう。

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そんな課題の解決に取り組むのがシカゴのスタートアップ・IntuiTapです。MedTech InnovatorやMass Challengeにも参加しており、Texas A&Mとも提携しているメディカルど真ん中のハードウェアスタートアップ。

このデバイスの基本は、医師が触診によって得る情報を可視化すること。↑の動画にあるように、骨の位置を可視化することで、腰椎穿刺の対象となる腰椎と腰椎の間がどこかなのかを正確に発見できます。

デザインとしてよいなと感じたのが、腰椎穿刺のための注射器を組み込むスポットもデバイス内に備えており、一定の角度で骨の位置を検出しながらそのまま腰椎穿刺ができるということです。これがあれば、正確性だけでなく、救急などで瞬時に腰椎穿刺をしなければいけないときにも有用でしょう。

同社には、アドバイザーとして医師を数名迎えていますが、そのうち2名は救急医。救急という速さ、正確性を求められる現場で働いている医師の視点が、このデバイスを生み出したのではないかなと感じました。ただただ素晴らしい。

4. Arterys:放射線科医が開発した画像診断プラットフォーム

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企業名:Arterys
URL:https://www.arterys.com/
設立年・所在地:2016年・サンフランシスコ
直近ラウンド:Converible Note(2019年7月)
調達金額:$43.7M(Asset Management Ventures, ORI Capital など)

放射線科医は、日々膨大な量の画像を見て診断を行わなければいけません。その診断精度、労働生産性を向上させるためにプラットフォームは重要な役割を果たします。

Arterysは、放射線科医が中心となって開発した放射線科医向け画像診断プラットフォームです。24時間どこからでもアクセスすることが可能で、離れた場所にいる人とも画像についてディスカッションを行うことができ、かつデータ統合もスムーズでセキュリティも万全とのこと。

ここまでならありふれた画像診断プラットフォームなのですが、Arterysの強みは、心臓と肺を対象とした画像診断AIが組み込まれているということ。生の画像を吐き出し、連携するだけではなく、D2D連携や個別の診断を支援するAIも組み合わせているのはアツいですね。さらに↓のAIラインナップを見ると、xRにも乗り出していると。すごい。

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Web上のサンプル画像を見ると、素人の私でもわかる画像の美しさ...!! どこが心臓で、どこが血管かがクリアにわかります。さらに、血流の流れに色を付けた映像も見ることができて、プロフェッショナルであれば最高なレベルなのでは。この診断AIがあれば、医師も放射線科医も10分未満で患者の心臓と胸部を完全に把握することができるとのこと。数値の実績も抜群

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Arterysはさらに脳や胸部などの他の部位に関しても同様の診断AIを開発中。前にTwitterでもつぶやきましたが、米国の1/3の病院が画像診断にAIを活用している時代です。市場の成長に合わせて、こういうスタートアップもどんどん出てきて、成長していくんでしょうね...!! 患者や家族にとっても、いい時代になるはず。

5. ScalaMed:患者の処方箋管理アプリ

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企業名:ScalaMed
URL:https://scalamed.com/
設立年・所在地:2016年・オーストラリア
直近ラウンド:N/A
調達金額:N/A

最後にもう一つ、オーストラリアのスタートアップを。

現状、薬のもらい方といえば、医師・医療機関で処方箋を手渡しで受け取り、それを院外の薬局に直接もっていって薬をもらうというのが一般的です。日本では、お薬手帳を通じて服薬管理をしようとしていますがなかなかうまく行っている感じがしないのが正直なところ。

そのような問題を解決するのが、ScalaMed」という処方箋管理アプリ。

診断を受けているとき、医師にこのアプリを使用していることを伝えると処方箋を自身の携帯に送ってもらえます。そしてその処方箋を自分がかかりつけになっている選択した薬局にアプリ経由で送付して、あとは薬局に自分で取りに行くか自宅に配送されるのを待つだけ。

このアプリの利用前提は、診断を下す・処方箋をだす医療機関がこのサービスを導入していること。そのハードルをこのスタートアップはどうやって乗り越えたんだろう...めっちゃ興味ある。

こういうサービスが広く浸透すれば、アプリ/クラウド上に処方・薬剤情報が蓄積されていくので最高なんですが(だから日本でも多くの会社がスマート処方箋系のサービスを出している)、なかなかそこに至る道は厳しい。このスタートアップがどうやってオーストラリアの医療現場に浸透していったのか、そこにめっちゃ関心があります...!!

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こんな感じで、第35回でした。
noteマガジンにもしてみたので、もしよかったらフォローしてください:-)

応援ありがとうございます!