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鈴木誠也は何がなんでも3割を打ちたいのか?-概数効果からみる打撃傾向分析-

怒涛の2020年シーズンを乗り越え、5年連続3割&25本を達成した鈴木誠也。この記録は広島では初だそうで、鈴木誠也の傑出度の高さがうかがえます。そしてなんと、シーズン最終戦で3打数3安打で打率をぴったりに3割に乗せたのもすごいですね。勝負強さを感じます。

今日は絶対3割を打つマン鈴木誠也が3割にかなりこだわっている可能性について、分析していきます。

四球を選ばない時期があった?

鈴木誠也2020の打席成績を見ていたところ、興味深い期間がありました。

まずは、9/19-29までの間の10試合。
この期間、四球を1つも選んでいません。鈴木誠也ほどの強打者であれば、相手バッテリーもクサイところを攻めるはずですから、四球がないのは不自然に思えます。

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この時期は、打率が3割を越えなくて苦しんでいた時期でもあります。もしかして、打率を3割に乗せることを意識してプレーしていたという可能性はないでしょうか?四球だと打率があがらないので、四球を避けてでも積極的にスイングしたという仮説を考えてみましょう。

つづいて、10/11-22の10試合を見てみましょう。
この期間は11個も四球選んでいます(敬遠を除く)。まるで別人のようなスイング傾向です。この時期は打率も3割を越えているため、目標の打率をキープするために四球を積極的に選んだ、という可能性が考えられるのではないでしょうか。四球を選べば打率が減りませんので。

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すなわち、鈴木誠也の打撃傾向のとして、下のような可能性は考えられないでしょうか?
この仮説を補強するための心理学的バックグラウンドとして、概数効果を紹介いたします。

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概数効果:目標前後で行動が変わる

概数効果(round number effect)はスポーツ大好き行動経済学者のPopeらが唱えた認知バイアスで、「キリのいい数字を目標に行動するため、目標の前後で人間の行動が変化する」することを指します。

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マラソンの記録(Allen,Dechow,Pope & Wu, 2016より)

有名な研究としては上のグラフがあげられます。上の図は述べ900万人のマラソン記録をヒストグラムにしたもの。4時間や5時間ぴったりのところで明確な崖ができているのがわかると思います。

さらなる分析の結果、キリのいい結果を目指して多くの人がペースをあげたり(または下げちゃったり)ということがわかっています。

スクリーンショット 2021-03-22 1.46.12

シーズン終了時の打率(Yashiki & Nakazono, 2020より)

この概数効果は野球でも知られています。例えば、上のヒストグラムは日本プロ野球におけるシーズン終了時の打率です。1つ値が跳ね上がる地点がありますが、これは打率3割となります。3割の打者はたくさんいるのに、.299の打者はほとんどいないという怪奇現象が起きています。

このように、概数効果は明確に観測されることもあり、3割を目安に鈴木誠也のスイング傾向が変わっていても、おかしなことではないと思います。

分析結果:四球率がちょっぴり変わるかも

では、分析をしていきます。
分析データは鈴木誠也の2020、2018、2017年のデータです。なんと2019年は打率3割を下回った時期が数試合しかなかったので対象外です。

この3年について、試合前の打率が「.290-.299の試合」と「.300-.310の試合」を抽出し、鈴木誠也が四球を選ぶ確率を計算します。
試合前の打率を使う理由としては、試合中に打率を計算しているとは想像しづらいからです。

結果は下表の通りです。全ての対象年度において、3割を上回っている試合で、四球を選ぶ確率が高いことがわかりました。3年度を合算すると差は1%ほどしかなく、統計的には有意ではありませんでした。3割を目安にスイング傾向が変わっていないとはいえない…くらいの結果となりました。

しかし、野球は投手と打者の勝負であり、完全に四球率を制御することはできないもの。投球コースとスイング傾向や3ボールからのスイング傾向など、さらなる分析をすることで鈴木誠也の3割へのこだわりがあぶり出される可能性も否定できません。

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まとめ:鈴木誠也は3割が好き

本記事では、概数効果という認知バイアスを援用して、鈴木誠也の3割を基準とした打撃傾向について分析をしてみました。結果としては、3割を下回っている時は四球率が下がり、四球を避けて打率をあげにいっているかも…?くらいの結果になりました。

ぜひ、シーズン中、3割を下回った鈴木誠也が早打ちになったり、3割を越えた鈴木誠也が急に選球しだしたら、本記事を思い出してニヤニヤしてもらればと思います。本記事が、野球観戦の足しになれば幸いです。

出典・参考文献・利用データ

nf3 Baseball Data House
http://nf3.sakura.ne.jp/index.html

Allen, E. J., Dechow, P. M., Pope, D. G., & Wu, G. (2017). Reference-dependent preferences: Evidence from marathon runners. Management Science, 63(6), 1657-1672.

Yashiki, K., & Nakazono, Y. (2020). To Swing or Not to Swing? Reference Point and Professional Baseball Players.

今後、野球がない月曜に週刊で記事を書いていく予定です。
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